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うつくし(50首)

連作

うつくし    丸田洋渡


花びらの影が桂馬をおびやかす 立方体の光が動く

送電塔ひとつひとつが磔刑の形に見えて春の疾風

窯変をひとさし指に触れながら言語が今立たされている岐路

水琴窟は銀のきらめき 愛されてきた偽史の愛し方が解った

簒奪か禅譲か美は掏り変わり葉ざくらの川べりを眺めた

美は摩耗する。

朝は楠〈私たちは年甲斐もなく大人として遊んだ〉夜は楡

鋸は引くとき切れる 恋人が死ぬ想像を隣でしている

きみは暗喩 考えすぎて立ち尽くす林道に横顔を見ていた

贋物の外貨一つを手のひらに入れて奇術をした木下闇

夜が呼んでくるものは総じて恐い発想 流線型の応用

ねむるよりねむたいほうが美的だとおもう 花瓶に水蒸発のぼる音

クリアファイルを鏡みたいに傾けて私のような君を映した

蝉で何も聞こえなかった 電波塔かがやいていた 離れていった

さわがしい水戯に耽る彼のことをついに忘れる 雲はひそやかに

美は愛に擬態する。

次にみんなが美しいと言い出したのは少年の十二年後だった

妖精期そして霧散期 私から言葉にできるのはそれくらい

青春が捏造されていく 一滴 二滴 スポイトの先から景色

トランプの夢を抜けだす手掛かりは緋色のジャック 直射日光

逸る気もち抑えてうすく目を開く フロントガラスに門 薔薇園の

旧映画館は今ごろ苔の中二千年後のやわらかい布団

ねむりについた生物群系ゆるやかに時空は美に傾倒していった

風も織れば海になれるはず いちまいの肌を晒して歩く海岸

「美しさを語るのに適した美しい文法?笑」

昂ると七月に戻ってしまう あなたとの出会いは暑かった

花が、ではない。想像する脳の発火するその瞬間の連絡が、である。

しのびよる夕日 アスファルトの浸入 しがみつくも落ちていく空蝉

それでも水は氷になっていく夏の霊はいつでも全身全霊

知らない街の小さな家に花盛り がちゃり ドアから顔 住人の

ひと夏を過ごした町の思い出は何一つ無いかのように見えた

誰に何を祈ったのかは教えない 雪がとろとろ沁みる角膜

美は衝突する。

鹿は或る空間を見てから何か狂いはじめた 何かが 確かに

百年 体内時計を信じるとろくなことがない それでも愛は

意志薄弱 薄志弱行 白光 死 百花繚乱 千紫万紅

ねむる親を起こそうとする子どもたち大人はもう目覚めることはない

太陽は月に照らされ詩から詩のフレンドリーファイアは秘めやかに

きれいすぎて声が出なかったそれ以降何を見たかも言い出せなかった

美は言語に擬態する。

ゆれる脳を街路樹にぶつけて帰る 信/うつく しい油絵/号/機

膨大な数が 膨大なデータで 送られてくる 感受性は0

ときどきまともで緩んだら直ぐ元通り 蝶番 蝶は背を向いて番う

私たちは間に合わなかった 完成に、美のスピードに、死の解決に

麒麟にも象にも妨げられない静かな蝿のムーン・フライト

心臓に息吹きかけて取り戻す 息 波が眼の奥で聴こえる

噴火口〈これ以上近づかないで下さい〉藍銅鉱〈これ以上

まぼろし 忌 白い踊り子 訊ねても名前は誰も知らないという

ぶりざあど ざあざあどしゃぶりの雨はもう止まないよ あの日みたいに

惹いた風邪をあなたは写す 勘違いするな 美は枷でしかないことを

幼年を思い返すとき〈夏は果汁〉ノイズが入る〈夏は血液〉

dislike you ディストピア・ライク・ユートピア 錆が入った透明な雲

愛はあなたに向かって消失 美しいものに近づきすぎたのかもね

噫 うつくし 世界が零カ国に見えて すべての結末は海にある

うつくし く 鎖する連鎖する 鬱 櫛で梳かす 紙 うつくしの紙片よ



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