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鮮明

皆が寝静まる真夜中。道路沿いに面したワンルームで、猫の額ほどのベランダに出た僕はうずくまり、ただ肌寒い風にあたっていました。
叔母の大切な犬が数日前に死んでしまったことを知り、とてもショックを受けていたからです。思い出は手のひらに収まるほど少なかったにも関わらず抉られました。

シェパードは普通、飼い主やその家族にしか懐かないものです。けれども、初めて会った腕白な時期と、もう一度は既に介護犬となっていた彼に会った時に許された気持ちがした事を鮮明に思い出しました。どんなに自分に愚鈍な面があろうとも軽蔑せず、そのままを受け入れ、側に寄ると尾っぽを振り、その優しく聡明な瞳で見つめてくれました。

僕がこんなにも動物を愛せるのは、動物がその人の長所を瞬く間に引き出し、心のセーフティーネットの役割を担っているような気がするからです。
「動物に言語はない」という事を残念に思うこともありますが、それは、今ではとても尊い事のように感じます。動物と接すると、言語とはある意味とても作為的に感じてしまいます。

勿論言語が存在するからこそ文明は栄え、友人を持てたり、お金を稼いだりする事には便利です。しかし、僕は常々言葉は最小限に使われるべきではないかと思うのです。
深い井戸の底で、でも何故か、もっと賢く豊かな人間になるよう努力をしなければと考えながらベッドに入りました。

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