![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/65690232/rectangle_large_type_2_e2ff5cf4d0b173c5925387d430297160.png?width=1200)
蜃気楼的世界観6
目を開けると、紫色の星空と白い花畑。葉擦れの音が耳の奥までくすぐって、私の中にわだかまる感情をいっとき忘れさせてくれる。
「本当にこれで良いのか」
声をかけられて、景色から視線を戻した。
向こうに暁が立っていた。赤いスカートを風になびかせて、私をじっと見つめている。両手に持っていたはずの剣はなかった。
「暁……? ここは」
「お前は本当にこれで良いのか、と聞いている」
断定的で、強い口調は変わらない。しかし今の暁には、私と対話しようという雰囲気があった。
投げかけられた問いを、自分の内で問い返す。
私は、本当にこれで良いのか。相手の良いように踏みにじられ、なじられて、負けようとしているままで。
「世界が終わろうとしている。二度目はない」
暁は独り言のように喋る。まだ返事を求められていない気がして、私は発せられる言葉にただ聞き入る。
「お前がそこまで及び腰だとは思わなかった。以前はこんなではなかったはずだ。お前は何を失った?」
問いかけられて、考える。いや、考える前に答えの方が浮かびあがってきた。
いつもなら、浮かんだものをどう伝えれば良いか迷ってしまうところだ。けれどここでは、なぜか自分の心を話すことが楽で自然だった。
「……私にも分からない。クーガが、私は何かを忘れている、って言ったの。とても大切なこと。だから取り戻すために、ここへ来た」
「ならば、何故道半ばで終わりを受け容れようとしている?」
「だって……もう疲れたよ、こんな世界」
うずくまって頭を抱える。
「辛いの。期待に応えられないことが。私に何を求めているかは分かるのに、応えようとすると『違う』と思ってしまう。それが苦しい。期待に応えなきゃ。言われた通りに――でも、心がついてこないんだよ。
自分で考えるなんて無駄なこと。『失敗』に近くなる。私は『失敗』したくない。『間違い』たくない。だから」
「だから、諦めるのか?」
言おうとした言葉を跳ね返される。諦めることを、失敗を避けようとすることを受け容れてもらえない。
だったら、私はどうしたらいいの。
近づいた気配に顔を上げる。暁が私を見下ろす格好で立っていた。
肩に機械でない方の手が置かれる。力を込められるまま、立ち上がっていた。
「では、言い方を変えよう。ここで諦めるなど情けない。見損なったぞ、スズネ」
「えっ……?」
「私はお前に期待する。心の命じるままに生き延びろ。私に抗え。真実を取り戻すまで、諦めることなど許さない」
「そんな……」
うろたえた。期待という言葉で支えられながら、けれど手を放される。自分で考えることを求められている。でも。でも。
「でも、もし間違えたら。取り返しのつかない失敗をしてしまったら……」
「くどい。残された時間は少ない。もうすぐ私は引き戻される。影の眠りの中に。だが、私の期待は変わらない。生き延びてくれ。ここで終わるな」
「暁」
「頼んだぞ。ディーバを、私たちを救ってくれ」
肩に載った手の感触が薄れて消える。星々と花の白が眩しさを増して、何も見えなくなった。
読んでくださりありがとうございます。良い記事だな、役に立ったなと思ったら、ぜひサポートしていただけると喜びます。 いただいたサポートは書き続けていくための軍資金等として大切に使わせていただきます。