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四月 桜はいまだ一分咲き 3

ヘンリーミンツバーグの言うマネジメントに大切なこと、
Art ビジョンとか理念、
Science 分析、
Craft 経験
それぞれを頂点とする三角形で、どこが一番大切かって経営企画部のイケメン先輩は私に質問しています。

どれも大事だと思うから、三角形のど真ん中と答えてはみたものの、
やっぱり間違ってるのかなぁ・・・。

「斎藤君、甲田君、才谷さん、ありがとう。確かに理念は企業の根幹だし、分析なしに理念は形成されるものでもないのも事実だね。

でも、僕が言いたいことに一番近いのは才谷さんだったよ。

理念も分析も経験もどれも欠かせないマネジメントの重要要素だ。
ただし、ミンツバーグは三角形のど真ん中が良いといいつつも、そんなバランスのとれた人間はいないだろうとも言っている。

じゃ、理念・分析・経験のそれぞれの角のうち、どこに偏っているべきかというと」と言いながら三角形の内側の一点にまるを描いた。

「正三角形の中心よりも、すこしだけ経験よりに位置すべきだと思っている。MBAの教授を長く勤めてきたミンツバーグとしては、大学院で教えることのできる理念や分析だけがすごく優秀になった学生が、卒業後いきなり企業の経営陣として招かれたけど、現場を知らないがために残念な思いをした卒業生をたくさん見てきたんだろうと思う。

 彼がこの説を紹介している僕がすごくいいと思った本のタイトルは
『Not MBAs』。
 この本は日本でも出版されていて日本語では『MBAが会社を滅ぼす』というタイトルなんだ。

 さて、今日新入社員の皆さんの前で僕が言いたかったことをまとめてみたい。

皆 さんはすごく良い大学を優秀な成績で卒業して、何万人かのエントリーシートの中から選りすぐられて、何度ものペーパーテストとか、面接をクリアしてきた人たちだと思う。

 そういう意味で、今の状況は理念と分析に長けた状況にあるといえるとは思う。とっても優秀だ。

 でも、ミンツバーグの言葉をかりると君らは、今は
いまだ『会社を滅ぼす』人たちの段階だ。」

 「新入社員が先輩諸氏のような、すごい仕事が明日からできるなどということは考えないでほしい。

それでは残念な思いをしたMBA達と一緒だ。

新入社員に与えられる仕事って、最初は必ず極めてつまらなく感じるような業務だと思う。

単調かもしれないし、つまらないかもしれない。

でも馬鹿にしたりしちゃだめだ。

どの業務も、まずは皆さんが現時点で全く持ち合わせていない『経験』の一部なんだから。

その業務を楽に効率化する作業のやり方を考えるのではなくて、なんでこの業務が存在するんだろうという本質を考えてほしい。

それからその業務が我々の会社の中で、他のどの業務に結びついてゆくんだろうということも考えてほしい。

効率化にトライするのはその意味をきちんと把握してからで十分だ。

つまらないであろう仕事の本質を考えながら、毎日ワクワクと新鮮な気持ちで業務を楽しんでほしい。」 

 すごい!いつの間にか、わたしは彼の話にぐいぐいと引き込まれていた。私だけじゃなくて、周囲の新入社員全員がそうだ。

 わたしだって、明日から海外を飛び回って、ぎりぎりの交渉で商売を成立させられるなんて、考えてたわけじゃない。
 でも、その期待が全然なかったと言ったら、やっぱり嘘だ。
 でも、彼はたぶん、ほんとの現実をわたしたちの前に提示してくれている。与えられるであろう仕事がつまんなくて単調だとたたきつけられながらも、なぜかわたしのこころはほっこりとした穏やかな暖かい気持ちになっていた。

「すごいね、あのイケメンの先輩。」
隣の杏ちゃんに耳打ちすると、

「経営企画部の片山慶介さんだよ。入社5年目で同期のトップを突っ走っている。
頭もよくて、仕事も超できて、人柄もいいらしいよ。
でもお酒が弱いのが玉に傷なんだって。
まあ、完璧な人間っていないってことだよね。ヘンリーミンツバーグも言ってるけど。」

「ちょっと、待って。同期で入社初日の杏ちゃんがなんでそんな詳しく知ってるの?」

「まあ、人事部配属の特権ってところかな?配属決まってから何度かオフィスにお邪魔していて仲良くなった先輩ルートからの情報収集は怠りないってことだよ。
まだまだ途についたばかりだけど、光るメンバーからリスト化を始めてるんだ」

 すげっ、私の【心の友達リスト】とはレベルが違うかも。

そう感じつつ、経営企画部の片山慶介さんの名前を2度繰り返し、
私の【心の尊敬する先輩リスト】に保存した。

(つづく)

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