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カミュ「ペスト」を読む

こんな時だからこそ「異邦人」の著者であるアルベール・カミュの「ペスト」を読んでみる。不条理な物語は異邦人で主人公ムルソーを通して鮮やかに書かれていたが、このペストの主人公で医師のリウーは描き方が異なっている。前者は個人の視点から見ているが後者はより第三者的な社会の視点から見ているように思う。架空の物語なのにあたかも実際のアルジェリアで起こったかのような展開で、主人公以外の登場人物(友人タルー、老吏グラン、司祭パヌルー、犯罪者コタールなど)が未曾有の出来事でどのように変化していくのかカミュの簡素ながら読者を飽きさせることのない筆によって物語は進んでいく。不条理に直面した時に、人間は連帯し立ち向かっていくことの倫理観こそ、この物語の核であるように思われる。翻って今日の新型コロナウイルス感染症(covid-19)により、生きている人間すべてが避けることのできない現実として不条理に顕れた。この不条理はbefore/after coronaとして歴史に残ることになる楔になった。人間はこれまでの経験だけではなく、むしろこれからは未知の問題への想像力を駆使していかなければならないのではないだろうか。カミュのペストを読むことで文学の力をあらためて感じとった。

(参考)高橋源一郎のNHKラジオ「飛ぶ教室」でカミュの「ペスト」が取り上げられている。内容は読むラジオ版として読むことができる。

https://www.nhk.or.jp/radio/magazine/detail/gentobu20200320.html

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