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198 「職場の心理的安全性とキャリア安全性がマイナスの相関を持つ」という指摘。(稲田)2022/8/30

リクルートワークス研究所主任研究員・古屋 星斗さんによる『若手の離職リスクを高める「いい上司ばかり」の職場。“何者かになりたい若者”が求める条件とは』を興味深く読みました。


引用

時間が経過したとき、労働市場のなかで、友人・知人と比べて、といった自分を俯瞰した視座で、「自身の現在・今後のキャリアが今の職場でどの程度持続可能で安全な状態でいられると認識しているか」を捉える尺度と考えられる。

このキャリア安全性は若手社員のワーク・エンゲージメントに強いプラスの影響を与えていることがわかる。

自分のキャリアがいまの職場でどうなっていくのか安心して取り組めているという点で、この関係についても理解できるのではないだろうか。そのうえでポイントは、職場の心理的安全性とキャリア安全性がマイナスの相関を持つ点である。

つまり、職場における心理的安全性とキャリア安全性は、ともに若手社員のワーク・エンゲージメントを高める性質を持つ一方で、片方を高めればもう片方が低くなる関係を有しているのだ。

「キャリア安全性」の逆数

時間視座

このまま所属する会社の仕事をしていても成長できないと感じる

市場視座
自分は別の会社や部署で通用しなくなるのではないかと感じる

比較視座
学生時代の友人・知人と比べて、差をつけられているように感じる

Secureな職場
心理的・キャリア形成上の安全が確保されている

Heavyな職場
心理的安全性は低いがキャリア安全性が高い。成長機会や経験が多く積めるが高負荷が掛かる

Looseな職場
心理的安全性は高いがキャリア安全性が低い。弛緩を生む

Dangerousな職場
両方が低い。二重の危険が迫る

両方を高めたときにはじめて若手が最も成長し活躍できる環境が生まれるが、しかし両方を同時に高めることが極めて難しい、という現状である。

心理的安全性だけが高く、上司から「良いじゃん良いじゃん、どんどんやってみなよ」と言われるだけの職場では、キャリアの不安は全く解消できていないのだ。むしろ業務に関するフィードバックが乏しい状況を生んでいる恐れがあることを示唆している。

自社の職場の心理的安全性を高めるだけでなく、キャリア安全性の高い空間にするための手を打たなければ、直面する『なぜ若手が辞めていくのか』問題に抜本的な解決策を見出すことは難しい。


職場の心理的安全性とキャリア安全性がマイナスの相関性

企業運営と人材確保において、若手が「成長できる職場」と実感できることの重要性と困難さ(職場の心理的安全性とキャリア安全性がマイナスの相関性)が指摘されていて、とても興味深く読みました。おそらく正論だと思うし。共感する20代30代は多いのではないでしょうか。

一見、矛盾をはらんでいるようなこの問題に地方中小企業も向き合わざるをえないのだと思います。難しい問題だと思うけれども。


企業状況や中期目標によって成長性か安定性の優先順位は変わるはず

現実的には全ての企業が「Secureな職場」になることはできず、「Heavyな職場」と「Looseな職場」のブレンドになるのだと思う。それを「Dangerousな職場」にしないための舵取りが非常に難しい。 企業状況や中期目標によって成長性か安定性の優先順位は変わるはずなので進みながらの調整が必要になる。

つまり、「心理的安全性、キャリア安全性のどちらを優先するのか?」の採用方針は戦術的に必要になってくる。もちろん社内環境の整備も同時に進めなくてはならない。 だから、十年一日のごとく「素直でやる気がある人がほしい」みたいな素朴な採用メッセージしか出せない企業はこれから更に厳しい。と思っています。


追記 2022年9月4日

下記のツイートをみて本当にそうだなあと思いました。

『今の若者は、会社をずっと住む家と捉えるのでなく、乗り物と捉えており乗り換える前提で勤めている。 そのため理不尽な仕事に対するアレルギーが強い。やる意義を感じられないと辞めてしまう。 なのでWhyをしっかり伝える必要がある。』 最近読んだ記事。 これは実際面談してても、納得感ある。


「会社をずっと住む家と捉えるのでなく、乗り物と捉えており乗り換える前提で勤めている」

このマインドは恐らく一般化していくので、他社も含めた細かなフェイズでの自社のポジションとマッチングが企業側には必要になると思ってます。良し悪しではなく外部環境の変化なので、企業は適応できないと厳しい。


「このまま今の会社にいても成長できないんじゃないか」という若手の不安にどう向き合うか

企業は今後の採用活動において「社外視点での人的価値(市場価値)」を語れる能力が必要になるはずです。これまでは社内に限定した成長・価値・将来といったクローズな採用文脈でよかったのに、今後は社外でどう評価されるかという新しい文脈が求められる。この変化は劇的に大きい。

つまりは、成長意欲がある若者ほど感じる「このまま今の会社にいても成長できないんじゃないか/別の会社や市場では通用しない&求められない人材として年を重ねてしまうのではないか」という至極真っ当な不安と恐怖に企業はどう向き合いますか?無視しますか?対応しますか?という問いと言えます。

この問いの困難さは矛盾を内包している点です。

・今の会社で頑張れば他社でも通用する&求められる人材になれるという社内環境の整備
・その上で他社より魅力的な「今の会社を選び続ける理由」を提示し続ける

内向きと外向きの相反するベクトルを同時に求められます。これは地方中小企業には厳しい。

しかも、リモートワークの普及で「勤務 ✕ エリア」の縛りが薄まりました。業種によっては都市圏の同業他社に若手が引き抜かれる/転職するというケースが珍しくなくなります。つまり、これからの地方企業は自社の若手社員に「都市圏の同業他社と絶えず比較検討される立場」という状況が待っています。厳しい。

だから、地方企業は採用活動と社内評価制度の改革に本気で取り組んだ方がいいですよ…と思っています。 どうにか形になったという状態には早くても3年や5年はかかるのだから、「いつかやろう」なんて言える状況ではなく。問題が顕在化したタイミングですぐ解決できる施策なんてほぼ無いはずですから。

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