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「金曜日に法律が変わるんですか?私は国には帰れません」〜当事者不在の入管法改正案を巡って。

国会で、入管法の改正案について審議が続いています。

当初は8日に強行採決されるかもしれないと言われていましたが、世論や国会の中でも反対の声が大きくあげられる中で12日の委員会採決と変わり、そこでも見送られ、今は金曜日に採決との流れになっているようです。

先週、何がそもそも問題で、何が変えられようとしているのかについて、以下の記事を書きました。想定よりも多くの人に読んでいただけて、いま、社会全体で大きな関心が寄せられていることを実感しています。

元・収容者からの電話


さて、今日は、とてもミクロな視点から書きたいと思います。

ちょうどさっきある人から電話をもらいました。

知らない番号からの電話。出てみると、
「こんにちは、外に出れました。ありがとうございます。」

ん?誰だろう・・・と思って名前を尋ねると、何度か品川にある入管施設で面会をしていた元収容者のHさんでした。もともと彼とは知り合いではありませんでしたが、私の友人が収容され定期的に面会に通っていたとき、その友人だということで紹介されたのがHさんでした。

「友達から、赤ちゃん生まれたと聞きました。おめでとうございます。」

とてもとても、なんだか自分のことのように喜んでくれて、そのことに嬉しくなりました。

最後に、アクリル板越しの面会で会ったのが12月。
それ以降、面会に行けておらず、どう過ごしているかなとたまに気になっていた方でした。

彼が言うには、この4月に仮放免され、いまは親戚の家で暮らしていると。
今日は、イスラム教の断食(ラマダン)が終わった日で、大事なお祝いの日なので電話をしましたよと教えてくれました。

Hさんを含め収容者が収容施設から出される際には「仮放免」という、在留資格がない状態で生活をすることになります。
在留カードなし、就労資格なし、保険なし。

Hさんは2年(!!)の収容期間を経て、やっと外に出られたことが嬉しいということを語ってくれるのと同時に、上記の状態で日々生活することの苦しさについても教えてくれました。


「歯が痛すぎて我慢ができなくて、こないだ歯医者に行ったら2万円でした。そのときは、どうにか親戚に払ってもらいましたが、もう次は行けないと思います。もうこれ以上病院のお金をお願いするのは親戚でも苦しいです。歯医者だけではありません。何かしなくてはならない、バスに乗る、電車に乗る、そのたびに、1000円もらう、2000円お願いする・・・それの繰り返し、気持ちが苦しいです。」

「本当は病院に行きたい。シナガワにいるときから、身体にぶつぶつができてずっと治らない。入管では何回かお医者さんに診てもらったけれど、薬はもらえませんでした。外の病院にも、行かせてもらえませんでした。頭もいつも痛い。精神科も行きたい。体が全部おかしくなってしまってるみたいです。でも、ご飯も住むところもお願いしている親戚にそれは言えません。」

入管施設の医療をめぐる問題は、ずっと指摘されていることの1つです。

彼の話を聞いたあと「あの、いま入管法が改正されようとしているんですけれど、知っていますか?」と尋ねました。

「私は、最初は3年8ヶ月収容されてました。そのあと少しの期間でて、今度は2年と1ヶ月。入管の法律はいつも変わる変わるって聞いていたけれど、どうなってもどうせ出れない、とずっと思っていました。入管の中にいる私たちは詳しいこと、いつも知らないです。どうなっても変わることのない、何もない生活です。法律も、難しくてわかりません。」

Hさんに「そして、今回はどうなるんですか?」と聞かれたので、今回の改正案の要点を簡略にお伝えしました。

彼は、しばらく黙っていました。
電話が切れてしまったのかなと思いました。

でも電話は切れていなくて、しばらくしてから、こうおっしゃいました。

「国には・・・今も戻れません。一緒に(政治)活動していた仲間はみんな殺されてしまったから、連絡もできません。このままもし、返されたら、それは、死ぬのと同じことになってしまいます。」

彼は、難民申請をしています。

「1回目は不認定でした。いま、申請2回目の途中。一回だけ、3年前に難民認定のための面接に呼ばれました。それだけ。それから音沙汰なし、ずっと待ってます。」

上のnoteでも書きましたが、今回の改正案、難民申請中である人たちが最も恐れているのは、
3回目の難民認定申請が却下されたら、祖国への強制送還ができるようになる」ということ。

強制送還とは、帰国を望まない人を国家が強制的に送り返すこと。
しかし「帰らない」ではなく、「帰れない」理由のある人たちがいます。
彼のような人が、強制送還され殺される可能性が出てくるということなのです。

誰のための入管法”改正”なのか、あまりにも、この改正の影響を受けようとしている当事者の声がないまま変わろうとしているし、議論がされていないだろうか。私たちは、これに影響を受けるであろう人たちの声を聞いているだろうか。

この国で「難民」として生きる、そこにも到達できない、この国で「難民申請者」として生きる人たちにとって、本当に"改正"と言える改正案でしょうか?

とても大事なエッセンスが詰まった動画ニュースをシェアします。

最後に

先週、強行採決されるかもしれないと言われていた法案が見送り見送りになっているのは、世論の声が大きくなっているからと言われています。


「一部の外国人に影響するだけの法律だから、私たちには関係ない」と私たちが無視をしないことで、国会の方向性が変わることがあるという経験を、積み重ねてゆける国に生きたいと思います。

ぜひ、「入管法改正」「入管難民法」と、google検索してみてください。


2021.5.13 渡部カンコロンゴ清花



ここでいただいたサポートは、入国管理局に収容されている方々に面会で会いに行くときの交通費に使わせていただきます。ありがとうございます。