海外動向 8/14〜8/20
当研究所では、ケーブル業界の独自の視点で放送・通信・メディア等に関する海外動向の調査・分析を行っております。このノートでは、おもに海外で一般に公開されたニュースや企業からの発信情報をもとに興味深いものをご紹介します。
◆ 今週の重要トピック
ケーブルや衛星放送事業者のテレビ加入者数は減少が止まらず、いよいよ放送事業の継続に支障をきたす事業者が現れそうです。一方、配信サービスは損失が縮小したものの、コスト削減と値上げの副作用により解約の増加が見込まれています。大きな期待を集めていたメガスポーツアライアンス「Venu」は延期を余儀なくされており、次の一手が求められています。
◆ 業界動向
米国、第2四半期のテレビ加入者の減少数、勢いは弱まったものの厳しい状況は変わらず
多チャンネル事業者の主要8社、Charter、Comcast、Dish Network、Hulu+Live TV、Verizon、Altice USA、Sling TV、Fuboについて加入者の減少数を分析しています。前年同期と比べて減少数が減ったのは5社、横ばいが1社、逆に増えてしまったのが2社という結果です。増えた、つまり減少の勢いが弱まっていないのはCharterとAltice USAです。配信サービスよりインフラ投資の負担が大きいケーブルや衛星放送事業者は、サービスを維持するため多数の加入者が必要ですが、Dishは610万世帯、Altice USAは202万世帯まで縮小しており、今後の動向が気になるところです。
衛星放送Dishの親会社EchoStarが厳しい経営状況に陥る
Dishはテレビ契約者の減少が止まりません。4年前には1142万世帯だったものが、2024年6月末時点では807万世帯(Sling TVを含む)まで減少、財務状況が急速に悪化しています。EchoStarは11月に返済期限を迎える債務が20億ドルありますが、CFOによれば返済資金を確保できておらず、借り換えで対処しようとしています。ただ、アナリストは「年内に破産する可能性が極めて高い」とコメントしています。
米国、FASTはケーブルテレビを解約後の代替手段!?
3月から4月にかけて成人2008人を対象に実施したHorowitz Researchの調査レポートによるものです。FAST視聴者が有料の配信サービスを解約する傾向が現れており、また、以前のケーブルテレビ時代のテレビ視聴スタイル、放送されている番組をザッピングで探して視聴する「受動的」なスタイルに戻りつつあると分析しています。調査対象の53%がFASTの視聴を始めたことで有料の配信サービスを減らしたと回答。一方、FASTで視聴した番組をきっかけに配信サービスに加入したという回答も43%ありました。受動的な視聴スタイルによりテレビが楽しくなったという回答は73%、FASTはケーブルテレビを再び利用しているようなものだという回答は58%となっており、番組をジャンルなどから探していく「能動的」な視聴スタイルからの回帰が示されています。
米国では家庭での映像・放送関連の支出のうち配信サービスが30%を占める
DEG(Digital Entertainment Group)による第2四半期の調査レポートによるものです。映像・放送関連の総支出は370億ドル、このうち配信サービスは110億ドルを占めており、これは前年同期比で27%増となります。総支出自体は大きく増えてはおらず、ケーブルや衛星テレビ事業者から配信サービスへのシフトが影響しているようです。YouTube TVやHulu+Live TVといったvMVPDとケーブルや衛星テレビといったMVPDを合わせた多チャンネルサービスの支出は240億ドルで、これは前年同期比4.5%の減少となっています。
米国、映像の視聴ではSNSやFASTの利用が過半数を超える
Parks AssociatesとJW Playerが公開したホワイトペーパーに書かれています。消費者の67%がSNS経由で動画を視聴しており、またFASTも50%が視聴しています。一方、有料の多チャンネルを視聴しているのは33%、地上波放送にいたっては14%しかおらず、視聴形態の変化が顕著です。
米国の第2四半期、モバイルサービス純増のうち54%をケーブル事業者が獲得
MoffettNathansonによる調査結果です。この数値は第1四半期の75.2%からは減少しているものの、依然、ケーブル事業者が多くのモバイル契約者を獲得していることがわかります。また、この統計には2023年からモバイルの全米展開を始めたケーブル事業者Cox Communicationsや中小のケーブル事業者の純増分が含まれていないため、実際は54%より大きくなるようです。ケーブル事業者が順調な獲得を続ける要因として、この記事では安価な料金設定とプロモーションを挙げています。Charterは政府の低所得者支援プログラムACPの終了時に、対象顧客に対し1年間、無料でモバイルサービスを提供しています。Comcastは適用条件はあるもののiPhone 15の購入代金のうち830ドルまで補助するキャンペーンを実施しています。
Paramountが米国従業員の15%を解雇
解雇手続きは8月13日から開始されており9月末までに90%が完了する見込みで、2000〜3000人になるようです。これはSkydanceとの合併で計画されている20億ドルのコスト削減策の一部で、他に資産売却を計画しています。売却資産には本業と関係の薄い事業会社のほか、ケーブルテレビのチャンネル、さらにFASTの視聴シェアで上位に入るPluto TVが含まれる可能性があるようです。
CISCO、AIとサイバーセキュリティに重点をシフト、関連して従業員の7%を解雇
既存ビジネスの売り上げ、利益が減少傾向にあるため、マーケットが急成長しているAIとサイバーセキュリティ分野を強化するようです。CISCOは6月に10億ドルのAI投資ファンド設立を発表、Cohere、Mistral、Scaleといった新興の生成AI企業に投資しています。解雇は今年2回目で2月には4000人でした。今回は具体的な人数は明らかにしていませんが、7月時点での従業員数は8万4900人ですので6000人弱と思われます。
◆ メディア
配信サービスは収益が改善するものの業界全体の利益のうちNetflixが99%を占める
配信サービスの大手5社、Netflix、Paramount、Disney、Peacock(Comcast)、ワーナーの2024年前半(1月から6月)の収益を前年同期と比較しています。5社合計で見ると、2023年は6億8300万ドルの損失だったのに対し、2024年は33億ドルの黒字と劇的に改善しているように見えます。ただ内訳を見ると、業界全体の利益の99%がNetflixであることがわかります。Netflixは2023年は28億ドル、2024年は45億ドルの黒字だからです。つまりNetflix以外の4社の損失が縮小したことで、配信サービス全体の収益が改善したように見えるというわけです。
配信サービス各社は収益性を改善するためにコスト削減を行なっています。また配信サービスの広告なしのプランは値上げされる傾向にあり、今後、視聴者が契約する配信サービスを絞り込んでいくと思われます。競争の激化が予想され、生き残りをかけた経営戦略が問われるフェーズに突入したようです。
それでは映像サービスの主軸がケーブルや衛星の多チャンネルに戻るかといえば、それもないと判断しているようです。ワーナーは第2四半期の決算でケーブル事業者向けを主体とする放送ネットワーク事業、つまりチャンネル事業の減損を91億ドル計上しました。CEOによれば「(チャンネル事業の業績は)1年半前から回復の兆しがあるという話はあったが、実際はそうならなかった」とコメント、業績が回復する見込みは小さいと判断したようです。
FuboがVenuを訴えた裁判、Fuboは破産に追い込まれる可能性を主張
FuboはVenuがスポーツ関連の配信サービスで独占状態を作り出そうとしていると主張、Venuのサービス開始を阻止しようとしています。この裁判にFuboが提出した資料には、Venuが有料テレビ業界から加入者の50%から67%を引き抜く可能性が高いと書かれており、また、VenuのCEOは報酬が加入者数に連動しており、加えてケーブル事業者だけを対象に加入者の引き抜きを行うことは推奨されていない。つまりFuboがターゲットにされている可能性を示唆しているようです。そのうえで「Venuの差し止め命令が下されない限り、Fuboは債務超過に直面する」と主張しています。対するVenuは自由な競争は担保されており独占には当たらない、Fuboの不安定な財務状況は以前から始まっており、Venuとは無関係と主張しています。
FuboTVの訴えが認められVenuはサービス延期を余儀なくされる
米国連邦地裁がFuboTVの「Venuは(スポーツ関連の配信サービスにおいて)競争を大幅に減らし、取引を制限する」という訴えについて、FuboTVが勝訴する可能性が高いと判断、FuboTVが求めていたVenuのサービス立ち上げを差し止める仮処分申請を認めました。Venu側は異議を申し立てる意向ですが、目指していたNFL開幕に間に合わせる、つまり9月5日以前のサービス開始は絶望的な状況です。
Peacock、人気スポーツは配信サービス成長の鍵!?
今年の1月、PeacockがNFLのプレーオフの試合を独占配信したところ、総視聴者数は2760万人となり、これは米国史上最多のライブ配信イベントとなりました。この1試合だけで放映権として1億1000万ドルがかかっていますが効果も大きく、300万人の新規加入があり、さらにそのうち70%が2ヶ月後もPeacockを継続しています。これらによりPeacockを提供するComcast NBCUniversalは自信を深め、NBAとの11年契約、年間24億5000万ドルの放映権獲得に動いたようです。
独自の戦略で存在感を放つ配信サービスTubi
多くの配信サービスが視聴者を惹きつけるために独自コンテンツを制作し、それを軸にした配信プラットフォームを提供しています。しかし、このやり方は多額の費用がかかり、結果としてコンテンツのラインナップが絞り込まれ、ますます独自コンテンツに視聴が集中する形となっています。Tubiの戦略は真逆で、オリジナルコンテンツにはそれほど注力せず、むしろ2000年以前の映画を幅広く揃え、それを見つけやすく提供しています。目立つヒット作に引っ張られることなく、風変わりな作品なども幅広く揃えることで、視聴者にとって新たなコンテンツを見つけやすく、継続的に楽しめるプラットフォームにしています。Tubiは無料の広告モデルで提供されており、有料の配信サービスの穴を埋めるような形で独自の存在感を放っているようです。
◆ 新技術
LGI、コールセンター業務にAIを導入し、効率化と顧客の満足度向上を両立
Agent Assistと呼ぶカスタマーサービスのためのAIプラットフォームを導入。これを導入したことで、業務が効率化し、さらに顧客対応も的確に行えるようになったということです。具体的には、顧客が電話をかけてくると、顧客がなぜ電話をかけてきたのかをAIが推測し、関連性の高い3〜5件の情報を箇条書きで提示。電話に応じるスタッフは、会話を始める前にある程度の準備を整えることができるというものです。さらにAIが通話を聞き取り、通話のテキスト化や要約、さらに顧客が何を問題視しているかを解釈し、対応方法をスタッフに提示します。対応終了後は、これらのやり取りを記録、集計し、サービス全体を通してどういった問題が繰り返し生じているのかを分析したり、需要が高いと思われる製品やサービスに関する洞察を行います。LGIではこれをオランダのVodafoneZiggoとスイスのSunriseで導入、すでに70万件の顧客対応に使用しており、英国のVMO2でも試験運用を開始しています。
宇宙ステーションへの4Kビデオの送信に成功、月面からのライブ中継を目指す
NASAが発表しています。地上から2万2000マイル(約3万5400キロ)上空の衛星軌道に配置した実証機LCRD(Laser Communications Relay Demonstration)に赤外線光信号で4Kビデオを送信、さらにLCRDから国際宇宙ステーション「ISS」に転送することに成功しています。これはNASAにとって初の試みであり、従来の通信より10〜100倍高速なネットワークにより実現できたものです。今後は、NASAが計画している月面ミッション「アルテミス」において、月面で活動する宇宙飛行士のライブ中継を考えているようです。
韓国KTとLG Electronicsがモバイル6Gの技術開発で協力
両社は6G関連の技術開発、およびグローバルな標準化に向けて協力していくとコメントしています。KTは6月にもNokiaと6Gに関する研究で提携を発表しています。6Gの標準化を行なっている3GPPは2029年までに基地局、および端末の開発に必要な標準仕様の策定を完了させる計画です。
◆ 業界再編(M&A)
Paramount買収劇、土壇場になって新たな候補が浮上か?
ParamountはSkydanceによる買収で合意していますが、現在、”Go Shop”と呼ばれる、Skydanceより良い条件の提示を待っている期間に入っています。これは8月21日までですが、この土壇場になって新たな候補が浮上しています。まだ、正式に買収オファーは表明していませんが、元Warner MusicグループのCEO、そしてFuboTVの現chairman、Bronfman Jr.がFortress Investmentグループ、Roku、Steven Paul(個人・プロデューサー)とチームを組み協議しているようです。
◆ 規制・政策
FCCがISPのカスタマーサービス向上のための新たなルールを検討
8月12日付でFCC委員長が「紹介通知」を出しています。内容は解約をより簡単にする、必要なときにカスタマーサポートの担当者に直接連絡できるようにする、自動更新や値上げに関する明確な連絡の徹底などです。まだ紹介通知の段階ですので、今後、いつ議論され導入されるかなどは決まっていません。
カナダ、大手ISPが敷設したファイバー網の中小ISPへの提供を義務化
カナダの規制当局CRTC(Canadian Radio-television and Telecommunications Commission)による決定で2025年2月から義務付けられます。BellやTelusなどのファイバー網が対象のようです。この義務化は昨年、オンタリオ州とケベック州に限定して施行されていましたが、これが全土に拡大されます。なお対象となるファイバー網は既設のものに限定され有料での提供となります。これから建設されるものは投資を回収する機会を考慮して5年後に解放される予定としています。
◆ インフラ
BT、上り下り1Gbpsの対称型FTTHサービスを2025年4月から開始
現在提供しているフルファイバー(FTTH)の固定ネットは下り1.8Gbps、上り120Mbpsです。新しい対称型FTTHサービスの価格などは、まだ発表されていません。
◆ サステナビリティ関連
LGIがSDGsへの取り組み状況をアップデート、順調に推移
2023年版のPeople Planet Progressレポートを公開しています。これはLGIのSDGsへの取り組みがまとめられたもので、LGIのオランダ、英国、米国の従業員に占める女性の割合が44%に達したこと、二酸化炭素の排出量が2019年以降28%減少したことなどが書かれています。
監修者・執筆者:J:COM あしたへつなぐ研究所 編集部メンバー
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