見出し画像

路上のハプニング

ある日、成田は難波の戎橋の上からグリコの電光掲示板を見上げていた。そのとき、正面から沢尻エリカ似のクールな感じの女の子が成田に近づいて来て声を掛けてきた。

「お兄さん、居酒屋どう?」とやる気のない声だ。

成田は戸惑った。客引きが成田に声を掛けてくることはまずない。若い客引きが成田に声を掛けようとして1歩踏み出したところで先輩に止められる。そんな事がいつもの事である。「飲み屋に行く気は全くありません。」と顔に描いてあるような男である。

さらに、女の子は「お兄さん」との言葉を使った。言い方が古い。昭和の香りがする言葉だ。

取り敢えず成田は思い付いたことを口にした

「先週、手術で胃を半分摘出したんだよ」と答えた。

女の子は無言でシラケた顔をしている。当たり前である。先週、手術を受けた男がなぜこの場所にいる?説明になっていない。

その後女の子は無言でその場を立ち去り、成田は立ち去る女の子の背中を呆然とみていた。

「どうして気の利いた言葉が思い浮かばないのだろう?」それが成田の気持ちだった。

三週間後にネットニュースで成田が声を掛けられた場所で「ボッタクリバーが摘発!」の記事を見付けた。

成田に声を掛けてきた女の子は客引きで間違いないだろう。しかし、なぜ成田に声を掛けてきたのだろう?

お店のノルマがキツかったのだろうか?

何故「お兄さん」と昭和の香りがする言葉を使ったのだろう?

昭和歌謡や古い映画が好きだったのか?鶴田浩二と高倉健が好きな沢尻エリカ似の若い女。演歌の世界だ。可能性は低い。

成田の疑問を解決するためには沢尻エリカ似の女の子を探し出して、本人に直接質問する必要がある。

戎橋で立ち止まっただけなのに危ない橋が女の子の顔で近づいてくる。橋の向こうは蜃気楼でその先に何があるのか想像すらできない。そんなものに飛び込んでいく度胸は成田には勿論ない。

#小説

#心斎橋

#難波

#戎橋



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?