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観察研究で因果効果はいえるのか?

近年因果推論の考え方が広がっており、看護系論文でも、傾向スコア(PS)を用いたPSマッチング、IPTWなど様々な手法を活用した研究が発表されています。

ある介入が効果があるというためには、医学研究であればRCTがゴールドスタンダードとされていますが、RCTができる介入は限られているという現実があります。
RCTはできないけれど、観察データなら取れる!何とか因果関係を言いたいというモチベーションから生まれたのが上記の手法ということのようです。
そんな中、最近Target Trial Emulation(TTE)という考え方も注目されていて、その考え方を用いた下記論文を今回は紹介したいと思います。

"Effect of seclusion on mental health status in hospitalized psychiatric populations: A trial emulation using observational data"
https://journals.sagepub.com/doi/10.1177/01632787231164489
「精神科入院患者の精神状態に対する隔離の効果:観察データを活用した
    ターゲットエミュレーション」

精神科病棟で行われる隔離という処置は世界各国で「必要悪」として用いられています。
強烈な人権の制限を加える隔離や拘束は、なくしたいけどなくせない、どうすればなくせるのかということが議論されています。

この論文は、そもそも隔離って精神症状の改善に有効なのか?逆に悪影響(再トラウマ体験など)の方が大きいんじゃない?という疑問に答えようとするものです。
我々精神医療従事者は、隔離が精神症状の改善に有効だから「人権上問題がある」とわかっていながら活用していたわけですが、「隔離」という介入でRCTが行えないことは容易に想像できると思います。
なので、この論文では、隔離の有効性をTTEの考え方(ついでにIPTW)を用いて検証しようというわけです。
TTEとは、非常に大雑把にいうと、この「介入」でRCTするとしたらどうする?を考えるということです。
これによって観察データやその解析で生じる様々なバイアスを調整しようということのようです。
この論文では、これを表1のフレームワークで説明しています。

この表1にも記載されていますが、TTEでは、EICAFOCAの要素で考えていきます。

E:Eligibility 組み入れ基準・除外基準
T:Treatment (具体的な)介入方法と比べたい対照
A:Assignment 割当、ランダム化の様式
F:Follow-up どのような状況からどれだけ追跡するか
O:Outcome 推定したい因果関係の結果、因果効果
C:Constract Intention-To-TreatかPer-Protocolか
A:Analysis 何の統計モデルを使うか

これらの視点を理想的RCT(Target Trial)と今回の観察データでどう模倣(Emulated Trial)できるかを考えていくことがTTEということです。
それぞれの項目で注意すべき点や限界などもあるので、詳細は別途ご確認ください。
今回の論文では、分析において「隔離」の因果効果を推定するためIPTWを用いています。
その結果、隔離群は、非隔離群と比べ、入院時に重症であるが、退院時に隔離の効果は見られなかったことが示唆されています。

多くの看護系の研究では、看護行為やケアの効果(因果)を知りたいというモチベーションがあると思います。
因果関係を示すことは容易ではないですが、様々な手法や考え方を学んで取り入れていけるといいなと思います。

(参考資料)
https://academic.oup.com/aje/article/183/8/758/1739860
hernanrobins_WhatIf_26apr24.pdf (harvard.edu)

(文責 的場)

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