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助けっぱなし、助けられっぱなし

先日、メンタルヘルスに関する調査報告書を読んだ。その中で、ある大学に勤務する精神科医が興味深い研究を紹介していた。

「自殺希少地域」

これは岡まゆみさんが、自殺が少ない地域と自殺の多い地域を比較して明らかにしたという研究で、かなり有名らしい。

昨年の日本の自殺者数は約21,000人。年間これだけの方が自ら命を絶っている。自殺者数は平成15年の3.4万人をピークに減少傾向にある。しかしコロナ禍で私たちを取り巻く状況が一変し、その選択をした方もいたのだろうと推測できる。(参考資料:https://www.mhlw.go.jp/content/R3kakutei01.pdf

コロナ禍で大学生活を始めた学生たちの理解の一助になればと、私はこの研究を元に書かれた本を読んでみることにした。

この本には、自殺希少地域がどれほど住民同士の優しく、温かな関わりの中で生まれるのかという答えを期待していた。が、それはすぐに違うのだということがわかる。

人間関係は疎で多。緊密だと人間関係は少なくなる。

先に紹介した報告書にもこんな言葉がある。

「絆は強すぎてもストレスですし、弱すぎてもいざという時に助けてもらえない。」

絆は強すぎてもだめなのか?

そんなことを考えつつこの本を一気に読み切った。

読んでみて思った。
自殺希少地域の人間関係は驚くほどドライだな、というのが私の感想だ。
しかしいざというときは、徹底的に人を助ける。自分ができないことは誰かに相談する。その問題が解決するまで関わる。

困っている相手がどう思っているかは問題ではなく、自分がその人を助けたいから助けるのだ。

これ以外にも色々な具体例が紹介されていた。「田舎特有・・・」と、ど田舎出身の私は思ったが、田舎が全部そうとは限らない。

もちろん「自殺希少地域」と言われている場所でも自殺する人がいたり、精神を病む人もいる。陰口も悪口もある。噂は一気に集落しゅうらく中に広がる。しかし他地域に比べて圧倒的に自殺が少ないのは、連綿と続くその地域社会の『人との関わり方』にヒントがある。

そういった地域の特徴として興味深かったのは、地域の中で多様性が重視されていることである。

「人生は何かあるもんだ」

という考えが前提にある。そうなのだ、人生っていろいろあるものだ。
このように人生の多様性、人の多様性を当たり前に受け入れている地域は、排他的ではなく、人を助ける準備がマインドの中に備わっている。

だからいざというときにすぐに最初の一歩がでるのだなぁと、本を読みながら感じた。今回のタイトルを『助けっぱなし、助けられっぱなし』としたが、裏を返せば、助け慣れているし、助けられ・・慣れている。

何度も本を読み返し思ったことがある。これは「綱引き」に似ている。
運動会での綱引きを思い出して欲しい。
始まる前は各々に準備をしたり、気合いを入れたりする。綱も弛んでいる。しかしいざ競技がはじまると、みんなで力を合わせ一気に引き上げる。その団結力と綱のテンションのかかり方が、人間同士の絆に似ていると感じた。


強すぎず、弱すぎない緩やかな絆がある場所

普段は他人に対しドライで、関心があまりない。
しかし困ったときはちゃんと話を聞いてくれる。
そんな地域が日本には何カ所か存在している。


自分の昨年から今年のことを振り返ってみる。
希死念慮が強かった私は、友人やしばらく疎遠だった知り合いの医師やカウンセラーの先生にSOSを出した。みんなあっという間に力を貸してくれ、長時間電話に付き合ってくれたり、具体的な解決案を提案してくれたり、時間調整をしてくれた。自分にSOSを出せる力があったことはもちろんだが、周囲の人たちが、私の優先順位をその時高めてくれたのだと思っている。そして解決すれば、これまでと同じように「強すぎず弱すぎない連帯」の中に私たちは存在している。

日本には実際に「自殺希少地域」は存在している。いや、時代の変化とともにこういった地域はすでに消滅したのかもしれない。
しかし本にあるようないくつかの条件を兼ね備えると、他地域でも自殺を減らすことができるのではないか、と浅はかにも思ってしまった。

絆とは強くてはならないもの、という固定概念をぶち破ってくれたという意味で、報告書にもこの本にも感謝をしたい。

「自殺希少地域」に関する研究が進み、組織、共同体、社会全体でこのしくみを備えていけば、もっと生きやすい世の中になるような気がする。



#読書の秋2022











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