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本の紹介

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#本

本心

平野啓一郎さんの新作が気になっている。最愛の人の他者性という見てはいけないパンドラの箱みたいなテーマならば尚更。言葉では何とでも言えるし言葉だけを信じていると痛い目にあうことはわかっている。しかし、本心を知ればその人に幻滅してしまうかもしれない。だから人は言葉に逃げるのではないだろうか。

愛が冷める時、そこには必ず本心がある。本心を隠したまま生きていくのは苦痛を伴う。だから好きな人にはせめて本音

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キリマンジャロの雪

「愛してないね。これまでだって」
「何を言うの、ハリー?どうかしてるんじゃない、頭が」
「いや。もともと頭なんかないんだよ、おれには」

豹がキリマンジャロの頂上を目指したのは、きっとそこが自分の死ぬべき場所だと知っていたからなのかもしれない。迷ったら頭なんて捨ててしまえばいい。心ゆくままに。

沈黙は詩的



「オレは100万回の人生で、100万回、幸せについて考えた」
「答えはわかった?」
「どこかでわかっていたなら100万回も考えない」
「そりゃそうだね」
「でも、なんとなく予想はついたよ。つまり幸せってのは風を感じることなんだ」
「ずいぶん詩的だ」
「猫はおしなべて詩的だよ。君は詩的じゃない猫に出会ったことがあるかい?」
「どうかな。たいていの猫は喋らないから」
「沈黙は詩的だよ」

(「いな

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マチネの終わりに



遅ればせながら、ようやく読み終えた。クラシックギタリストと美人ジャーナリストの切ない恋愛小説。だが、これは単なる恋物語として読むのではなく、おそらく多くの人にとって忘れかけていた優しさや純粋な感情をそっと届けてくれる手紙のような役割を担っているのかもしれない。特にあの震災以来、日本人はとても疲弊してしまっている。自分では気づかないほどに

主人公の蒔野と僕の年齢が割と近いことやギタリストという

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寝ることも人生だ



『ねむり』/村上春樹

眠ることが出来なくなってしまった女性の物語。カット・メンシックの挿し絵が美しい

ぼくは幸いにも今まで不眠という状態になったことがない。どんなに辛い時でも眠れてしまう。もはや眠ることが特技だと言っていいのかもしれない

人間は何も食べなくても飲まなくても一週間くらいは生きられるらしい。世の中には一日に青汁一杯だけで生きている人もいる。しかし、寝ないで生きている人はほとん

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