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前代未聞の価格設定-水族館の既成概念をぶち壊す③
皆さん、こんにちは!
JCEL株式会社 代表の三坂です。
前回の私の記事では、「新しい商品の開発」と題して、「水のある空間」づくりの始まりについてご紹介しました。
今回も続きのnoteになります。
まだご覧になっていない方は、前回の記事も併せてご覧ください!
水族館の既成概念
水族館事業を推進するに当たって、取り急ぎ国内外の水族館を片っ端から見て廻ってみるとある事が気になりました。
「夏は混んでるけど冬はガラガラ」
「週末は混んでるけど平日はガラガラ」
「お昼前後は混んでるけど夕方からはガラガラ」
お客様の立場になれば…
「夏は混んでるけど冬はガラガラ」
→水族館と言えば夏でしょ!
「週末は混んでるけど平日はガラガラ」
→水族館と言えば休日でしょ!
「お昼前後は混んでるけど夕方からはガラガラ」
→せっかく行くなら朝から行くでしょ!
これらの「季節のギャップ」「曜日のギャップ」「時間帯のギャップ」は水族館業界では仕方がないことという既成概念がありました(水族館に限らず多くのレジャー施設が抱える事象でした)。
しかし、施設を不動産として見た時に「空室」は極めて勿体ない。
お客様が来ても来なくても魚には毎日ごはんを与え、水槽を掃除する必要があります。
しかも、施設側からの提供商品はどの季節でも、どの曜日でも、どの時間帯でも棄損することなく一定の価値がある。
更に個人的には
「集客施設というのはお客様が『場の空気(熱量)』をつくるので、どんな時も閑散としていてはダメ!」
というのが持論で、ガラガラの状態そのものが施設の魅力を損ねるものだと考えていました。
リピートされない「年間パスポート」
各ギャップを埋めるために最初に考えたのは「お客様の入り具合で入場料金を変動させる」ことでした。つまり需要と供給の関係で金額を設定するというものです。
しかし、「冬限定価格」や「夜間料金」等の設定は既存の水族館でも行なっており、大きな効果を生んでいるようには見受けられず、さらには見た目にも「閑散期の値引き」という感じがして導入する気になれませんでした。
(株価の様に需給関係がリアルタイムで反映されるのであれば面白いと思いましたが…(笑))
そもそも「冬に行く」「夕方に行く」というのは「ハズレの時期を買ってなんか損した気分」が潜在的にあると思い、何度行ってもコストが変わらないので損した気分にならない(かも知れない)「年間パスポート会員」に目を付けました。
当時の国内水族館の年間パスポート会員というのはコアファン(魚好き)に対する商品で、一般入場料金の4~5回分の価格設定でした。価格設定自体はディズニーランドや博物館と比較しても違和感がないものでした。
私は念の為に全国の水族館に連絡を取って「年間パスポート会員のリピート回数」をヒアリングしました。
すると結果は「平均2.5回」。
毎日のように来館される方が数人いるがほとんどリピートされないとのこと。2.5回しか行かないものを4~5回の金額で売ってるって…
私は「年間パスポートの価格を一般入場料金の2回分での販売」を指示しました。前代未聞の価格設定です。でも、合理的な価格設定です。
業界内でも否定的な声が聞こえてきましたし、社内でも猛烈な批判を浴びました。
既成概念をぶち壊す
「入場料金2回分で年間何回でも入館可能!」な商品への反響は物凄いものでした。
結果、事業計画では数千人だった年間パスポートは数万人に購入いただきました。
そして、年間パスポート会員の多くは繁忙期を避けて閑散期に来館いただき、目論見の「季節、曜日、時間帯のギャップの解消」に大いに寄与することになりました。
ちなみに、年間パスポート会員のリピート回数は約5回と従来実績を大幅に超えるものとなりました。
この点で言うと「やっぱり安すぎ!」と批判を受けましたが、年間パスポート会員の方々がご友人を同伴してくれたり、来館の度に館内でお飲み物を召し上がってくれたりお土産をご購入いただくことで売上の面でも大きく貢献しています。
最後に、現在は国内水族館の多くが年間パスポート「2回分」を導入しており、ある意味で水族館のスタンダードとなっていることを付け加えさせていただきます。
さいごに
全3編に及ぶ「水族館の既成概念をぶち壊す」シリーズ、いかがでしたか?
今シリーズ以外にも水族館経営の経験の中で得られた知見・考え方をシェアできればと思い、このnoteを続けています。是非チェックしてみてください!
JCEL株式会社 代表取締役 三坂伸也
三坂伸也の略歴
一級建築士
早稲田大学理工学部を卒業。
1985年大成建設(株)入社。
1989年オリックス(株)入社。
オリックス不動産(株)水族館事業部長、オリックス水族館(株)常務執行役員を経て、2014年12月オリックス水族館(株)代表取締役に就任。
京都水族館(京都市下京区)、すみだ水族館(東京都墨田区)の開発・運営責任者として陣頭指揮を執る。
2019年 2月JCEL(株)設立、代表取締役社長に就任
JCEL株式会社
国内で常に新たな水族館の形に挑戦をしてきた三坂伸也が代表を務めるJCEL株式会社。満を持して海外へ進出、「水族館の公園化」