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大学入試改革 官邸発、官民癒着の民間試験導入にメス【塩川鉄也の国会質問ピックアップ】

文部科学省は、2021年7月末、大学入学共通テストでの記述式問題と英語民間試験の導入を断念すると発表しました。

記述式と英語民間試験の導入に対しては、多くの問題が指摘されてきました。記述式は、短期間に正確・公平に大量の採点を行えるのか。英語民間試験は、営利目的の民間企業に委ねて受験が歪められる懸念、地域格差や経済格差の問題を解消できない、などです。

こうした指摘通り、2020年の実施を目前にさまざまな問題が噴出しました。高校生や教育関係者の中止を求める声が広がり、2019年11月と12月に、それぞれ延期や見送りを決めていました。
その後も政府は実施に固執してきましたが、断念に追い込まれた形です。

無謀な入試改革を推し進め、受験生をはじめ、多くの関係者に大混乱をもたらした政府の責任は重大です。

このような計画は、どこで生まれ、どのように推し進められてきたのか。

この質問は、2019年11月、記述式や民間試験の導入が焦点となっていたときに、取り上げたものです。

50万人に及ぶ受験生の将来を左右する入試制度を、採算重視の民間事業者が担うのはおかしい。

問題の核心にある官民癒着の構造にメスを入れました。

安倍総理が開催している教育再生実行会議の提言が出発点

まず、記述式の導入や英語民間試験の活用がどこから始まったのか、確認します。

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<2019年11月6日衆院予算委員会質疑より抜粋>
【塩川議員】
内閣官房に置かれた教育再生実行会議は、2013年10月に大学入学者選抜改革の提言を出しました。この会議は安倍総理が開催している会議ですね。

【安倍総理】
(事務方に確認し)あの…。私が議長を務めております。

当時の質問で使用したパネルです。
左上が教育再生実行会議の提言で、右上が文部科学省の取組です。
提言が出発点となり、その具体化として記述式の導入や民間英語試験の活用の方針が策定されたことが分かります。

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つまり、記述式や民間英語試験の導入は、官邸によるトップダウンで進められたものだったのです。

【塩川議員】
教育の機会均等に反する大学入試制度の導入を決めた責任を総理はどう考えておられるのか、何が問題だったのか、お答えください。

【安倍総理】
導入の問題点等々については、萩生田文部大臣から答弁させます。

問題点ではなく、責任を問うているのに、安倍総理は自らの言葉で説明しませんでした。

教育・入試改革が最大のビジネスチャンス

英語民間試験の一つに選出されていたGTECを運営する教育産業大手のベネッセホールディングスの中期経営計画を見てみると。
パネルの2枚目です。

20191106パネル配布資料_page-0002

「教育・入試改革を機会点としたさらなる成長」というタイトルで、「教育・入試改革を最大の事業機会と捉え、各事業で成長戦略を推進、競争力のある英語四技能検定、GTECを軸に、総合力を生かした取組を展開する」「2020年度目標、売上高年平均成長率7%」とあります。

大学の入試改革が、民間事業者にとってビジネスチャンスとなっているー
この事実を安倍総理に質問しました。

【塩川議員】
教育・入試改革がベネッセの最大の事業機会、ビジネスチャンスとなっている。このことを総理は御存じですか。

【安倍総理】
私は承知をしておりません。

ベネッセの子会社が採点業務を受注

ベネッセがどのようなビジネスを行っているのか、追及します。

【塩川議員】
大学入学共通テストに導入される国語、数学の記述式問題の採点は、誰が幾らで受託をしているんでしょうか。

【文部科学省伯井政府参考人】
一般競争入札が行われ、株式会社学力評価研究機構を落札者として決定し、業務委託契約を契約金額約六十二億、これは今年度から五年間の金額でございますが、で締結され、採点事業者として正式に決定されたところでございます。

【塩川議員】
学力評価研究機構というのはベネッセのグループ企業ということでよろしいですか。

【伯井政府参考人】

ベネッセが出資している会社でございます。

民間英語試験GTECを運営
その対策本も販売

【塩川議員】
ベネッセは、GTECを運営すると同時に、GTEC関連の参考書や問題集などを販売しています。
ベネッセの副社長は、大学入学共通テストの民間英語検定の一つにGTECが採用されたことは、非常に大きな転機と言えますと述べています(パネル参照)。
テストを出題する事業者が、その試験の対策本で利益を上げることができる。公的な大学入試制度を利用して営利を追求するやり方で、どうして公平公正性が確保できるんでしょうか。

【萩生田文科大臣】
同社における問題漏えいを防止するための取組として、試験問題を作成する組織と問題集を作成する組織は分離されており、試験問題は担当者のみが入室することができる専用執務室で作成されている、本番の試験で使用される問題が他の用途で使われることのないよう厳密な管理が行われていることなどを確認しているところです。

【塩川議員】
一つのホールディングのもとにあるんですよ。営利企業のもとで活動するわけですから。そういった分離というのはどうやって担保されているのかということについては何の説明もないじゃないですか。
分離するということ自身も民間企業任せで、どうして営利追求を遮断することができるのか、公平公正性が確保されると言えるのか、このことが問われているわけであります。

GTECを共同運営する法人に多数の天下り

ベネッセの関連法人であり、GTECを共同運営する進学基準研究機構の役員には、どのような人がいるでしょうか。
パネルの3枚目です。

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【塩川議員】
理事長には文部事務次官理事には内閣官房参与、財務事務次官を経験した方、またベネッセの副社長もいらっしゃる。さらには、総理のもとに開催されている教育再生実行会議の有識者もいるし、中央教育審議会の会長高校、大学の接続システム改革会議の座長を務めた方も評議員を務めておられるということです。
これは率直に言って、文科省とこの企業の癒着が問われるような問題なんじゃないのか。総理はそうお考えになりませんか。

【安倍総理】
私はそのベネッセの、いわば、今委員の名前を挙げられたわけでございますが、詳細について全く存じ上げておりませんので、答弁することは差し控えさせていただきたいと思います。

【塩川議員】
問われているのは、大学入学共通テストと言われる、まさに教育のインフラ、公平公正性が問われるシステムのあり方の問題なんですよ。
そこに営利企業の、営利を追求するようなことが持ち込まれれば、ゆがめられることになるんじゃないのかというのが皆さんの怒りにもあるわけなんですよ。
ですから、こういった、教育のインフラであり、公平公正が何よりも求められる大学入学テストを民間事業者、営利企業に委ねるというのは間違っているんじゃないですか。

【萩生田文科大臣】
そのこと自体が間違っているかどうかも含めてしっかり検証して、一年間かけて、新しい制度をつくり直していきたいと思っております。

まとめ

教育のインフラであり、受験生の未来に影響を与える大学入学テストは、公平公正が一番求められるものです。それなのに営利を追求する民間企業に丸投げされ、ビジネスチャンスといって歪められる。
安倍総理を出発点に、官民癒着の構造のもとで進められてきた計画です。

こうした問題に対し、当事者である高校生たちが立ち上がり、地域間格差、経済的格差の問題、採点の精度・公平性の問題、アルバイトの採点でどうして公平性が確保できるのかと、国会内で記者会見も行って主張する。私も国会内でその様子を見ていましたが、高校生の子たちの堂々とした姿がとても印象的でした。
まさに、そうした声が力となって制度導入を断念に追い込んだのではないでしょうか。
政治を動かした。本当にすごいと思います。

現場で一生懸命働いている官僚の方たちも、本当はこんなことやりたくなかったんじゃないかなぁと思います。トップダウンで官邸から降りてきた話なので、やらざるをえなかったんじゃないでしょうか…。勝手な推測ですが…。<スタッフ>

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