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異変/凛(20+30句)

 第六回円錐新鋭作品賞落選作と、第十回俳句四季新人賞応募落選作です。
 円錐は新作20句「異変」(2022年2月頃制作)、俳句四季の方は既発表作(「帚」にて)の再構成30句「凛」です。

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 異変   丸田洋渡


木含めた風の模写から目を離す

チェス中断手を動かして蜜柑風呂

風花の降ると見えたが空の上

北窓開く鉄道模型に鉄の匂い

隅の隅まで見渡せる交叉点

朧夜や水の機嫌は水が取る

陽のあたる丘に木乃伊と火縄銃

永い日のコースロープに藻が生える

訳あって十字路がまた丁字路へ

合歓の木に水鉄砲を置いてきた

落葉が運命的な風に乗る

草上のハーモニカへと突っ込む茅

硝子変月光が照ったりしたら

秋日傘占いで政治が決まる

葉書一枚金木犀の北限

鯖缶に爪負けている萩の夜

絨毯が見上げる埃やがて身に

言語異変架空の蝶が喉仏

夏飛んで冬時計塔の二の時計

水にまだ蕩尽の癖噴水以後

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 凛  丸田洋渡


文と文法おとずれてから開く雉

片栗の花サーカスのはなれわざ

凧という字のうつくしさ空で照る

語りは語りにまで延びていて蝶の錯

ふしぎな舌もちあげ春の水琴窟

蝶にあるたましいと同じ構造

子どもにも大人のめまい蝶撃つ水

錆び付いた自転車で銃撃戦を見に行く

夏の皮膚まだ遠い天使の出番

竹を鈴ひびかせて来る犬の鬱

蜂は蜂に分かる字を空にきれいに書く

書くうちにあかつき軽くなる氷

おどろきの短刀で刺す花火の橋

水鉄砲も当てるなら心臓に

角砂糖崩壊その他もろもろも

光には光語があり長い吐瀉

蜂がいる部屋から蜂がいなくなる

秋蝶は一昨日の百の構想

月は骰子ひと睡りして賭ける

罰すこし快ひとりでに洩れだす葡萄

天の川その水しぶき薄い服

すいすいと月が昇って絵が乾く

手術刀すべらせる硝子のこころ

秋冷や光は鳥をもてはやす

飛ぶように泳ぐ白鳥飛ぶときも

木々の木の葉の葉脈のつめたい痾

襖から立方体が見えている

天使と銃どちらかが勝つ雪催

鳰ふたつの椅子のように凛

季として死あるのかも空色の空


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 俳句も短歌も、同じものを、すごい速さで、何度も読み返せる(そして初読の感覚とそこまで大差ない状態で味わえる)のがメリットだと思っています。この「凛」に上げた句なんて、俳句四季「傾きつつある空」にも出したし、芝不器男賞応募100句にも出しました。僕は常に、新しいものを作り続けなければならない、と自分に課して書き続けてきましたが、この再読性、的なものをもう少し信頼して、立ち止まりながら書くのも大事かもなと思い始めています。

 これからもよろしくお願いします。
 

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