海外メディア・通信業界動向 12/11〜12/17
当研究所では、ケーブル業界の独自の視点で放送・通信・メディア等に関する海外動向の調査・分析を行っております。このノートでは、おもに海外で一般に公開されたニュースや企業からの発信情報をもとに興味深いものをご紹介します。
◆ 今週の重要トピック
ワーナー、2025年半ばまでに放送事業部門を分離
ワーナーの主要な事業にはケーブル事業者向けのチャンネルといった放送事業、映画などを扱うスタジオ事業、Maxに代表される配信(ストリーミング)事業があります。このうち放送事業を「グローバル・リニア(放送)・ネットワーク」(社名・仮称)として分離します。残りの2つは「ストリーミング&スタジオ」となり、これらの親会社としてワーナーが位置付けられるようです。ワーナーで人気番組を多数製作・保有しているHBOは、元々は放送チャンネルがルーツですが「ストリーミング&スタジオ」に所属します。この動きは明らかにComcastがケーブル放送ネットワークを切り離したのと類似しており、今後の見通しが厳しい「グローバル・リニア・ネットワーク」を、成長が見込まれる「ストリーミング&スタジオ」から切り離したものと思われます。
パラマウント、放送部門と配信部門を統合し小規模な人員整理を実施
Paramount+やPluto TVを扱う配信部門と米国での放送ネットワークを扱う部門を統合します。これらの事業の責任者であるRay Hopkins氏は「パラマウント全体のポートフォリオを最適化するため」とスタッフに向けて発信しています。Hopkins氏はもともとは放送部門の責任者でしたが、10月から配信部門も兼務していました。
Nielsenによる米国のテレビ視聴シェア、配信サービスが拡大
対象期間は10月28日から11月24日までです。テレビの利用時間は10月と比べて5%増えています。配信形態ごとのシェアは、配信サービスが10月の40.5%から41.6%に増加、ケーブルテレビは26.3%から25%に減少、放送は24%から23.7%に微減となっています。配信サービスのシェア拡大を牽引したのはYouTube、Prime Video、Rokuでこの3つは過去最高となるシェアを達成しています。
テレビでのYouTube視聴、毎日10億時間以上に成長
スマホやタブレットでなくテレビを使って視聴した全世界の合計視聴時間です。家族や友人と一緒に視聴したり、家事などをしながらの「ながら視聴」に使われているようです。人気のカテゴリーはスポーツと子供向けエンターテイメントであり、スポーツの視聴時間は2023年から30%増加したということです。YouTubeに映像を投稿しているクリエイターのうち、テレビ視聴で収益の大半を得ている人は前年比で30%増加、4K映像のアップロードはショートコンテンツを除いても35%増加しています。
CNBC、単独の配信サービス「CNBC+」を2025年第1四半期に計画
まだ公式には発表されていませんが、事情に詳しい二人からの情報として報じられています。ComcastはNBCUniversal傘下のケーブル放送ネットワーク(チャンネル)の独立会社化を発表しており、CNBCもそれに含まれています。ケーブルテレビでの放送事業が厳しい状況の中、ケーブル以外で番組を提供する手段を検討しているようです。なおNBCUniversalは配信サービスPeacockを展開しており、また個々のチャンネルに関連したものではNBC News Now、Today、Fox News Channelなどがあります。CNBC+は放送された番組を配信するのみで、配信専用の番組は作成しない方針のようです。
英国の人気放送局がYouTubeと提携、すべての番組をYouTubeで
英国の民放ネットワーク「ITV」がYouTubeと番組提供に関する提携を発表しました。まずは数百時間の番組をYouTubeで視聴可能にします。スポーツやドキュメンタリー、ニュースなどあらゆるジャンルが対象です。加えてITV(放送)で扱う広告をYouTubeでも展開します。最終的には、ITVのすべての番組をYouTubeで配信する計画です。ITVのCEOは「視聴者がどこで視聴するかに拘らず視聴機会を最大限に広げるという戦略的アプローチの一環です」と、放送局でありながらもはや放送には拘らない姿勢を鮮明にしています。
スマホなどモバイルでの映像視聴が2032年にかけて大きく成長
SNS Insiderによる調査レポート「The Mobile TV Market Size」によるものです。これによるとモバイルTV(モバイルでの映像視聴)の市場規模は2023年が132億6000万ドル、2024年から年率8.53%で成長し2032年には277億ドルになると予測しています。現在はVOD、それに広告付きを含む無料サービスが主流ですが、今後はライブ、および有料サービスが成長すると見込んでいます。
◆ 業界動向
Comcast、第4四半期の固定ネット加入者は10万世帯以上の減少か?
ComcastのCEO自らが見通しとしてコメントしています。アナリストは6万4400世帯の減少と予想していましたので大幅に悪化することになります。要因として挙げられているのはフロリダを襲ったハリケーンの影響、FWAとの競合、それに政府による低所得者層を対象にしたブロードバンド支援プログラム「ACP」終了です。
CharterのCEO、FWAとの戦いの厳しさを吐露、価格、信頼性、性能面による打開の必要性を強調
FWAとの競争に打ち勝つための新たな方法を模索しており、現状に甘んじてはいないとコメントしています。上り下りが同速の対称型ギガビット(固定ネット)、価格設定やパッケージの見直し、固定ネットとモバイル、ビデオのバンドルパッケージの組成に重点を置いた「マルチフェーズ・ケーブルプラン」(multi-phased cable network plan)に言及しています。
カナダのRogers、災害などでの固定ネット障害に対応できる「Xfinity Storm-Ready WiFi」を発売
Wi-Fi 6のアクセスポイント(機器)で、通常時のネット接続にはRogersの固定ネットが用いられます。これが災害などにより障害が発生した場合、自動的にRogersのモバイルサービスに切り替わるものです。なお停電への備えとして最長4時間駆動できる充電式のバッテリーも搭載されています。固定ネットの追加(オプション)サービスとして月額10.5ドル(15カナダドル)でまずはブリティッシュコロンビア州で発売、その後2月までにカナダ全土へ展開する計画です。使用する機器はComcastが開発したもので、Comcastは2023年8月から提供しています。RogersとComcastは10年間の技術・製品に関する契約を結んでいます。
米国の8Kアソシエーションが8Kテレビの認証プログラムを開始
認証プロセスで求められる仕様には、8K解像度だけでなくコントラスト、色域、HDR、さらにHDや4Kから8Kへのアップスケールのアルゴリズム、オーディオなどが含まれます。
アラスカのケーブル事業者GCIがXumo Stream Boxの提供を開始
固定ネット加入者には無料で、それ以外には59.99ドルで販売します。GCIは2025年半ばまでにIPTVを含むすべてのテレビサービスを終了します。この受け皿としてXumoの提供を始めたようです。北米ではComcast、Cox、Mediacomが自社の固定ネットのみの加入者向けにXumo Stream Boxを推奨。一方Charterは新規のテレビ加入者向けに推奨しています。カナダのRogersはXumoは使っていませんが、Xumoと同じEntertainment OSを搭載した独自のIP STBを用いています。
Vecimaが12%の人員を削減、投資の優先順位を明確化
事業買収などにより規模を拡大し急速にケーブル業界向けベンダーとしての存在感を増したVecimaですが、一転、コスト削減のため人員削減に踏み切るようです。今後は仮想CMTS、50G(ギガ)を含む次世代PON技術、DOCSISおよびPONのアップグレードに投資を集中させていくとCOOがコメントしています。
スマホの生産台数、第3四半期は前期比で7%増加、3億1000万台に
TrendForceによるものです。前年同期と同じ水準ですが、依然としてコロナ前の水準には戻っていません。第4四半期も今期と同様に7%の増加を見込んでいます。生産台数の上位6社は多い順にSamsung、Apple、Xiaomi、Oppo、Vivo、Transsionで、この6社で市場シェアの80%を占めるということです。トップのSamsungは前期比9%増の5900万台。折り畳みモデルと中・低価格帯のAシリーズが牽引したようです。2位のAppleは前期比15%増の5100万台。iPhone 16シリーズの生産がピークを迎える第4四半期にはシェアトップになると予想しています。
◆ メディア
ニールセン、スポーツのライブ中継を検索できる「Gracenote On Sports」
150以上のプロおよび大学などのリーグ、競技大会のデータを揃えており、ユーザーは視聴したいチームの試合をライブ中継する配信サービスや放送が検索できます。加えてライブスコアやリーグ内の順位といった関連情報も提供する計画です。米国ではスポーツのライブ中継が行われるチャンネルや配信サービスが入り組んでいます。例えば同じリーグの試合であっても曜日によって配信事業者が異なる場合があり、こういった検索サービスのニーズが出てきました。なお、Gracenote On SportsはAPIでも提供され、番組表やアプリ、TVOSなどとの統合ができるようになっています。
Netflixによるボクシングのライブ中継、世界最多となる1億800万人の視聴者を集める
11月15日に配信されたタイソンとポールの試合です。共同CEO、Ted Sarandosがコメントしています。同時視聴のピークは6500万ストリーム、米国だけで3800万ストリームになったということです。
◆ インフラ
イタリア政府、ブロードバンド普及策にStarlinkなどの衛星ネットの活用を検証
2025年1月から検証を開始し、早ければ3月に結論が得られる見込みで、Starlinkを含む複数の企業が対象です。家庭に衛星ネットのアンテナを設置する形態だけでなく、小規模な居住地を対象に衛星ネットとの接続点(ゲートウェイ)を設置、そこから各住戸へはファイバーで結ぶといった形態も検討しているようです。
AIによるネット・トラフィックの急増は起こるのか? CienaのCEOが予告
テレコム業界では固定ネット、モバイルともにトラフィックの増加ペースは鈍くなっていると言われています。たとえばOpenVaultが調査した第3四半期時点での月間平均トラフィックは7.2%増でした。これは同社が2012年に調査を開始して以来、最も低い伸び率です。大手CDNベンダーAkamaiのCFOも「トラフィックの成長率は非常に緩やかです。これほど低い成長率は見たことがありません」といいます。これらをCienaのCEOは真っ向から否定。今後は、通常のトラフィックの増加に加わる形でAI関連のトラフィックが生まれる。このトラフィックはまだ初期段階で、今後、数年間で大きな変化が起こるという主張です。
ブロードバンド機器への支出が2四半期連続で増加
Dell'Oroグループによる調査結果です。第3四半期の全世界の総売上は前期比1%増、前年同期比5%増の46億ドルとなりました。FWAのCPE(ユーザー宅に設置する機器)は前年同期比で19%増、FTTHなどで使われるONTは11%増です。ONTの出荷台数は初めて200万台を超えました。DOCSIS(CPEとインフラ全体)も好調で26%増となっています。Remote PHY機器と仮想CMTSの大幅な増加が寄与したようです。なおWi-FiのうちWi-Fi 7機器の出荷が前年同期比で5935%となっています。これはWi-Fi 7がこの1年で急速に立ち上がっていることを示すもので、中国における低価格ディアルバンドユニットが牽引したようです。
HarmonicとSercommが統合DOCSIS 4.0の展開において独占的技術提携を締結
DOCSIS 4.0関連製品の販売競争は厳しさを増しており、また、一時的に需要が低減するという予測もあることから、両者がタッグを組むことで競争力の強化を図ったようです。DOCSIS 4.0はCMTS、アンプ、ノード、モデムで構成されますが、Harmonicが仮想CMTSでは圧倒的な競争力を持っています。SercommはSCTEでアンプへの参入を表明していました。今後は両社が共同でケーブル事業者に提案することで、DOCSIS 4.0への移行を効率化できるということです。
◆ 業界再編(M&A)
インドネシア、事業統合により加入者1億、企業価値65億ドルの巨大テレコムが誕生
マレーシアを拠点とするAxiata Group Bhdとインドネシアの複合企業Sinar Masがインドネシアのテレコム事業を担うXL Axiata(PT XL Axiata)とSmartfren(PT Smartfren Telecom)の統合に合意しました。新会社はXLSmart(PT XLSmart Telecom Sejahtera)となり加入者数9450万、インドネシアのシェア27%を占めます。統合により重複している20〜30%の拠点が閉鎖でき、年間3億から4億ドルのコスト削減を見込んでいます。東南アジアではテレコムなどの事業体の合併が相次いでいます。マレーシアではCelcomとDigiが合併し最大のモバイル事業者となり、スリランカではDialog AxiataとAirtel、バングラディッシュではRobiとAirtelが合併しています。
◆ 新技術
OpenAI、動画生成AI「Sora」の正式版をリリース
2月にベータ版が公開されていました。正式版はOpenAIの有料アカウントChatGPT PlusもしくはProユーザーが利用できます。生成する映像は1080p、最長20秒までです。PlusとProで生成できる映像の解像度、本数は異なります。違法映像の生成を防ぐため映像にはすべてメタデータが付与され、Soraにより生成されたこと、どのアカウントで生成されたものかなどがわかるようになっています。動画生成に使用するプロンプト(指示)でも違法性のある映像生成はブロックしているようです。
監修者・執筆者:J:COM あしたへつなぐ研究所 編集部メンバー
記事のご利用について:当記事は筆者の見解に基づき作成されたものであり、JCOM株式会社及びグループの統一された見解ではありません。当記事の全部または一部を著作権法で認められる範囲を超えて無断で利用することはご遠慮ください。なお、当社は、予告なしに当記事の変更・削除等を行うことがあります。