見出し画像

キルギスからウズベキスタンへ。夜行バスから壮大な朝焼けを見る【中央アジア旅行記③】

 海の上を船で走っているかのようだった。広がる闇の中、遠く地平線のかなたにぽつんぽつんと灯りが見える。そのすぐ上には星々がきらめいている。ほかに遮るものは何もない漆黒の平地が広がっていた。キルギスの首都ビシュケクからカザフスタン・シムケントへ向かう夜行バスの中のことである。カーテンをそっと開けると、こんな光景が目に入ってきた。

 バスの中は混んでいた。通路を挟んで座席が2列ずつ並ぶ、普通のバスである。私の隣にも、地元らしい男性客が寝ている。カーブも、アップダウンもない直線路をバスはひた走る。うとうとして目を覚まして…を繰り返し、ふと外を見て、私はあっけにとられていた。これを見るだけでもここに来る価値はあったなあ…と思う。やがてなんでもない路肩にバスが停まると、乗客の男たちはそれぞれに降りて路傍の草むらに向かった。私もそれにならい、草むらに立つ。壮大な朝焼けを見ながら放尿するのはとても爽快だった。


画像1

 真夜中に国境を越えて再びカザフスタンに入国。シムケントのバスターミナルに着いたのは午前6時過ぎだった。思い切り伸びをして、固まった体をほぐす。朝焼けが美しい。シムケントは素通りして、隣国ウズベキスタンの首都タシケントを目指す。

 ところでカザフスタンに5日以上滞在する外国人は、入国審査とは別に滞在登録というなんだかよく分からない手続きが必要。入国カードにハンコが2カ所押されていればオッケーだという。空路で入る場合は入国審査と同時にやってくれるが、陸路入国だとハンコは1カ所しか押されず滞在登録がされない、という情報もあった。この国境ではどうなるのか…と少し不安だったが、ちゃんと入国カードには2カ所の押印があった。仮に手続きされなくても4日以内に出国するから問題ないだろうとは思っていたが、出国時にいちゃもんをつけられると困るのでよかった。


画像2

 とりあえず腹ごしらえ…と思ってターミナルの食堂でプロフという炊き込みご飯。どうも前の日の残りだったのか、まあまあという味だった。ただ、この食堂の若い店員にウズベキスタンとの国境までの行き方、バスの番号などを教えてもらった。スマホの翻訳機能を使って積極的にコミュニケーションをとってくれるのがありがたい。いったん路線バスに乗ってコロスという場所に行き、そこから国境に向かうらしい。コロスへのバスは40番だと教えてくれた。

 プロフと紅茶で650テンゲ、約180円。バスは70テンゲ、約20円だった。


画像3

 さっきとは別の店。プロフをつくっているところに遭遇した。このような大鍋で、たっぷりの油を使ってつくるらしい。


画像4

 路線バスに乗ると、20分くらいでコロスに着いた。乗り合わせた客に「コロス、コロス」と伝えていたので、教えてもらえた。コロスは市場のようなところだった。バスを降りてすぐ目が合ったおばさんに「タシケントへは?」と聞いたら、その夫らしいおじさんが乗り合いタクシー乗り場に歩いて連れて行ってくれた。国境まで2000テンゲ、約550円という。マルシュルートカならもっと安いという情報もあったが、まあいいや、と乗ることに。スムーズなのは楽だが、おかげでコロスの写真を撮りそびれてしまった。

 乗り合いタクシーといってもただの乗用車なのだが、乗り込むと先客の女子高生、17歳があまり上手からぬ英語で何やかや話しかけてくれる。あとから乗ってきた19歳の男性もいろいろ話しかけてくれた。どうも外国人を見るとほっとかない性らしい。こういう小さなおせっかいがうれしい。車はまもなく出発し、1~2時間程度で国境の街に着いた。写真は、その道中。やはり平原がずっと続く。なぜかちょっと泣きそうになった。


画像5

 これがウズベキスタンとの国境ゲートのカザフ側。手前のバンには「シムケント」の表示。両替所がいくつもあり、「ウズベキスタンソムに替えないか?」とまとわりつかれる。一般的に国境を越えてから両替した方がレートがいいことが多いので断った。しかし、ウズベク側には両替所が見当たらず難儀したので、カザフ側で少額を替えていったほうがいい。


画像6

 カザフスタン人か、ウズベキスタン人か。国境の街は面白い。


画像7

 カザフスタンの出国で係官になぜかめっちゃキレられた。ロシア語かカザフ語か分からないが、現地語で何を言っているのか分からない。英語だったら違うとか、反論のしようもあるのだが、私は戸惑うばかりだった。滞在登録はきちんとなされているし、そもそもカザフスタンに入って10時間程度で、悪さをする間もない。何を怒られているのかさっぱり分からない。しばらく罵られた挙句、投げるようにして渡されたパスポートを開くと、ちゃんと出国印が押してある。なんなの。写真は、国境を越えてすぐのウズベク側。まとわりつくタクシー運転手がうっとうしい。

 それから、路線バスに乗って首都タシケント市内へ向かう。ウェブ上で見かけた旅行記によると、475番のバスが地下鉄の駅まで行くということだったが、なかなか来る気配がない。477番のバスが停まっていたので、聞くと市内へ行くという。市内のどこかは分からぬが、とりあえず乗ってみた。しかし、バスは延々とのどかな田舎道を行くばかりで、一向に市街地に着く様子がない。夜行バスの疲れもあって、うとうとしてしまった。

 目の前に座っていたおじいさんが「タシケントだよ」と言って起こしてくれて外を見ると、いつの間にか都会に来ている。ほどなく終点で降ろされた。バスには1時間も乗っていたけど、料金は均一につき1400ソム、約16円。

画像8

 バス停を降りて目の前にいた女性に「地下鉄の駅に行きたいのですが…」と英語で話しかけたら、なんと英語の通じる人だった。「反対側のバス停に行って、2つ先のバス停で降ります。何番と何番のバスが行きます」と極めて分かりやすく教えてくれたのだった。カザフスタン、キルギスでは英語が通じる人はまれだが、ウズベキスタンではときどき英語話者に出会う。さて、バス停に向かう途中にバザールがあったので寄ってみることにした。ユヌスバッド・バザールという名前らしい。


画像9

 ちょうど昼時だったので食堂コーナーへ。すごい熱気。地元の人が飯をかきこんでいる姿にはいつもわくわくする。有名なチョルスー・バザールと違って外国人観光客らしい姿は見かけなかった。


画像10

 頼んだのはショールバというスープ。じゃがいも、ニンジン、羊肉が入っていた。いいダシが出てる。紅茶はポットで出されるのでがぶがぶ飲めてありがたい。パンをむしって食べる。13000ソム、約150円。皿の絵柄がかわいい。


画像11

 市場の店のプロフ鍋。プロフはかなりポピュラーな料理。写真を見ていてもまた食べたい。

【個人旅行者に役立つかもしれない情報】
・ビシュケクからシムケントへの陸路入国でも、カザフスタンの滞在登録はなされた。
・シムケントからタシケントに向かうには、「コロス」という場所から乗り合いタクシーで行く。ビシュケクからの夜行バスが到着するバスターミナルからコロスへは、40番のバスで。
・シムケントからタシケントへの国境では、カザフスタン側には両替所が多数あるものの、ウズベキスタン側にはない。
・国境からタシケント市内へは、477番のバスでも行ける。その場合、終点はユヌスバッド・バザールのすぐ近く。

<中央アジア旅行記④へ続く>

※2019年8月の旅行です。通貨はかなり大雑把に換算しています。
※全ての写真は筆者撮影です。一切の無断使用や転載を禁じます。


読んでいただき、ありがとうございました。スキ!やコメントがとっても励みになります。