天皇陛下万歳 愛国者学園物語21
愛国者学園の学園生や関係者にとり、東京は見どころが多い。
第一に、皇居だ。天皇制への絶対忠誠を誓う愛国者学園関係者にとっては聖地である。それに日本の保守派にとって伊勢神宮の次に大切と言える靖国神社や、明治天皇とその皇太后を祀る明治神宮、東郷平八郎元帥を祀る東郷神社など、神社の数々。3つ目は自衛隊関連施設や防衛産業など、愛国心に関わる場所だ。
学園が開学してから初めて行われた修学旅行で、この学園を有名にしたある出来事があった。
一行は、バスから降りて緊張した面持ちで皇居前広場に整列した。制服姿の彼らは、手に各自日の丸を持ち、添乗員や教員の解説を聞いていた。そこまでなら、いつもの学園生だったけれども、ある男子が仲間の異変に気が付いたのだ。バスに乗っていた時、その仲間はいつもと同じ様子だったのに、広場にいる時は緊張していたのか顔も耳も赤く、その男子が話しかけてもろくに返事をしなかった。
風邪をひいたのか、それとも皇居にいる緊張でそうなったのか。その男子は仲間の様子が気になって仕方がなかった。しかも、仲間は添乗員の解説が続く間、握った手をかすかに震わせていた。
そして、その解説が終わった瞬間、一同は自分たちの仲間が発した
「天皇陛下ばんざああい」
という万歳の歓声に仰天した。呆然とした感情に浸る時間もないままに、誰かがそれを引き継いで「天皇陛下万歳」を叫ぶと、そこにいた全学生にそれが伝染して、みんなで「天皇陛下万歳」をした。
教員も添乗員も凍りついてしまった。皇居前広場でそういうことをする予定はなかったからだ。だが、近くにいた老人たちが学園生たちに拍手したので、教員たちはその予期せぬ助け舟に乗ることができ、事態を掌握した。
教員たちは学園生に静かにするよう指示し、別の教員は人差し指を唇に当てて、静かにせよというポーズをした。そして、彼らをバスに導くと、「皇居では静かにするように」と注意を与え、万歳三唱をしたあの少年に、あとで話があると告げた。万歳少年は注意を受けただけで、処分はされなかったそうだ。
これは興奮した子供が「やらかした」だけなのかもしれないが、学園に批判的な人々には、これがわざとやったことではないか、と主張する人々もいた。しかし、それを裏付けるものは何もなかった。
愛国者学園の学園生が、しかも小学4年生の少年少女たちが、皇居前広場で「天皇陛下万歳」をした、というニュースはSNSで瞬時に広まった。
「スゲー、愛国者学園の学生が、皇居前で天皇陛下万歳をしたよ」
「見た、あの学校すごい」
「子供が天皇陛下万歳をしたの?」
「それが当たり前なんでしょ」
「天皇陛下はご存知なのか」
「子供のくせして不敬だ」
「皇族よ永遠に」
「違和感」
「戦争中の子供みたい」
「今21世紀だぜ」
「俺もしようかな」
「うちのカミさん万歳 by コロンボ警部」
「ツバメ号、アマゾン号、ばんざい」
「なんでもいいからばんざーい」
SNSには動画も投稿された。ある観光客が撮影していたというそれには、1日もしないうちに「いいね」ボタンが1万個以上も押された。
対照的にマスコミはこれを取り上げることはほとんどなかった。その理由は不明であるが、これをニュースとして流したら、学園の宣伝に手を貸すことになるとでも思ったのだろうか。
続く
大川光夫です。スキを押してくださった方々、フォロワーになってくれたみなさん、感謝します。もちろん、読んでくださる皆さんにも。