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マントルおじさん 第1回「邂逅」

某日の午後1時頃、私はマントルおじさんに出会った。
私は神社で鳩に餌を与えているところだった。マントルおじさんは自然に現れた。

「やあ。動物が好きなのかい」
「動物が好きなわけではないんです。動物に餌付けするのが好きなんです」
マントルおじさんは水色のハットを被り、
水色のズボンを履きサスペンダーをしている。背が高く、きっと180センチはゆうに越すだろう。

「うむ。餌付けが好き、ね。それはおじさんもわかるよ」
マントルおじさんは口髭をいじりながら喋った。
「ところでお嬢さん、君は宇宙へいってみたいと思ったことはあるかい?」
「ええ。少し空恐ろしい気もしなくはないですが、行けるのなら行ってみたいですね」
「地球へは?」
「え?」
「地球の内部へ行ってみたくはないかね?」
マントルおじさんの語気が鋭くなった。
私は言い返した。
「地球の内部はマントルとかいう物質が詰まっていて、宇宙のように空間がないので行きようがありませんよ」
私は理科の授業で仕入れたばかりの知識を、恍惚としながらおじさんに言って聞かせた。するとおじさんの顔つきが変わった。
「ばかもの。わしはそこに住んでおるのだぞ」
「……」
「今はまだ、あいにくわししか住んではおらんがな。みんな行き方を知らんもんだから。
いや、知ろうとさえしないのだ。
君たちは宇宙、宇宙と外側にばかり目を向けておる。悪しき傾向じゃ」
マントルおじさんは私から餌袋を取り上げ、逆さまにして全部こぼしてしまった。
私たちの足元には大量のトウモロコシが散らばり、その音を聞きつけて鳩の群れが一斉に集まってきた。
「わしと一緒に来なさい」
クルックー。
「わしの生活をみせてやろう」
クルックー。クルックー。
「どうだね」
クルックー。クルックー。クルックー。
「来るのかね、来ないのかね」
クルッ「いきます」クルックー。クルッ「地球の内部を知りたいんです」
「よし」クルックルッ「あとについてきなさい」クルックー。
マントルおじさんは悠々と歩き出した。と、思いきや突如走り出して鳩たちを驚かせた。悪趣味な人間だ。
驚いた鳩たちはなお高らかに鳴き、そのうちの何羽かは空へ飛び上がった。
マントルおじさんはフン、と鼻を鳴らした。


神社の一段とひと気のない所まで来ると、
マントルおじさんはどこからともなく大きなスコップを二本取り出した。
私が呆気に取られていると、マントルおじさんはきつい口調で言った。
「お前もこのスコップで掘りなさい。こういうのを男だけの仕事とおもうな」


第2回へつづく。

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