日本人よ、もっと逃げろ!


いまから10年くらい前の話ですが、ぼくはとあるブラック企業で働いていました

詳しいことは省きますけど、モノ作りの仕事なので体力的にもキツく先輩に毎日のように怒鳴られ、ときには物が飛んできたりする過酷な現場で毎日朝から終電ギリギリまで働いていました。そんなある日、いつものように電車に乗っているとそれは起こりました

突然、体が震えだして強烈な寒気に襲われたのです。心臓の鼓動も激しくなって胸が爆発しそうなほど苦しい。まるで誰かに首を絞められているような感じになって呼吸が荒くなり、うまく声を出すこともできず、意識もだんだん遠のいていきました。ああ、おれはこのまま死ぬんだ、と妙に冷静な自分がいたことは覚えています

次に気づいた時は駅のホームのベンチに座っていました。おそらく何とか自力で脱出して次の駅で降りたのでしょう。どうやってそこまで来たのか記憶が曖昧で覚えてないのです。でも、相変わらず強烈な寒気は止まらず一人でうずくまりながらガタガタ震えていました。ぼくは咄嗟に携帯を出して父に電話をかけました。人間、本当にピンチになった時に頭に浮かぶのは救急車ではなくて両親なのですね

そこからぼくの闘病、と言ったら大げさかもしれないけれど病気と向き合う日々が始まります。ひととおり病院で検査をしてもらい脳まで調べてもらったのに、どこにも異常は見つからず…。胃カメラで胃炎が見つかったくらいでした。苦しまぎれに医者は「自律神経失調症」と診断。でも、自律神経失調症という病気はないのです。要するに、原因はわからないけれど苦しんでいる患者に対してつけるニックネームみたいなものでしょうか

原因不明と言われても、頭痛、吐き気、倦怠感、動悸、頻脈、体の冷え、胃部の不快感、喉のつまり、など様々な症状に襲われているぼくには納得のいかない結果です。医者に治せないのなら自分で何とかするしかない。そう思ったぼくは自分で体のことを勉強しました。一時は完全に健康オタクになりましたね

あれから10年、本当に色々なことを試しましたが残念ながら完治していません。元気だった頃のパワーを10とすると今は6くらいの体力で生きています。もともと持病で患っていた耳管開放症も悪化しています

もしも、タイムトラベルで過去に戻れる能力があったとしたら、ぼくは当時の自分に言ってやりたいです。『そんな会社やめろ!逃げろ!!』と。なぜなら、体というのは一度壊れてしまうと、もう二度ど元には戻りません。完治といっても、それは8割くらい良くなっただけの話でしょう

昔と比べると過労死や自殺の問題が表面化してきていますが、日本人は異常なくらい我慢強い。我慢が強すぎて麻痺してしまっています。車のエンジンが火を吹いているのに気づかずに走っているドライバーみたいなものです。そのままいけば、いつか確実に壊れてしまいます。あのスティーブ・ジョブズも晩年には健康の大切さに気づいて自分の生き方を後悔したそうです

ぼくが当時勤めていた会社のホームページを久しぶりに覗いて見たら社員数が80名ほどになっていました。ぼくが働いていた頃は120人くらいいたはずです。おそらく業績が悪化して人員削減したのでしょう。仮にあのまま頑張って続けていたとしても、若くて経験も浅かったぼくはリストラの対象になっていたでしょう。あの時もっと早く逃げていれば、と何度も何度も後悔しました

辛いことから逃げていいんです、嫌なことがあったら逃げていいんですよ。野生の動物は自分の身に危険が迫っていたらすぐに逃げますよね?それが当たり前なんです。自分の命よりも大事な仕事なんて存在しません。でも、親も学校もそんなふうには教えません。子供たちの命を守りたいのなら逃げることの大切さを教えてあげなければダメなんです

日本の年間自殺者数は3万人と言われています。ですが、これは発見されている数であって行方不明者の数も足したら年間10万人が姿を消しているんです。もう完全に異常です。内戦でもこんなに死にません。この人たちはきっと「辛いことから逃げるな!」と洗脳されて育った人たちなのかもしれない

それに日本にはこれだけ人がいるのだから、必ず誰かが助けてくれるはずです。日本人は迷惑をかけてはいけないと教育されますが、インドは逆で迷惑をかけあうのが普通なのだそうです。日本人には迷惑をかける勇気が足らないし、人助けをして徳を積みたい人だっているはずです

起業家の家入一真さんは辛いことから正直に逃げてきたからこそ、今の自分があると言っていました。立ち向かって再起不能になるくらいなら思いきり逃げたほうがいい。必死に生きる必要なんてないんです。必死なんてものは、火事や地震が起きた時だけでいい。「逃げてもいいんだよ」と言ってくれる人が周りにいるかいないかで人生は大きく変わると思うのです

たしかに健康な人よりも死に近いところにいるからこそ発信できることや、表現できることもあります。ですが、そういう経験は誰もがする必要はないと思うし、ぼくみたいな人間だけでじゅうぶんです。

だから、ぼくは何度でも何度でも言います

辛いことがあったら、逃げてもいいんだよと。



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