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【『仮面病棟』をネタバレなしで絶賛したい】最後まで分からない謎解きがすごい

知念実希人さん著「仮面病棟」。

テレビで映画の予告編を目にし、「面白そう!」と思った作品です。

普段、サスペンスものは滅多に読まないのですが(最後に読んだのは「謎解きはディナーのあとで」シリーズ)、文章の勉強としても楽しそうと思って、手に取ることにしました。

映画を観に行くのではなく、あえて小説版を手に取った次第です。

あと、結末や真犯人に関するネタバレはしない方針です。

少なくとも、「真犯人は誰か」については書いてません。

文章表現等について、「すごい!」と思ったことを書いていく記事なだけです。

とはいえ、人によって感じ方は様々。

一切の事前情報を入れたくない方は、「すごいところ1」までで止めておく方が良いかもしれません。

すごいところ1 理系的表現の多様さ

作品の随所に光るのは、知念先生の知識の深さ。

特に、医学系の知識が豊富なんだろうなぁ、と感じる表現が多いことが印象的でした。

タバコの煙を吸い込むことを「肺いっぱいに」と表現したり。

「ストレスをニコチンで希釈」は、理系っぽい表現で感動しました。

「希釈」って薄めることですが、日常会話ではほとんど使うことがないと思われます。

私は非喫煙者ですが、喫煙者の方は気晴らしにタバコを吸っていることも多いようですから、確かにニコチンを摂取することで、ストレスが薄まると思われます。

それをスマートな形で表現した、素晴らしい言葉の組み合わせに思います。

少なくとも、理系に疎い私には使いこなせません。

とっても勉強になりました。

巻末の法月綸太郎先生による「解説」では、知念先生が現役の医師であると書かれていました。

私は、「仮面病棟」で初めて知念先生のことを知ったので、非常に納得です。

「道理で、医学系の知識が豊富だし、病院の描写にリアリティがあるのか」と。

すごいところ2  巻頭の地図

目次の次に目に飛び込んでくるのは、舞台となる田所病院の地図です。

これがあるおかげで、物語に入る前に、舞台の目安をつけることができます。

「病院」と一口に言っても、けっこういろんな規模がありますよね。

この地図があることで、病院の規模がなんとなく分かります。

外来と病室があるから、入院できること。

手術室があることなど。

例えば、町の歯医者さんには、病室がないことがほとんどです。

ここから少なくとも田所病院は、入院設備のあるそこそこ大きな病院であると、本を読む前から推察することができます。

謎解きに必要なヒントが、読む前から与えられているわけです。

ちなみに私は、この地図を眺めてから物語に入ったわけですが、地図だけではものごとをはかれないことを痛感させられることとなりました。

物語の途中で「ええっ!?」と思う場面があり、1回この地図のページまで戻ったことも良い思い出です。

すごいところ3  表紙に隠されたピース

すごいところの3つ目は表紙です。

本の表紙って不思議で、物語を最後まで読んだ時に、ようやくすべてが理解できるようになっています。

もちろん表紙には、「この話、面白そう」と思わせるという目的があります。

表紙が面白そうな本は、大概面白いのです。

でも、人の目を引くだけが表紙の仕事ではない。

物語を最後まで読み通して、本を閉じる。
その時にもう一度、表紙が眼に入ってくる。

その時に初めて「ああ!このアイテムはこういう意味だったのか」と、物語の内容を一層深く理解したように思える。

それも、表紙の役割の1つだと思っています。

具体的な話として、私の愛読書「ハリー・ポッター」の例でも出しておきます。

「ハリー・ポッター2 秘密の部屋」を例にとりましょう。

ハードカバーの表紙には、スリザリンの像や不死鳥のフォークス、巨大なヘビが描かれています。

なにやら迫力のあるイラストで、何らかのバトルシーンや緊迫する場面を連想させます。

でも、それがどんな状況を示しているのか、本を読む前の時点では分かりません。

クライマックスとなる実際の場面に辿りついて初めて、表紙のイラストが示していた場面を知るのです。

そこに辿りつくまでに、どんないきさつがあったか。

フォークスはなぜ登場するのか。何をしてくれたのか。

そして像がスリザリンをかたどったものであることも。ヘビの正体も。

そして最後まで本を読み、本を閉じた時に、表紙の絵の意味を真に理解したと思える。

本の表紙は、2度、3度と楽しめる一種の絵画です。

「仮面病棟」の表紙も同じ。

読む前、私は「仮面病棟」という大きな文字を文字としてしか理解していませんでした。

表紙には「仮面病棟」と、本のタイトルが大きく書かれている。

あとは、背景に透かすような文字が並んでいます。

謎解き欲をかき立てる、物語のキーワードたちです。(新宿11、ピエロの男など)

ですが物語を読み終えて表紙を見た私は、初めて「仮面病棟」の文字に施されたレタリングに気づきました。

「仮」の字は6画目があえて横線をはみ出しているし、「面」の字にはピエロの横顔。

「病棟」にも、小さなしかけが施されています。

それらは物語に登場する要素の象徴です。でも、それらが持つ意味や最終的な結末は、読んでみなければ分かりません。

逆に最後まで読んだからこそ、レタリングの意味にも気づくことができるのかもしれません。

いつも思うことですが、「うわあ、表紙すごい」となりました。

最後まで眼が離せない!

実を言うと、「仮面病棟」を読みはじめ、一気に読了してしまいました。

経過時間は2時間ですが、すっかり物語の中に入り込んでいたたのであっと言う間。

とても密度の濃い作品でした。

もちろん、劇場版もとっても面白いことでしょう。

映画のポスターを見て、あらすじを聞いたからこそ「面白そう」と思えたいきさつもあります。

でも併せて小説版も読んでみると、あらたな視点から物語を楽しめるのではないでしょうか?

映像では、人の内面を表すことに限界もあるからです。

その点文章なら、映像とは違った没入感が味わえます。

主人公・秀悟の体感の描写から、より共感的に物語を楽しむことができるのです。

映画を観た人、これからの人、少し興味があるというくらいの人。

すべての人に、小説版をものすごくおすすめしたい気持ちでいっぱいです!


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