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蜃気楼的世界観1

 進路希望調査の提出期限が迫っていた。

 高く昇っていた太陽はすでに傾き、かげっていく最後の光で教室を斜めに照らし出している。私は一人席に座り、暮れていく景色を眺めていた。

 綺麗に拭きあげられた黒板、夕陽を受けてオレンジ色を放つ机、長く伸びる影。開け放たれた窓から吹きこんだ風が、白いカーテンを揺らして通り過ぎた。窓の外から部活のにぎわった声が上ってくる。

誘われるように外へ出た。

 掃き出し窓を開けてベランダに出る。校舎の三階は、見晴らしも風通しも良かった。吹いてきた風が私の長い髪をいて通りすぎる。

 優しい風だった。

 柵に手をかけた。初秋の風に冷やされて、ぬるくも冷たくもない丁度良い温度。沈んでいく夕陽が透き通るような空を洗っていた。目を細めると、視界に入るのは太陽の光だけになる。夕陽が光を強くして、世界を覆い尽くして消してしまう――ありもしない錯覚が私をとらえる。

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