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難民申請中だった仲間が帰国を決めた。

難民申請中だった仲間が帰国を決めた。
聞いたこっちが最初びっくりしたけど、固い決意だった。

普段、簡単に”仲間”なんて使えないけど、創業期、なにもなかった私たちが、いろんな葛藤と挑戦と力不足と悔しさとユーモアを分かち合ってきた、最高の友人であり仲間だった。いま思い返しても、彼は、98%くらいユーモアでできている気がする。

普段、WELgeeのキャリアプログラムで関わってる人の多くは在留資格(難民認定申請中の人がもってる在留資格があります)と就労許可がある人たち。
自分の経験や得意を活かせる企業で活躍して安定した就労系の在留資格に切り替えてゆくにも、そもそも在留資格が必要。

でも、彼には在留資格さえなかった。
5年間、在留資格も就労許可もないこの日々が一番悔しかったのは本人に違いない。普段ユーモラスな彼が、怒りをぶちまけた日を覚えてる。「なぜ、ただただ結果を待ってるこの日々に、僕は仕事してお金を稼いで自分でご飯を買うという当たり前のことができないのか」と。

なんで在留資格がなかったのか。それは、彼が空港で難民認定申請したから。日本に限らず”難民になるためのビザ”なんてものはない。だから、短期滞在のビザをどうにか取得して、それを握りしめて祖国での命の危険から逃れるケース。よくある。合法的なビザを持ってるんだし、自分が迫害から逃れてきたことなど言わずに空港を通過すれば、品川とかにある出入国在留管理庁(入管)で、難民認定申請をすることができる。

しかし空港で、自分が難民であることを正直に伝えると、そのまま収容施設に連れてゆかれる。なぜ自分が収容されてるのかわからない状態で、外の社会と接することなく過ごす日々が始まる。「仮放免」が認められると、ようやく外には出られる。でも、その場合は、在留資格も就労許可もない。

難民認定を待ちながら、審査の結果が出るのは平均4年(もっと長く待つ人もいる)という道のりの中でボロボロになってゆく。健康な若者たちも、仮放免状態では自分で働いて生きてくことも許されない。

今回、とても残念ながら、彼にとって、日本は人生を再建する希望の地にはならなかった。
安全とは言えない祖国に戻る直前に「次回会うときは、ビジネスマンとして会うよ!難民じゃなくて。」って、最後に言ってたのが耳に残ってる。

写真を見返していたら、WELgeeのメンバーも一緒に過ごしたたくさんの日々があったことを思い出した。いつも周りを笑顔にする不思議なパワーをもってた。この先、安全な地に行けるのかはわからない。祖国に一旦戻るけど、すぐに自分にとって安全などこかに出ると言ってた。とにかく、生きてほしい。本当に、生きていてほしい。






紛争、テロ、政治的混乱、人権侵害など、世界で、故郷を追われてる人の数はいま1億人を超えています。その中で、多くは周辺国にまず逃れます。ただ、飛行機に乗って日本に逃れてくる人もいます。数々の逆境と試練を乗り越えて、せっかく命を繋いだ先の土地が、なかなか人生再建の一歩目にならない場合が多いです。

政府が受け入れられる数にも限界があり、一時期たくさんの難民を受け入れた欧州も右傾化が進みます。が、政府から独立した立場で、難民の審査を行う仕組みをもつ国もあります。完璧な難民政策も、完璧な出入国管理もありません。どの国も複雑なバランスの中で悩みながら、このグローバルな課題に向き合っています。

ここまで読んでくださった皆さんに、今回の出来事に関連して3つ、知ってもらいたいことがあります。




①”正直者が馬鹿を見るルール”の見直し


まず、ずっと指摘されてきていますが、「空港で正直に難民認定申請をしたら、そのまま収容されます。その後、在留資格ありません」というルールは、変える必要があります。真に庇護が必要な人にとって、申請した場所がどこだったかは、運になってはいけないはずです。

②難民認定制度そのものの見直し


「難民認定のための独立した第三者機関の設置」は、先の国会審議で幻となりましたが、やっぱり重要じゃないでしょうか。難民認定されるべき人が適切に難民として認定される制度にしてゆくこと。審査参与員の偏りや専門的研修がなされないまま審査をすることになっていた事実も見えてきました。

積み上がる難民認定申請の書類に入管も疲弊します。難民申請した人を全員難民と認めてくださいという話ではありません。今回の「彼」を含めて、難民支援団体が出会う人たちは難民性が高いかもしれないけれど、"難民としての理由がないのに難民申請する人もいるから困ってるんだよ"という政府側の本音もあります。真に庇護を求める人たちを確実に見出だして、そうではない人たちにはあなたは難民認定はされませんよという道筋を指南できるように、専門性をもって、国際基準も取り入れながら、審査できる機関が必要です。「難民認定率がひくい!」「極悪な偽装難民たちがいる!」の極端な議論の間に、ちゃんと振り分けなきゃいけない人たちが今日も大勢待っています。

③「難民認定」はゴールじゃなく始まり


難民認定は安心して日本で暮らせる法的な地位を得るためには非常に重要です。
ただ、「認定されてよかったね」で終わりません。受け入れのその後も重要です。むしろそこから。言葉も住居も仕事も。認定されても、社会統合できずに生活保護になってしまう人がいるのも事実です。新しい土地で生活の基盤を築いてゆくことは簡単なことではありませんが、適切な支援やプログラムを経て、定住に向かって行けるケースも世界中に事例があります。政府も民間企業も教育機関もNGOも。それがwhole society approach (社会全体で支える仕組み)です。

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最後に。


難民として認定するに至らない場合でも、本国での紛争に巻き込まれるなどの不利益を被るおそれがある場合があります。これは日本だけの話ではなく、他の国でも”難民としては認定できないけども、母国に返すわけにはいかないだろう”という間の人たちがいるのです。そういった人たちが、他の合法的な手段を用いて、その社会で暮らし働けるようになる選択肢は作れます。

ホスト国にとっても可能な手法とのバランスを見つけること。ひとつの方法として、WELgeeは「母国を逃れてたどり着いた人だが、就労を通して人材になる」道筋づくりに挑戦してきました(これが全てを解決するわけではないことにも自覚的になりつつ、選択肢を増やすべく)。

やっと事例も生まれてきたところですが、さらに広げてゆくために、企業の皆さん、政治の皆さん、サポーターの皆さん、どうぞ引き続き力を貸してください。いま、いい事例を積み上げられるか、そして、この課題に共に取り組める仲間を増やせるかが、社会の機運が作れるかが、とても大事な分かれ道なのです。どうぞ、よろしくお願いいたします。

写真は最後の日。見送りメンバーと空港で。

「彼」の出国には間に合わなかったけれど、日本で難民の人たちが直面する課題を、皆さんの周りの方々に少しでも知っていただきたく、記事のシェアなどいただけると嬉しいです。



ここでいただいたサポートは、入国管理局に収容されている方々に面会で会いに行くときの交通費に使わせていただきます。ありがとうございます。