【映画雑記】「フォーリング・ダウン」を観て慄く中年。
「フォーリング・ダウン」を観た。
真面目に生きてきた筈が悲惨な境遇に打ちのめされ、怒りが沸点を越えてしまった男と、人生の折り返し地点も過ぎて諦めの中でなんとか踏みとどまっている男の人生がぶつかった一日の話。
前者(劇中では名前はなく仮称:Dフェンス)ははっきりと台詞で説明はされないが、離婚し、おそらくDVか何かで分かれた妻と娘に近づくことを禁じられている。おまけに失業者で不良債務者だ。彼の目的はただ一つ、娘の誕生日を祝うために「家に帰る」ことだ。「家に帰る」ことを邪魔するものを叩きのめしながら暴走する。
一方で後者は今日で退職し、現役を引退することになった警察官。娘を幼くしてなくしており、妻は夫の仕事が抱える重圧からノイローゼになっている。彼は妻にこれ以上負担をかけまいと上司や同僚からの嫌味に耐えながらデスクワークを専門にしている。
そんな男二人の人生が、激突する映画。
生き方不器用な自分はどちらの男もなり得た自分、なり得る自分に見えて苦い気分になるね…。いや、そうはならんでしょ、と思うでしょ?でも、明日は我が身なんですよ、この浮世は。
例えば、昔は「タクシードライバー」のトラビス(デ・ニーロ)が怨念を爆発させる様を観るたび「ざまあみさらせ!」と快哉を叫んだもんですが…。今となっては本作のDフェンスのほうが、人物としてよりリアルに迫るというか、共感性に全く欠けたしょうもないおっさんなのに、自分に跳ね返ってくるものを感じる。所帯持ったからかな…。トラビスはアパートの部屋で一人、孤独に壊れていったけど、Dフェンスは結婚して子どもを持つくらいには普通だ。しかし社会人としてプライドを踏みにじられ、元来の意固地さ、頑固さが仇となり、人との関係性の中で壊れていった。俺の心のなかにある微かな対人恐怖が疼いてしまうぜ。自分もそうならない保証はないからねぇ…。
もとい、今回は昨年放送のテレ東「午後のロードショー」の録画を見直してたんですが、小川真司氏、坂口芳貞氏主演両名の吹替が最高でした。自分はゴールデン洋画劇場で「トロン」を見て以来、小川真司氏の洋画吹替のファンなのですが、本作でも自分はおかしくないと信じているおかしい奴っぷりが最高です。マイケル・ダグラスの演技には「俺がおかしいはずがない、俺は家に帰りたいだけなのに」という怒りと臆病さと不安が入り混じった感じがあって、それがちゃんと小川氏の声に出ているんですよね。凄い。他人の子どもを傷つけたかもしれないと焦るとことかいい芝居してます。自信が揺らぐ瞬間の打たれ弱さっぷりも素晴らしい。
観たことない人にかなりおすすめですが、できればテレビ版の吹替がおすすめですね。
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