Rとの話(1)

Rと初めてあった時、視線が絡まり合うのを感じた。

そこにいるのは私たち二人だけで、

温度をお互いの目を通して伝えあったような一瞬。

次の瞬間には隣で私の手を弄ぶ彼のことを思い出し、罪悪感で視線を逸らした。


少しかわした他愛のない話は何かしらそれ以上のものが含まれていて、

そしてそこにはたしかに恣意的な性欲が潜んでいたように思えた。

思い過ごしかもしれない、そうでなければならない、と隣にいる彼の手を代わりにギュッと握りしめた。

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その春、私は彼の住むマンションへしばらく住まわせてもらっていた。

彼のマンションに住む人たちはみんな友好的で夜になるとみんな特に目的も持たずロビーに集まり、古びたソファに腰を下ろし安いビールで乾杯をする。

私も例によらず毎夜そこに顔を出し、すぐに他の住人と打ち解けることができた。

しかしいつも決まって10時に就寝する彼に合わせ、私たちカップルはいつもそこそこで切り上げ、部屋へ戻るのであった。

先に、はっきりと言っておきたいのだが、私は彼を溺愛している。とことんに愛している、彼の優しさは私を骨の髄から溶かすし、私をいつだって心から笑わせられるのも彼くらいのものだ。誰がそんな彼に不満を持つであろうか?しかし。彼によって溶かされた私の脊髄はどろどろとしており、また生き物のように時々何かを求め波立つのであった。それは所謂一種の淫乱さであり、また全てを自分のものにしたいというどうしようもない傲慢さでもあった。

そして私がそんなどろどろを隠し持つのにも気づかないで、その月の終わり私の彼は国に帰ることとなる。飛行場まで見送りに行き、私はもちろん彼のアパートメントには帰らず、自分の家へとそのまま帰るのであった。


Rと再会したのは夏のある日。私の住む家に近いビーチに友人たちときていたところたまたま出会した。またあの視線を向けられ、少し身体に電撃が走ったような気がした。痺れをごまかすように手に持っていたビール瓶を唇まで運ぶと、相変わらず飲むのが好きだね、と絶妙な距離感を含ませた声色で私に話しかける。どうしてももどかしい気持ちになり、グッとビールを傾け、あなたも飲むでしょ、と私はバーカウンターに目をやり、2人で歩き出す。夕日は微睡のようにやさしい速度で水平線に吸い込まれていく。


気づけば夜も深まり、皆終電が迫ることに気付いて今までバカ酔い騒ぎをしていたのが嘘かのように走り始めた。彼らの家までは車で1時間ほど離れているので、逃すわけにはいかないということだった。Rと2人の友人に私は、泊まっていけばいいから、と諭し彼ら酔っ払いを連れて私は自宅に向かった。学生の一人暮らしだ、家はとんでもなく狭く、ダブルベッドに四人で敷き詰まって寝ることに。Rは私の隣で寝ていた。みんなが寝静った頃、彼は私の身体に腕を控えめに回した。私は起きていることを悟られないよう、精一杯寝ているフリを、隣まで聞こえてしまうんではないかというくらいの心臓の音にも気づかないフリをしながら、過ごした。

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