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【ウディコン】圏外の上にも三年

 まず、私という制作者が大変恵まれた人間であることを前提とさせてください。皆様の感想なしに私は存在できません。
 次に、これから書く内容は自分語りです。自分が生きた証を文書として残す目的でもあります。
 創作論を語るのは、個人的には好きではないのですが、もしも私の考えが今後上位を目指す皆様の礎になるなら、と思い、今回筆を執るに至りました。
 また、この記事において、誰かを傷つける意図がないということを伝えておきます。
 それでも良ければ。


はじめに

WOLF RPGエディター コンテスト 第15回結果発表 (silversecond.com)

 縁があって、第15回ウディコンで総合6位を獲りました。物語性2位というありがたい副賞までいただけて、思わず叫んでしまいました。一歩間違えれば狼だと勘違いされたでしょう。
 総合6位というと、『CAPTCHA』『ゴルガン』『星空ダイヤグラム』といった心に残るゲームが獲る順位というイメージがあったので、今でも分不相応ではないか、夜道で刺されるのではないか、と怯えています。
 また、今年の『零落と紺碧の海神』で私を知ってくださったプレイヤー様の中で、過去作も遊びたいと仰ってくれた方がいらっしゃいました。何を隠そう、私は第13回ウディコンから参加しています。そちらのページに飛ぶことで、過去作『Daylight』『キョーカマン~蒼い鳥の唄~』を遊べます。

 さて、ここからが本題です。2年前のウディコンに参加した『Daylight』『キョーカマン~蒼い鳥の唄~』の順位をお教えします。
 63作品中、43位と51位です。分かりやすい表現を用いますと、圏外です。

一年目:Daylight, キョーカマン

 話は2020年、皆様が第12回ウディコンに熱中している時期に遡ります。当時の私は高校1年生で、コロナによる休校期間を持て余していました。そのとき、とある理由で「ゲームを作ろう」と思ったのです。
 とある理由とは、某氏の「自作ゲームを自分でプレイ」という動画を観たことです。氏が使用していたツールが「WOLF RPGエディター」なるもので、調べてみるに無料らしいです。
 ただ、ウディタが

「わあ、RPGがカンタンに作れるんだね!」と目をキラキラさせながら寄ってきたゲーム制作初心者さんの夢を片っ端から打ち砕く暗黒のツールです。

 ということは承知していました。事実、中学2年生の頃に一度触って挫折しています。しかしながら、高校生になった今なら行けるのではないか、と子供じみた無鉄砲でフリーゲーム制作者の道に足を踏み入れました。そのときに制作した作品群については、ここでは特に言及しません(宣伝目的の記事ではないので)。

 2021年を迎えても、未だにコロナの勢いは収まることを知りません。私は水泳や合唱がとりわけ得意な人間だったのですが、水泳や合唱だけではなく、文化祭も体育祭もなくなったため、自分の得意なものを誰にも知られずに1年を過ごしました。
 ただ、ゲーム制作は別でした。家でパソコンを触る行為に、病原体が干渉してくることはありません。何にも妨げられずに、ただ純粋にゲームを作ることは本当に楽しかったものです。

 ウディコンの存在を知ったのは、2020年の夏です。私がゲームを作るきっかけとなった某氏が参加していたのを知って「じゃあ、次の第13回で私も参加してみよう」と奮い立ったわけです。
 当時は、自分のゲームの強みや面白さなんか分からなくて、ただただ「自分が作ったから」という理由で最高のゲームだと思っていました。自分のやりたいものを作って、自分の価値観で表現して、自分だけの世界を構築しました。
 だから、私がウディコンに出れば良い順位が付くだろう、と冗談抜きで考えていました。世界の広さを知らなかったものですから。

 ウディコンという晴れ舞台で、どうしても公開したい作品がありました。白い髪の主人公が、友達と共に敵を打ち倒す物語。小さな頃からずっと温めてきた物語です。これは『Daylight』という名前のゲームです。

 また、『キョーカマン』というゲームがありました。高校1年生の頃から作り続けていたシリーズもので、自分のゲームの中で初めて実況された思い出のゲームでもあります。これの集大成をウディコンで公開しようと思い立ちました。

 当時の私は、自分の力量が世界の全てだと思っていたものです。

 私が池の中の蛙だと知るのに、多くの時間は要りませんでした。投稿された作品群には、目を見張る画期的なシステムや、商業用にも劣らぬグラフィック、更に不満のフの字もない遊びやすさがありました。
 すぐに「敵わない」と思いました。何を隠そう、私が最初に触ったゲームは、後の総合6位『ゴルガン』だったのですから。

 それでも、素直に負けたと思えないほどには傲慢だったものです。Twitterでウディコンの感想が流れる中、自作品の話題がなかったとしても「まあそんなものか」と思っていました。「頑張ったんだから報われる」とも思っていました。元々体育会系にいた人間ですから、「努力」が最も美しいと信じていたのです。
 矛盾を孕んだ話です。他の皆様も努力していたというのに、その事実から目を背けていたのです。

 『Daylight』『キョーカマン~蒼い鳥の唄~』に順位は付きませんでした(実際には順位があるのですが、ホームページで表示されなかったということです)。
 私だけの空想は、結局私だけの空想だったわけです。それが何を指すかは簡単な話で、つまりは思い上がりでした。いくら私が努力しようと、私が生まれる前から努力している方々もいるのです。手で掬ったら砂のようにこぼれるような努力を、私は「努力だ」と誇示していました。
 それなら、一生敵うわけないじゃないか。自分を揶揄するばかりで、好成績を収めた皆様に「おめでとう」の一言も言えない私は、やはり子供だったように思えます。
 このように不貞腐れた私を救ってくれたのは、それでも私の作品を評価してくださった皆様の言葉と、「物語性部門16位」の称号でした。

二年目:Megalopolis

「やりたいことを表現しろ」と語る方々がいます。実際理にかなっているとは思います。利益の出ない活動なのですから、自分のやりたいことや性癖を詰め込まないと、作品を生み出す理由はありません。
 私が公の場であまり創作論を語らないのは、「やりたいことを詰め込んではいけない」と背反する意見を持っているからです。第15回を終えた今でも、その意見は変わっていません。ただ、この記事でアレコレ語る必要性を感じなかったので、ひとまず「やりたいことを詰め込まない」の結果が、第14回ウディコンの『Megalopolis』だと言っておきましょう。

 第13回で圏外となってしまった私は、まず過去のウディコンのゲームを遊び、傾向を分析することにしました。現在と同じ審査方式となった第4回から、第13回まで、順位関係なしにとにかく遊びました。そのときに出会った『スポンサーガ』『血の穢れを乗り越えて・・・』『電子ゲームブック 自由落下』『フラグメントワールド』に感動したわけですが、それはまた別の機会で。
 様々なゲームを遊んで最初に感じたのは「ウディタって基本システムじゃなくてもゲームが作れるんだ」という初歩的なことでした。どれもこれも多様性があって、自由で、なにより面白かった。周りに目を向けずに、自分の作品にしか目がなかったからこそ、自分は圏外になってしまったのだと改めて思いました。

 次に、他者から見た自分を分析しました。参考にしたのは「ゲームの配信」です。動画ではないので、配信者様が感じたことがより伝わりやすくなっています。その分作品の欠点も挙げられる可能性は高いでしょうが、今となっては感想の存在自体にありがたさを覚えています。傷つかずして、よりよい作品が出来上がるわけないでしょうから。
 また、narratologyさんの全作品レビューには大変助けられました。話題性のある作品ばかりではなく、作品一つ一つに目を向けてくださっており、ただただ褒めているわけではないからこそ、次に活かせることがしっかり書いてあります。何度も見返して、『Daylight』『キョーカマン~蒼い鳥の唄~』の欠点を書き連ねました。

『Daylight』の反省点は、システムに関する不満点が多く見受けられたことと、サムネイルに惹かれなかったこと。『キョーカマン~蒼い鳥の唄~』の反省点は、シリーズものであるがゆえにプレイヤーの皆様を置いてきぼりにしてしまったことと、デフォチップに不満を覚えられたことです。
 次回のウディコンまでに、この欠点をなくすことにしました。

 ウディコンに投稿された作品群には、目を見張る画期的なシステムや、商業用にも劣らぬグラフィック、更に不満のフの字もない遊びやすさがありました。どれもこれも、制作者の皆様が努力して手に入れた能力です。
 努力していない私には到底手に入らない、と卑下するわけではありませんが、少なくとも1年で皆様に追いつけるとは思っていません。そのとき、ふと思い出したのが「物語性部門16位」の称号でした。

 ここにきて、ようやく気が付きました。確かに作品は圏外だったけれども、何年も温めてきた物語は評価されていたのです。
 システムも画像も遊びやすさもダメなら、最後に残された物語を徹底的に伸ばそう。皆様が認めてくれた物語で、皆様の評価が正しかったことを証明しよう。
 そう思い立ってからは、高校の図書館に通い詰める日々が続きました。とにかく小説を読み漁ることにしたのです。片っ端から読みました。ジャンル、レーベル、ページ数も無視して、読めるだけ読むことにしました。
 1週間に4冊ほどでしょうか。自分でも覚えていませんが、この数値が皆様の参考になれば幸いです。
 自分の部屋で単行本を開きながら、物語は平等だと思ったものです。システムも画像も遊びやすさも、優れたものが評価される。しかし物語だけは、その失敗すらも評価される。なぜなら失敗は体験しないと味わうことができないから。

 学ランが小さくなった頃に、私は高校3年生になりました。コロナの規制は少しずつなくなり、文化祭は2日間開かれました。これが本来の高校生活だったのだと思うと同時に、自分にとっての祭りはウディコンだったのだと気付きました。
 それから7月を迎えて、同級生が受験勉強に励む時期になりました。当の私は、ウディコンが終わってから専念するつもりだったので、まだ余裕ぶっていたようです。それはさておき。

 自分の過去作から良いところだけを抜粋し、更に改良を重ねました。
 リトライ性の重視や絶対にクリアできるゲームバランスで『Daylight』の反省を解決しながら、ノンフィールドでそもそもマップチップを設置しないという荒業で『キョーカマン~蒼い鳥の唄~』の欠点も潰し、加えて『常闇のガンスリンガー』で高評価だったMP回復制戦闘システムを採用したことで、去年よりも確かな自信をもって、第14回ウディコンを迎えることができました。
 もちろん、私にも潰したくないこだわりがありましたが、それ以上に、作品を評価してくれた皆様の期待を裏切ることが本当に心苦しかった。
 やりたいことを詰め込まずに、ただただ上の順位を目指した結果。
 それが『Megalopolis』です。

 反応は去年よりも多かったように思えます(私は感想をブックマークに登録する変態なのですが、それを見ても第13回より好評でした)。中には去年の『Daylight』が好きで遊んだ、と仰る方々もいらっしゃいました。嬉しかったものです。『Daylight』は誰からも忘れられてしまったと思っていたのですから。

 白状しますと『Megalopolis』は物語性を取るためのゲームです。『Daylight』で褒められた言い回しや表現力を活用しながらも、しかし雰囲気を壊さないように。壮大な世界観ながらも、しかし重点は人間の心理描写に。『スポンサーガ』や『血の穢れを乗り越えて・・・』といった物語性の高いゲームの傾向を参考にした結果、このような物語が完成しました。

 結論から申し上げますと、『Megalopolis』は総合17位、物語性6位でした。去年よりも格段に評価されて、名作が跋扈していた第14回でよく健闘してくれたと思っています。
 しかし、SNSでとあるコメントを見つけたため、素直に喜ぶことができませんでした。

戦闘はゴルガンと同じだ。

全文ママではありません。感想をいただけたこと自体は本当に感謝しています。

 前述した通り、戦闘システムは『常闇のガンスリンガー』という自作ゲームからです。それも第13回ウディコンより前に公開されたゲームです。しかし『ゴルガン』の名前が出てきてしまったことが、本当に本当に悔しかった。私自身が『ゴルガン』を愛していたから、なおさら無念でした。
 もしかしたら、好きだったあまり流されていた部分があるのかもしれません。それでも「上位のゲームのシステムを引用して順位を取った制作者」と指を指されているようで、無性に心残りだったことを覚えています。

 自分はなぜゲームを作っているのか。何度も考えました。戦闘、つまりシステムが同じなら、熱中度も遊びやすさも意味がないのかもしれない。
 そう思ったときに目に入ったのは、やはり物語性の順位でした。
 物語は平等であると、改めて感じたものです。

三年目:零落と紺碧の海神

 第14回ウディコンを終えた私は、受験勉強もままならず、入院生活を送っていました。退院して、ウディコンのホームページを眺めながら「受験でもゲームでも、誰にも追いつけないだろうな」と自分勝手に憔悴していたものです。

 母から「自分一人で抱え込む性格だ」と言われたことがあります。自分のことなど宇宙よりも分からないですが、生みの親がいうのですから間違いないのでしょう。されど、抱え込む私だからこそ、物語が生み出せるのだと思っています。ごちゃごちゃになった感情すらも、物語は物語と呼んでくれるみたいです。

『Megalopolis』の反省点を挙げたとき、「文章が稚拙」というものがありました。「ストーリーは惹き込まれた」という意見は多々あったのですが、文章については「人を選ぶ」と、やんわり未熟さを教えてくださるコメントが少々。
 あとはゲームの難易度です。『Daylight』然り、私のゲームを好んでくださる方々は高難易度ゲームが好きな傾向にあるようで、それが『Megalopolis』では悪い方向に働いてしまったようです。

 システム面は後々考えるとして、まずは物語性にかかわる文章の強化を最優先しました。今思えば、本を読むだけで書くことはしなかったのですから、頭にある空想をアウトプットすることに慣れていなかったのかもしれません。

 そこで、この1年間は小説を勉強することにしました。比較対象として、高校1年生の頃に書いた小説と、大学1年生の最近書いた小説を載せておきます。

こちらが前者。
キョーカマン~導かれし厨学生~(阿部狐) - カクヨム (kakuyomu.jp)

こちらが後者。
夏神楽殺人事件(阿部狐) - カクヨム (kakuyomu.jp)

 1年で合計600,000字くらい書きました(30,000字程度の短編を7作、200,000字程度の長編を2作ほど)。ざっくりいうと、単行本2冊くらい出せる文章量です。
 他にも、高校生向けの文学賞で出会った仲間たちと議論したり、大学の文藝部で感想をいただいたりして、文章への理解を深めていきました。

 これは個人的な話ですが、元々第15回ウディコンで引退する予定でした。というのも、物語しか武器がないのならば、小説だけを書いておけばいいと思っていたからです。
 もっとも、参加していた制作者様から「来年も出よう!」と声をかけられたため、引退は撤回していますが。

 引退覚悟の第15回。欠点だった難易度をゲームオーバーの廃止で解決し、今まで遊んでくださった皆様に感謝を伝えるために、『零落と紺碧の海神』を公開しました。この引退覚悟というのは決して嘘ではなく、私の集大成が込められています。その証拠として、以下の道具を挙げておきましょう。全て私の過去作、つまり自由帳の中身です。

「キョーカスマッシュ」……『キョーカマン』より
「宇野の蜃気楼」……『キョーカマン』より
「ペペロンドラゴン」……『キョーカマン』より
「冥王剣フリードリヒ」……『忘却のサザンクロス』より
「常闇のガンスリンガー」……『常闇のガンスリンガー』より
「妖刀・小夜左文字」……『グスタフ戦記』より
「皇帝」……『グスタフ戦記』より
「全ての闇よ、いざ還らん」……『Daylight』より
「終章『Daylight』」……『Daylight』より
「邂逅剣マリアテレジア」……『Daylight』より
「燃えたぎる情熱の踊り」……『Daylight』より
「魔王」……『Daylight』より
「タイムジャック」……『タイムリーパー』より
「虚剣サマーヘレン」……『Megalopolis』より
「漆黒なる廻都の聲」……『Megalopolis』より
「タクマ」……『Megalopolis』より

 驚くべきことに、これら全ての出典を把握していたプレイヤー様がいらっしゃいました。1年前、自分はなぜゲームを作っているのかと何度も考えたものですが、もしかしたら、私を見つけてくれた皆様に恩返しをするためだったのかもしれません。

 システムこそ1週間ほどで構築したとはいえ、文章の勉強を含めると、それ以上の時間を費やした作品となります。『Megalopolis』よりもボリュームがない分、構成力には頼れません。スチル絵を描く画力もないため、文章表現だけで物語性を取る必要があり、去年よりも厳しい戦いになるだろうとは予想していました。

 しかしながら、予想は大きく外れました。結果は総合6位。2年前に「敵わない」と思っていた『ゴルガン』と同じ順位でした。このとき、どれほどの経験が『ゴルガン』を作り上げたのか、ほんの少しだけ分かった気がしました。

 ずっと私の味方だった物語性は、なんと2位。弱点だった文章は、一番の長所に変わりました。いただいたコメントを一部抜粋いたします。

・とにかく文章がすごい。磯の匂いがする文章を読んだのは、この作品が初めてです。
・短編小説を読んだかのような読後感。
・この作者さんの文章は物語の深さを感じます。
・飽きずに最後まで読み進められる文章と物語。
・物語が良くて、文章が浸れる深い味わいがあった。
・夏の切ない雰囲気と文章に惹かれて、さらっと終わりまでプレイできてしまった。
・ストーリーの大筋は出だしで見当がつきますが、それをものともしない文章力がひときわ魅力的です。

嬉しすぎて、たくさん抜粋しています。

 いただいたコメントは全てが宝物です。ありがとうございます。
 こちらのページで全てのコメントを返しておりますので、もし時間がよろしければこちらもご覧ください。大事な大事な宝箱です。

【第15回ウディコン】『零落と紺碧の海神』コメント返し&雑記|阿部狐 (note.com)

おわりに

「自分の武器を自覚すること」。これは、私が尊敬する作家さんからいただいた言葉です。この言葉をバネにして、努力を続けてきました。これからもです。この順位に満足せず、文章に磨きをかけてまいります。

 ここまで長々と書き連ねてきましたが、圏外から上の順位を狙おうとした私の経験が、他の制作者様の背中を押すことになれば幸いです。
 最後になりますが、第15回ウディコン本当にお疲れ様でした。
 主催のSmokingWOLF様、制作者の皆様、プレイヤーの皆様に深く感謝申し上げます。本当にありがとうございました。

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