成増

ファミリーレストランや居酒屋で、店員が注文した物を持って来るときに「こちらがミラノ風ピザになります」と言うことがある。以前から気になっているのだが、「なります」というのは何なんだろう。「なります」と言われると、ある状態から、別の状態に変化するように感じてしまう。厨房から店員が持って来ている間はナポリタンか何かで、客に出す瞬間にミラノ風ピザに変化するのだろうか。ならば「(今はナポリタンですが)ミラノ風ピザになります」という言葉にも納得できる。

「こちらがご注文のシーザーサラダになります」
「はい、どうも」
「そして、このシーザーサラダは、さらに川エビの唐揚げになります」
「えっ、いや」
「それでは、変わります。3、2、1、はい」
「えっ、あれ、これ川エビ。でもシーザーサラダを頼んだんですけど」
「それではごゆっくりどうぞ」
目の前に残された川エビの唐揚げの香ばしさ。

「こちらがご注文の北海道ホッケ焼きになります」
「えっ、いや、これ、枝豆ですけど」
「いえ、これからなります。変わりますよ」
「はあ」
「きえー」
店員の指先から青い光が迸り、枝豆は徐々にホッケに変わる。しかし、徐々に萎びる店員。
「すっ、すまねえ。失敗しちまった。おいらのの力ではどうやらここまでのようだ」
残されたのは、白髪になって力尽きた店員と、枝豆とホッケの間の中間生成物。

「こちらがご注文のハンバーグセットになります」
「はい、どうも」
「そして、こちらが私の息子なんですけどね、将来大物になりますよ」
親馬鹿店長。

「こちらがご注文の鰻御膳になります」
「ああ、ありがとう」
「そして、あたしは、あなたの彼女になります」
突然の告白に胸が高鳴る。

「こちらがご注文のエビチリ丼になります」
「はい」
「そして、乙女心で育まれた夢は星になります」
何を言っているのか理解できない。

料理が将来何になるか、それは料理自身が決めることだと思う。

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