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シマウマはタテシマ、ぼくはヨコシマ。

確か8月か9月か、それくらいだったと思うんですが、働いていた居酒屋さんに新しいバイトの人が入ってきて、彼は都内のミッション系の大学に通う学生でした。

「そっかあ、小沢くんはフリーターなんだ」と言ったあと、「おれの大学ね、女の子が可愛いで有名なんだよ」と言いました。

ぼくはその瞬間、その大学に行くことを決めました。

どうしてかと言うと、ぼくは中学生から高校生までの6年間男子校で、呪いをかけた彼女と、そのあと通っていた高校の保健室の先生と付き合ってたりはあったけど、所謂、青春みたいなものに対する憧れは強くて、なるほど、大学楽しそうだと思ったわけです。

9月の終わりに店長に「年内で一旦やめます」と伝え、10月〜12月まで本気で貯金をし、1月から入試対策の受験勉強を始めました。
そういえば、その頃番長は実家の近くで一人暮らしを始めて、ぼくの家は出てました。

果たしてぼくはその大学に受かり、そのことを父に報告にいきました。
父は、自分1人の力で生活しながら入試の費用や勉強までよくやったな、と言い、実家に戻る許可がおりました。

一方その頃、番長も適当な大学に受かり(ぼくとは別の大学)、春から2人揃って大学生になりました。

大学はバイト仲間が言っていたように、確かに可愛い女の子が多く、「ほうほう」と思いました。少し誤算だったのが、文学部に入ったせいもあり、男女比が1.5:8.5でほぼ女の子だった為、男女の溝が遥かに深く、おいそれと仲良くなれる雰囲気ではありませんでした。
「間違えて女子大に入ったのか」と思うほどです。

男子は男子で固まるしかなく、女の子がうじゃうじゃいる隅っこでちょこんと3.4人でかたまり、大人しくしておくしかありませんでした。
まあでもそれも初めのうちだけで、次第に男女の垣根はなくなり、いつしか一緒にごはんを食べたり遊びに行ったりするようになりました。

いつのまにか、ずっと一緒に行動するコミュニティみたいなものができていて、ぼくはそのうちの1人の女の子とお付き合いできることになりました。その子は少し変わった名前の子で、そんなエキセントリックな名前とは裏腹に、とても優しくおとなしい女の子でした。

彼女はなぜか虎と恐竜が好きで、動物園に虎を見に行ったり、博物館に恐竜の骨を見に行ったりしました。虎を見ると「小沢くん、とら」と言い、恐竜を見ると「小沢くん、恐竜」と言うので、ぼくはその度に「そうだね」と返事をしました。

付き合って半年ほど経った頃だったと思います。
ぼくに呪いをかけた彼女から「じんくん久しぶりね」とメッセージが来ました。
自分の心臓の音を自分の耳で聞いたのはその時が初めてだったかもしれません。
確実に「ドクン」となったのを今でも覚えています。

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