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レギュラトリーサンドボックスに関するOJK規則2024年第3号

インドネシア金融庁(Otoritas Jasa Keuangan、以下「OJK」といいます)は、2018年にOJK規則2018年第13号を発行いたしました。これは、金融サービスにおけるデジタル金融イノベーション(inovasi keuangan digital、以下「IKD」といいます)を導入するものであり、IKDは、金融セクターの発展と強化に関する法律2023年第4号(以下「P2SK法」といいます)によりさらに強化され、現在では金融セクターにおける技術革新(inovasi teknologi sektor keuangan、以下「ITSK」といいます)として受け入れられています。

2024年に入り、OJKは金融セクターにおける技術革新についてOJK規則2024年第3号(以下「本規則」といいます)を制定しました。これにより、OJK規則2018年第13号は廃止されます。
本規則により、適格性基準の追加、テスト計画要件の導入、結果の判定とサンドボックスからの撤退の手順等が規定されました。

レギュラトリーサンドボックス

サンドボックスは、2016年に英国にて導入されたものです。英国金融行為規制機構(FCA)に適格性基準を満たすことを示す申請書を提出し、認められれば、サンドボックス期間中の限定的な認可を得て、FCAと合意した範囲内で、本来必要な許可を取得せずに現実の市場にて当該サービスを提供することが可能となります。

サンドボックスとは、「砂場」を意味し、規制のサンドボックス制度とは、イノベーションの促進のために、一時的に規制の適用を停止するなどし、新たなビジネスの実験場を創出することをいいます。かかる砂場でのテストを通じて、事業者はそのサービスを改善し、規制当局は当該サービスへの規制の在り方を検討できるというメリットがあります。

2018年の導入以降、インドネシアにおけるIKD及びITSKは大きく発展してきました。OJKの公式発表によると、2023年11月の時点で少なくとも97のIKD/ITSKのオーガナイザーがOJKに登録され、そのうち4つはOJKから推奨ステータスを認定されています。これらのオーガナイザーは、信用スコアリング、アグリゲーター、取引認証、E=KYC、ウェルステック、保険テックを含む14種類の分野をカバーしています。

金融セクターにおける技術革新に関する本規制の規定は、OJK規則2018年第13号の規定を踏襲しています。本規則のもとで、オーガナイザーは事業活動を開始する前にOJKのライセンス要件を遵守する必要があります。以下では、本規則における主な変更点を解説いたします。

ITSKオーガナイザー

オーガナイザーは、デジタル金融エコシステムにおける商品、サービス、ビジネスモデルに影響を与える技術のイノベーションを提供する者です。オーガナイザーは、金融サービス機関(Lembaga Jasa Keuangan)又は現行の法令に従って金融セクターで活動する者であり、株式会社その他の法人である必要があります。

ITSKの範囲

ITSKの活動範囲については、IKDとの相違点が二点あります。

一点目は、OJKの権限と監督下にあるITSKの範囲が拡大され、従前は商品先物取引規制当局(BAPPEBTI)の管轄下にあった暗号資産に関する事業活動も含まれるようになりました。
また、二点目として、OJK規則2018年第13号ではOJKの管轄下にあった保険に関する事業活動が除外されました。

本規制におけるデジタル金融資産に関するITSK活動の範囲は、以下の通りです。

  • 証券取引の決裁

  • 資金調達

  • 投資管理

  • リスク管理

  • 資金収集と分配

  • 暗号資産を含むデジタル金融資産に関する活動

  • その他デジタル金融サービス

サンドボックス・プロセス

OJK規則2018年第13号では、レギュラトリーサンドボックスへの参加にはOJKへの登録申請が必要であり、登録プロセスの後、OJKはどのオーガナイザーがレギュラトリーサンドボックスに参加できるか決定していました。

同様に、本規則でもオーガナイザーはレギュラトリーサンドボックスに参加するための申請書を提出する必要があります。レギュラトリーサンドボックスに参加を希望するオーガナイザーは、申請書、試験計画書その他の書類を添付し、OJKに申請し、その後、OJKがレギュラトリーサンドボックスの参加候補者のテストプランを評価します。その後、OJKがテストプランの改善が必要と判断した場合、参加者はその改善を行い、修正したテストプランをOJKに再提出しなければなりません。基本的な申請プロセスは以下の通りです。

① 申請書、試験計画書、添付書類等の提出
② OJKによるレギュラトリーサンドボックスへの参加承認
③ 最長一年間のサンドボックスプロセスの実施
④ サンドボックスプロセスの評価(合格又は不合格)
⑤ 不合格の結果が出た場合、オーガナイザーは全ての事業活動を停止し撤退
⑥ 合格の結果が出た場合、オーガナイザーはOJKに事業免許を申請しなければならない

テスト計画

オーガナイザーは、サンドボックスプロセスに参加する前に、以下の点を含むテスト計画をOJKに提出しなければなりません。

  • テストされる製品、サービスの特殊性やビジネスモデルの説明

  • 製品、サービス、ビジネスモデルに関する潜在的リスクの特定

  • 潜在的リスクの軽減計画

  • 必要なテスト期間、対象消費者、消費者数、試験・開発のパートナー、取引件数、その他イノベーションの障害となる可能性のある事由

  • 消費者苦情サービスや補償を含む消費者保護の仕組み

  • テスト開発を実施するための財政的準備と資源

  • テスト開発された事業がサンドボックスプロセスの後に継続できない場合の出口戦略

  • テスト開発のシナリオ

  • テスト開発の主要業績評価指標

 

適格性基準

本規則は、オーガナイザーがレギュラトリーサンドボックスに参加できるかどうかを評価するために使用される適格性基準について定めています。

この適格性基準は以下の通りです。

  • インドネシアの消費者、パートナー、一般市民が利用する金融サービス部門にイノベーションをもたらすものであること

  • 新規性があり、あるいは金融セクターにおける既存の慣行と大きく差別化できる要素のあるイノベーションであること

  • 消費者、一般市民又は金融セクターのエコシステムに利益をもたらし、サービスを改善し、価値を付加するイノベーションであること

  • テスト開発の準備が整っていること

  • テスト開発を必要とし、金融セクターの規制の下で過去に規制・監督されていないイノベーションであること

これらの基準に基づき、OJKはオーガナイザーの事業をサンドボックスに参加させるべきものか判断します。

ITSKサンドボックスの結果

従前のOJK規則2018年第13号では、オーガナイザーに対するレギュラトリーサンドボックスの結果は、①推奨、②改善、③非推奨に分類されていました。
他方、本規則では、サンドボックスの結果は単に合格又は不合格に分類されることになり、明確化されましたが、他方で、オーガナイザーに試験結果を改善する機会を提供しないことになりました。

本規則では、サンドボックスでテストを実施した後、オーガナイザーはOJKに最終報告書を提出しなければなりません。
その後、OJKはサンドボックスの結果を評価し、オーガナイザーの合否を決定することになります。オーガナイザーは、サンドボックスに合格した場合、承認書の有効期間内にOJKに事業許可を申請しなければなりません。

報告義務

本規則は、登録又は認可された法人について、新たな報告義務を規定しました。報告義務は、①月次報告を報告期間満了後10営業日以内に、②翌年4月30日までに年次報告書をOJKに提出しなければなりません。

また、OJKに登録又は認可されたオーガナイザーは、インドネシア国内にデータセンターとデータ復旧センターの両方を維持することが求められてますので、この点は留意が必要です。

既に登録申請中のオーガナイザーやOJK規則2018年第13号に基づくレギュラトリーサンドボックスの参加者には、①OJKからの登録又はライセンスの取得義務を伴う推奨、②OJKからの登録又はライセンス取得義務を伴わない推奨、③非推奨のいずれかのステータスが与えられます。これは、本規則の施行日から6か月以内に完了しなければなりません。

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