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5:45-6:45

 2023年4月15日、海辺を歩いていた。
 工業地帯であるその人口の入江には太平洋から訪れたかの国のタンカーが停まっている。
 地球における時間には時差と呼ばれるものがある。習った頃からいまいち感覚として理解できない。地球を割るように引かれた子午線たち。球体である地球に日が当たらない部分ができるのだから各国で時間が違うことは当然だが、実際に子午線をまたいだ時に何か変化があるかといわれるとそんなことはないだろう。
 四六時中凪いでいるその入り江を歩いている時それに出会った。
 湾から流れ込む水は多種多様なものを世界中から運んでくる。トレーディングカード、ハングル語で表記のあるお菓子のゴミ、ペットボトル、プラスドライバー。なんてことのないガラクタたち。その中に目をひいたものがあった。時計だ。新幹線の蓋がついた時計だった。子供の頃に浸かっていた巾着袋に描いてあったようなデフォルメされた新幹線の蓋が付いている時計。遊びに来た誰かが忘れていったのだろうか、砂浜の浅いところに転がっていた。ダメになっていると思いながらも開けずにはいられなかった。どうみても防水には見えないその時計ははっきりと時刻を示している。無機質なデジタル表記で5:45と表示されていた。現在時刻6:45。その時計は1時間前にいた。濡れたことで表示が狂ったのか、ちょうど1時間前に止まってしまったのかはわからない。もしかしたら海中では時の流れが地上とは異なるのかもしれない。
 不変だと思っていた時間の流れが崩れていった。世界へと繋がる海への静かな入口で誰かの時間が凪いでいた。

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