From Walk on the Wild Side to Halloween Parade

ずいぶん昔だけど一度だけニューヨークに行ったことがある。
9月の中旬くらいだったか。友人がアトランタに留学してて、その頃知り合った女の子と結婚するというので、披露宴に呼ばれたからだ。
その女の子が住んでるところがアメリカのずいぶん北、カナダに近いところで、せっかく行くのならニューヨークに行きたいと思ったのだ。
披露宴とニューヨーク、合わせて一週間くらいだったと思う。ツアーではなく自分たちで予定を組んでの日程だったので、高くついたし、当然だがずっと英語での会話で、身体もだが、めちゃくちゃ脳みそが疲れた。日本に帰る前の日には、もう英語は嫌だ!とさえ思った(笑)。日本語で考え、それを英語に翻訳してしゃべるのだから、当たり前だが。
ラガーディア空港に着いて、そこからタクシーに乗ってマンハッタンのホテルまで行った。タクシードライバーに発音がきれいだとほめられたのは嬉しかった。
ドライバーがたくさんいろんなこと教えてくれた。その中でもダントツで良かったエピソードは、信号でタクシーが止まったとき、「この辺りはドラッグストリートだよ」って言われたときだ。窓の外を見たら、道端にひとが倒れてたり、何かを探してうろうろしてるひとや、たむろしてるひとたちがいて、ニューヨークに来たんだあ、ってなんか感動した。

マンハッタンは、南から北へ上がっていく坂の街だった。3日間くらいいただろうか。地下鉄やバス、タクシーを駆使して、いろんなところに行った。
メトロポリタン美術館やMOMAにグッゲンハイム美術館。MOMAで初めて草間彌生の作品を見たときの感動は忘れられない。SOHOでは路上のレコード屋でレコ漁りをしたり、もちろんジョン・レノンが住んでたダコタ・アパートやセントラル・パーク(ほんとにリスがいて感動したよ!)のストロベリー・フィールズ、思いっきり満喫した。
ずっと天気が良かった。セントラル・パークのベンチで見上げた空の青さと高さは、今でも憶えている。
それから、どうしてもブルックリンに行きたくて(スパイク・リーの影響大)地下鉄に乗ったら、ブルックリンに近づくにつれて、電車の中の空気や雰囲気が変わっていった。明らかに白人が少なくなり、黒人が増えていく。
ブルックリン駅について地上に出たら、酔いつぶれた爺さんが横たわっていて警察官が2人ほどで囲んでた。ブルックリンに来たんだって変に感動したし、住宅街を歩いてると、まるで映画のセットの中に紛れ込んだような気がしてもう最高だった。ホテルは素泊まりだったので、ホテルの近くのスーパーマーケットに次の日の朝食を買いに行ったりもした。
すこし気を付けて街を見ると、スーパーマーケットの店員とかタクシードライバーやマックの店員などはカラードばかりだ。白人を見かけることはなかった。明らかに階級はあるんだなあって思ったし、スーパーマーケットで買い物をしたときは、日本人がレバーパテなんか買ってるって、店員がぼくらをからかっているのも分かった。
ホテル近くのイタリアン・レストランやベトナム料理店なんかにも行って、出てくる料理の量の多さにびっくりしたのは言うまでもない。店員のひとにも、同じ料理を2つ注文しようとしたら、絶対ひとつでいいとかも言われたなあ。
とにかく街の空気や匂い、ざわつき、とても心地よかった。

ルー・リードの Walk on the Wild Sideだ。
マンハッタンに居る間ずっと頭の中で鳴ってた。よく言われてることだが、あの曲はマンハッタンのひとが街を歩くテンポだ。みんな大股でぐんぐん歩いてる。
ドラァグクイーンが公衆電話で電話をかけてるとこを見たときは、思わず「ホリーだ!」って声が出そうになった(笑)。フロリダからヒッチハイクで眉毛や脛毛を剃りながらやってきたんだろうか?とか馬鹿な妄想を駆り立てられた。
そんなこともあったからか、マンハッタンっていう街の歌だなあって実感した。曲のテンポも、歌詞も、曲の持つ空気感まで。
ぼくが行った頃は、バスや地下鉄に乗ることができるくらい治安も良くなってたけど、Walk on the Wild Sideができた頃のマンハッタンはもっとひりひりした街だったんだろうなあ、とか思いをめぐらせていた。
ある意味ローカルな歌なんだけど、そのローカルさはすごく大切な気がしてる。ひとが生きて実感できるのは、せいぜい半径500メートルくらいの世界じゃないか。そこで生まれる歌や表現が届いたとき、届いたひとの想像力を刺激する。そのひとの世界「観」が広がるのは、きっとそんな表現に触れたときだ。
アルバム『NEW YORK』だってそうだ。ルー・リードってほんとにマンハッタンのひとだなあって思った。全部マンハッタンの歌だと思うけど、特にHalloween Paradeを聴くと、マンハッタンに行ったときのことを思い出す。
Walk on the Wild Sideみたいに色んなひとが歌の中を去来する。
Walk on the Wild Sideが街の喧騒の中を歩きながら作った歌だとすると、Halloween Paradeは椅子に座って街を眺めながら作った歌のように思う。

This celebration somehow gets me down
Especially when I see you"re not around
この祝祭はなぜかぼくの気を沈ませる
特に君がここにいないと

Halloween Paradeのこの歌詞で言われてる君は、ホリーやキャンディ、リトル・ジョーにシュガー・プラム・フェアリー、ジャッキーに思えて仕方ない。

80年代、アメリカのゲイ・コミュニティにエイズが襲い掛かる。
Halloween Paradeはきっと彼らへの鎮魂歌だ。


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