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観戦記:にっし~さんvs面妖流さん

 その日、私が駆け付けたときにはすでに多くの観戦者が集まり、指す順でお馴染みのアカウントが並んでいた。そして局面はすでに面妖だった。

▲9八香は面妖流の象徴

 9八に香を上がる形は面妖流の象徴とも言えるもので、すでに先手陣は個性が剥き出しになっている。
 7七の角が不在なのも▲9八香と関連していると思われ、後手からすれば攻める目標物が無いといった感じだろうか。それでいて陣形のまとまりは良く、5~7筋を全力で押し返そうという気概が感じられる。

 本局は指す将順位戦7thのA級2組4回戦。(棋譜再生
 後手番、にっし~さんは「序盤屋さん」を名乗り「33金型早繰り銀」の人としても知られている。前期A1では5勝6敗で降級という憂き目に合い今期は1期でのA1リターンを企図する実力者でもある。
 対して先手番、面妖流さんはその名の通り個性的な指し回しを武器に活躍し、指す順界隈で人気を博している。入玉志向とも言える独特な棋風の「面妖流」が「序盤屋さん」相手に通用するのかどうか、というのが本局の見所だろう。

先手は金銀を盛り上げて受けに行く

 金銀を盛り上げて積極的な受けを見せる先手に対し、後手は端歩や飛車浮きなど冷静に間合いを図っているような雰囲気だが、見方によっては攻めを躊躇しているようにも見える。

「ワールドに引き釣りこんでる気はします」
「なんだかんだバランス良いんだよなぁ」
「普通なら後手持ちですけど、先手がミスターなので補正で互角です」

観戦チャットより

 局面はしだいに駒がぶつかりはじめる。

駒がぶつかりはじめる

 そして、次の一手問題が。

面妖流なら次の一手は

「金ヒャッハー?」

観戦チャットより
金ヒャッハー

 簡単な問題だったが、観戦室の盛り上がりは最高潮だ。
 細かい形勢ではない。▲9八香からの駒組みといい、乗っているときの面妖流さんの指し回しだからだ。観戦室に「ヒャッハー」が飛び交う。
 さぞにっし~さんもやりにくかったのではないか。先手は玉を3段目に上がって後手の角を銀で召し上げ、流れは面妖流かという雰囲気。

5筋への攻めを見せる

 もはや先手の好きにはさせられないというところか、後手にっし~さんもと金作りを受容して先手玉に襲い掛からんとする。

後手の銀が出てきたが、5三には先手のと金が

 この局面、さすがにタダで5三にと金を作らせては先手良しなのではないかと私は見ていた。そして▲5八玉から右辺に先手玉が流れていくのではと思っていたが、次の先手の手は▲7八玉だった。左に逃げるか右に逃げるか、大きな方針の岐路だっただけに、ここの是非は気になるところだ。

玉を左に逃げる

 そして迫る後手に先手は▲2八角と切り返しを見せ、難しい局面で後手の手裏剣が飛ぶ。

悩ませる焦点の歩

 ここでは▲5五角と出て△5九歩成に▲7三角成とすべきだった、というのが局後の面妖流さんの反省だ。たしかにその展開は上部開拓する先手玉を後手が捕まえられるかどうかという戦いになりそうで、入玉党である面妖流さんの土俵だったかもしれない。
 本譜の進行は、▲3七角左に△4六銀打!

鬼気迫る歩頭の銀打ち

 正直ぱっと見で理解できず、じっくり見ても良い手とは思えないのだが、面妖流の妖気に充てられてもはや気迫の勝負となっていたのかもしれない。善悪を超えて流れを引き寄せる手といったところか。
 これを同歩と取ったことで、先手は2枚の角が隠居状態となった。

後手の攻めが先手玉に肉薄する

 後手の攻めが迫り先手玉は危険な状態だが、後手の攻め駒も豊富とは言えない。まだ終わらない。

王手飛車のラインが気になった局面

 この局面、▲4三とや▲6四角で王手飛車のラインを狙ってどうにかならないか、と観戦していたのだが、先手玉が危険すぎる状態、秒読みで考える手ではないかもしれない。
 本譜▲8三歩と受けて、後手の決め方も難しい。△6七金から包囲網を狭めていく。

ぎりぎりで耐える先手玉

 図の局面、私の予想は△6五桂▲8六銀△8五歩で後手の勝ち筋というものだったが、どうだったか。本譜は△9七歩と、筋の良い叩き。

飛車が捕まって……

「飛車をとらえた?!」
「しのいだのでは?」

観戦チャットより

 ▲8六金は一瞬、飛車を捕らえて逆転かと見えたが、△7八とが当然の手で、ついに後手の飛車が龍になった。

龍の捕獲で粘りを見せる

 銀を投入して龍の捕獲が実現。これが先手の一縷の望みといった様相。しかし△9五香と援軍を送られ……。

投了図

 退路を失った先手の投了となった。

 蛇足かもしれないが、KENTOに棋譜を流してわかったのが、投了図から▲4二銀と打ち込んでまだ一波乱の可能性があったということ。しかしそうそう見える手ではない。投了もいたしかたないだろう。

 一局を通して、丁々発止といった雰囲気の激しい戦いだった。面妖流さんの個性が溢れていたし、対してにっし~さんも気迫をもって応じていた。
 両者ともに熱の入った攻防で、指し手に対する驚きがあり、観戦室も沸いていた。素晴らしい一局だったと思う。

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