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『ジャズ喫茶ベイシー Swiftyの譚詩(Ballad)』 訪問記

全国津々浦々からオーディオとジャズマニアがこぞって訪れる、ジャズ喫茶『ベイシー』。

一関到着早々に一目散に訪れるも、半ば予想していたもののシャッターは半開きで、本日休業の貼り紙が。

翌日めげずに、中尊寺からのバスを一関高前で降りる。
まだ開店1時間半前だが、角を曲がるとシャッターは全開で、灯りがついてるではないか!

おそるおそる1つ目のドアを開けると、ちょうど2つ目のドアが開き、マスター菅原正二氏が現れた。写真で見た通りめちゃくちゃ怖い。

「入れますか?」「まだ準備中だよ。」「・・・わかりました、あとでまた来ます。」「いいよ入って。」「!!!」

なんとも幸運である。
前日フラれてた分、感激もひとしおだ。
2つ目のドアを開けると、本で見たままの景色が目に飛び込む。
もちろん開店前だから一番乗りだ。恐縮しながら奥から2列目の隅っこの席に座る。

薄暗い店内に、2発の超巨大なジムラン(JBL)のスピーカー。グレッチのドラムセット。カウントベイシーオーケストラのステッカーが貼られたグランドピアノ。壁には無数の著名人のサイン。

女性のスタッフにコーヒーを注文し、しばし待つ。興奮と夢心地で席から立ち上がりその場でくるくる回りながら撮影していると、女性から「すみませーん、撮影ダメです。」、立て続けにマスターから「勝手なことすんじゃねえ!!スパイか!」と叱られ、震え上がる。

「すみません!スパイじゃないです!」とすかさず謝る。なんとか出禁は免れたようだ。自分の不粋さに恥じ入る。

マイルスのラウンドミッドナイトが流れている。が、音量は想像の半分くらい小さい。
んー、、と思いながら二曲聴いた後、音が止まった。
どうやらマスターが次のレコードに替えているようだ。
おっかなくてウロウロできず、目も合わせづらく、雰囲気で察するしかない。

針の落ちる音が聴こえる。

・・・・

「お前、物足りない顔してたよな。これがベイシーの音だよ。」

・・俺みたいな一見のミーハーに絶対そんなこと思ってるはずないのだが、そんな妄想してしまうほどマスターの一撃が俺を貫く。空気が一変したのだ。

「Sunday at the Village Vanguard」。ビル・エヴァンス・トリオの最高峰のライブ盤だ。
スコット・ラファロ、ポール・モチアン、そしてエヴァンス。
目の前のジムランのスピーカーの奥から目が離せなくなる。3人がそこにいるのだ。
まさに「音の周りに気配があるのではなく、気配の中に音があるのだ。」

マイルス、ベイシー、ハービー、エリントン、フィニアス・ニューボーン。一体、何枚何曲聴いただろう。気付けば2時間ばかり茫然としていた。
観光のお客さんも増えてきたので一旦退却。

東横インの1015室に戻り、コンビニつまみを肴にクラシックラガー缶を呑む。妻にカタコトなLINEを送信し少し気を落ち着ける。

さて18:30。すっかり陽も落ちた頃に再訪し、女性スタッフに「またいらしたんですね。」と笑顔で迎えてもらう。
先客は2名。再訪もあってかジムラン2発の中央のスイートスポットを案内してもらう。

座るや、すぐさま目の前には生演奏が繰り広げられ、どっぷりと浸った。
バーニーケッセルのポールウィナーズライドアゲインを鳴らしてくれたのは、きっと俺がギターを嗜むのを知ってのことかと思い込み陶酔する。

終始これ見よがしにマスターの著書を広げていたら(音に没入してマトモに読めなかったのだが)、スタッフのはからいで、閉店間際の帰り際、持参した2冊の本にサインをいただく。
マスターの著書が生み出された一角の席でだ。テーブルには書きかけの原稿用紙が無造作にあり、現在進行形の姿を見た思いで感激。

緊張でガチガチだったのだが、門前仲町から来たと言うと、いまは無きタカノのこと、西千葉のBillie'sのこと、5月に上映されるマスターを描いた映画のことや、今日は2がいっぱいだね(2020/02/22)と相好を崩して笑いかけてくれたこと、すべてに胸がいっぱいになった。

明日は仙台のジャズ喫茶 カウントに立ち寄るつもりだったがもう十分だ。ゆっくり寝て帰宅しよう。

最後に。
ベイシーの音は、俺の稚拙な表現力ではとても表せないのだが、甲本ヒロトの歌詞がまさに自分の感覚を捉えている。以下拝借。

***
一発目の弾丸は 眼球に命中 頭蓋骨を飛び越えて僕の胸に
二発目は鼓膜をつきやぶり やはり僕の胸に
それは僕の心臓ではなく それは僕の心に刺さった
リアル より リアリティ
***​

※2020/02/22 自身のFacebook投稿内容の再掲です

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