スタミナ源

スタミナラーメン、スタミナ定食など、「スタミナ」が名前に付くメニューがある。何を以ってスタミナと名乗っているのかよく分からない。何がどうスタミナなのだろうか。やはり、スタミナといえば、焼いた豚肉が入っているのだろうか。
しかし、スタミナといえば、鰻は外せないのではないだろうか。スタミナ定食を頼んで鰻が出てきたらどうだろう。
「こちらがご注文のスタミナ定食です」
「いや、うな重じゃなくて、スタミナ定食を頼んだんだけど」
「当店では、こちらをスタミナ定食と呼んでいます」
「でも、これ鰻だと思うんですけど」
「お客さん、では、鰻とスタミナは無関係ということですか」
「いや、でも、スタミナ……」
恐らくお客は何も言い返せないだろう。スタミナの宝庫、栄養の権化たる鰻様なのだ。食べたらスタミナが付くことは間違いない。釈然としない思いで、スタミナ定食という名の鰻重を食べて帰るお客さん。しかし、お客にスタミナは確実についている。

はっきりとした定義のないスタミナ定食、店それぞれスタミナ定食があっても不思議ではない。

「スタミナ定食のお客様、お待たせいたしました」
店員がテーブルに置いたスタミナ定食は、どんぶり飯と、鉢にこんもり盛られた見たことのない草。
「すみません、これがスタミナ定食ですか」
「はい、こちらが当店のスタミナ定食ですが」
「何なのですか、この変な草」
「変な草ではありません。これはヘケヘケ草です」
「えっ……」
「アフリカ奥地の少数民族ンバホ族のスタミナ源です。これを食べれば、部族の英雄ソチャンマの魂が乗り移って、ライオンも蹴散らせるとンバホ族の長老が言ってました」
謎のスタミナ源、ヘケヘケ草。釈然としない思いを胸に食べるスタミナ定食を食べる客。そして客に乗り移る英雄ソチャンマの魂。よく分からない草で出る元気。
客は、ヘケヘケ草の意外にスパイシーでコクのある味に舌鼓を打ち、納得する。

「スタミナ定食のお客様。お待たせいたしました」
店員がテーブルに置いたスタミナ定食は、どんぶり飯と、キャベツの千切りに添えられた一枚の写真。
「すみません、これがスタミナ定食ですか」
「はい、こちらが当店のスタミナ定食ですが」
「この笑顔の子供が写った写真は何ですか」
「これは私の子供の太郎です」
「えっ……」
「うちのおじいちゃん、太郎の笑顔を見ると『いやー、孫の笑顔を見ると元気がでるのお』って喜ぶんですよ」
おじいちゃんのスタミナ源、孫の笑顔だ。釈然としない思いを胸に、他人の孫の笑顔を見ながら食べるドンブリ飯。何故か進む箸に驚く客。

「スタミナ定食のお客様。お待たせいたしました」
女子高生のアルバイトと思しき店員がテーブルに置いたスタミナ定食は、どんぶり飯だけ。
「え、いや、おかずは……」
「ええっと、……この手紙っ、……読んでくださいっ」
頬を赤らめた店員が差し出す手紙、思春期のスタミナ源、ラブレターだ。照れながら受け取る客。走り去る店員の後姿が甘酸っぱい。そんな青春の甘酸っぱさで食べるどんぶり飯、軽く5杯はいけそうな勢いだ。

それぞれのスタミナ定食。最初はスタミナ定食が気になって文章を書いていた私だが、今は、思いつきで書いたンバホ族の英雄ソチャンマの方が気になって仕方がない。ソチャンマのオリジナルTシャツを作ってしまいそうな勢いだ。はっきり書いてしまえば、最早スタミナ定食などどうでもいい。
スタミナ定食より、ソチャンマが私のスタミナ源になりそうだ。

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