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メディカル・デザイン㈱ 水口真理子代表にインタビュー


◆医療施設専門のインテリアデザイナーを目指した理由


ー 会社の主な事業を教えてください。

水口 歯科医院をはじめ、医科・介護施設などの内装・外装を含めたデザイン設計を行っています。規模は小規模医院から病院までさまざまです。
 施工業者の選定から、見積もりチェック、施工の進捗管理などを行ったり、医療機器メーカーや施工業者など様々な企業の間に立って院長の意見を伝えることもあります。

打ち合わせの様子

ー インテリアデザイナーになったきっかけは。

水口 子どもが入院し、親として不安でたまらなかった時に、病室の暗さや汚れなどで不安がさらに大きくなった思い出や、新居に引っ越して私自身がシックハウス症候群になったことがきっかけかもしれません。
 化学物質や光など目に見えないものも含めて空間や五感が人に与える影響が大きいと感じ、インテリア医学を提唱し、2000年に歯科の内装デザイン業務を始めました。

ー お子さんの入院が人生の転機はなったんですね。

水口 そうなんです。大阪大学の口腔外科の教授に子どもの病気の治療をお願いした際「人としてできる限りのことをさせていただきます」と言われたことは人生のターニングポイントとなりました。
 先生方が自分の時間を削って勉強し、患者のために懸命に治療を行っていることに感銘を受け、自分自身も社会貢献したいと思うきっかけにもなりました。

ー 顧客の先生の特徴は。

水口 紹介で依頼してくださる先生がほとんどで、とても勉強熱心で良い人柄の先生が多いです。
 「月刊アポロニア21」での連載の内容をよくお読みになっていて、患者さんだけでなくスタッフにも配慮した医院を作ろうと依頼してくださる先生もいらっしゃいます。

◆「心地良い」空間づくりをサポート


ー 理想の医院像について教えてください。

水口 そこに集う方々が「何となく心地が良い」と感じていただけるような空間づくりをサポートしたいと思っています。また、患者さんには「安心」スタッフには「働きやすい」と感じていただくことが大切だと思います。
 また、診療科目や院長の理念、患者層は医院によって異なるので、細かいところまで要望を取り入れるようにもしています。その為それぞれが個性的で「似通ったデザインがないですね」というお声をよく頂きます。

ー どのような会社を目指していますか。

水口 折角ご縁を頂いたお客様ですから、心からの満足を感じていただけるよう配慮しています。将来のことまで考えて、細かいことに気を配りながら「効果的な提案」をするよう心がけています。
 例えば床材では、フォルボ社のリノリウム(天然素材)は、他の床材と比べて高価ですが、「傷がつきにくい」「汚れにくい」「清掃がラク」などのメリットがあります。長期的な視点で見たときのコストパフォーマンスも含めて提案するようにしています。
 また、施工業者と院長の間に立ち、完成までの不安を和らげられるようなアドバイスをすることが、信頼や満足度を高めることにつながると考えています。

◆長期的視点でのコスパにも配慮


ー 長期的な視点での提案は、SDGsへの取り組みにもつながりますね。

水口 そうなんです。例えば、プラスチック系のシート床材は安価ですが、定期的にワックスをかける必要があります。床が汚れて、新しくワックスを塗る場合、元のワックスを除去する必要があります。その際使われる除去液は、人体に安全とは言えず、汚染水をどんどん排出してしまうので、コスパと環境配慮の両面からお勧めできません。
 そのため私は、天然素材のリノリウムをお勧めしています。ワックスも不要で、実際に使っている先生の評判も良く、大学病院などもリノリウムに切り替えるところが増えているので、リノリウムは、環境の観点から見ても良い素材という認識が広まっています。

ー 会社の自慢について教えてください。

水口 最近、吉井矯正歯科クリニック様(調布市)のWELL認証取得をサポートして成功させたことでしょうか……。WELL認証は空間デザインに「人間の健康」という視点を加え、より良い住環境を目指した国際的な評価システムで、水、空気、光、音など117項目もの厳しい基準が設けられています。
 医院のリノベーションをきっかけに、取得までのプランニングから院内施設の洗い出し、認証資料の作成(英文)、現地調査のサポートなどを当社がプロジェクトリーダーとして行い、歯科医院として世界で初めてWELL認証を取得しました。
 また、建築パースソフト(建物を3DCGで表現した図面)を活用しているため、より具体的な内装をイメージしやすくしています。このソフトは、一般住宅用のものを自社で独自にカスタマイズしたものです。

パース作成例(上:ゆい矯正歯科、下:てだこ浦西歯科)


ー 経営者として嬉しかったことはありますか。

水口 リピーターの先生が多いことをとても嬉しく思っています。医院を拡張されている先生も多く、自分が手掛けた仕事を長期的に見て検証できること、そして、時代に合わせて進化されるお手伝いができることが、大変ありがたいです。
 また、歯科医院経営・総合情報誌『月刊アポロニア21』(日本歯科新聞社発行)で、約10年間連載したことは、とても大きな経験でした。毎月、建材や五感に関わるお話を企業のトップの方々に伺い、「快適な空間」の概念・研究などを学べたことは経営者として宝物です。

『月刊アポロニア21』の連載誌面


ー 現在は大学でも学ばれているそうですね。

水口 千葉大学園芸学部専攻生として「バイオフィリックデザイン」を研究しています。
 「人間には『自然とつながりたい』という本能的欲求がある」というのが「バイオフィリア」の概念です。病院などに自然環境を取り入れると心地良さを感じ、治療の怖さを軽減できるなどの効果があると言われています。バイオフィリアとインテリア医学には共通するものがあり、エビデンスとしての立証につながるのでは、との思いから学び始め、学会での発表も行いました。

バイオフィリアを利用したカウンセリングルーム(はらだ歯科)
年に数ミリ成長する、本物のモス(苔)「スカンディアモス」を使用。

ー 趣味や、日頃のストレス解消法などは。

水口 趣味はメダカの飼育です。
 また、リフレッシュのため、朝の時間を活用して、太極拳をやっています。

趣味のメダカ飼育

ー 開業・改装される先生に伝えたいことは。

水口 施工にトラブルはつきものです。図面の変更など細かいことが下請けの職人さんまで伝わっていないことが原因で、誰の責任か分からないまま施工後に数百万円の追加料金が発生することはよくあります。
 「安価にするからと売り込んでくる」「友達や親戚の縁」などで選んだ施工業者はトラブルが多いのも事実です。建築は大きなお金が動くため、業者選定はとても大切です。また、専門家でないと施工費や施工内容の把握は難しく、第三者の設計・管理を入れた方が仕上がりやコストの面で満足のいくものになることも多いです。

ー 今後の展望について教えてください。

水口 24年間、さまざまな医院の施工トラブルを見ていると、残念ながら同じトラブルが繰り返されています。今後は開業・改装時の失敗例などからよくあるトラブルへの予防策をまとめた書籍を出版したいと思っています。
 書籍を通して、先生方が疑問に感じたことや、分からないことは事前に聞くといった行動につなげることで、施工トラブルを減らしていけたらと思っています。

【プロフィール】
水口 真理子/みずぐち まりこ

 メディカル・デザイン株式会社 代表取締役
一般社団法人日本ガーデンセラピー協会 理事
1987年 コクヨ株式会社に入社。
2000年 ラピス株式会社設立、インテリア部門の責任者として数々の医療案件に携わる。
2013年メディカル・デザイン株式会社を設立し独立。現在に至る。
2021年より千葉大学園芸学部専攻生として、緑地環境学科・環境健康プログラムコースにて、福祉医療施設におけるバイオフィリックデザインを研究中。

【著書】
歯科医院経営総合情報誌『月刊アポロニア21』にて、2009年1月号〜2018年12月号まで、10年間毎月連載
『インテリア医学 ―理想的な病院のインテリア空間を提案』(2008年3月、鶴書院より出版)
『インテリア医学の実践 ―快適空間を科学する』(2013年3月、日本歯科新聞社より出版/絶版)
『快適医院をつくるインテリア医学 ―もっと心地よく!もっと使いやすく!』(2019年5月、日本歯科新聞社より出版/絶版)
『「歯科プロサポーター」24人に聞いた・よくある経営の悩みと解決法』共著(2022年8月、日本歯科新聞社より出版)

出版書籍

【YouTube】
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