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格闘技愛好家から見た呪術廻戦の格闘描写①


0.はじめに


 すべての発端は、筆者が凍結されている際に、相互の人へ送られた或るマシュマロだった。


 これを読んで、筆者は首をかしげた。「呪術高専の学生は別に総合格闘技みたいな格闘技術を修めてなくね?」と思ったのだ。

 隙があったので自分語りをするが、筆者は呪術と格闘技のオタクである。
 呪術は0巻から本誌最新話まで読んでいて、アニメも劇場版を含め全て見ている。外伝小説も公式ファンブックも買っている。
 格闘技については、格闘漫画はあらかた読み尽くしているし、格闘小説もよく読んでいる。趣味で総合格闘技を数年やっており、試合にも何度か出ている。

 マロ主は、筆者のそういった情報を知って、このマシュマロを送ってくれたのだろう。嬉しい話だ。

 本題に戻ろう。

1.総合格闘技みたいな格闘技術

 呪術高専の学生は、総合格闘技みたいな格闘技術を修めているのだろうか?

 筆者の私見で言うと、修めているっぽい描写は無い。

 より厳密には、総合格闘技で使われている格闘技術を使ってはいるが、総合格闘技みたいな格闘技術と言ってしまうには微妙かな、と言ったところである。

 したがって、マロ主が間違っているとは言い切れない。

 順を追って説明しよう。

2.虎杖悠仁の技


 高専生のうち、徒手格闘の描写が多いのは虎杖悠仁である。彼は術式を持たず、武器も持っていない。初期はトザマとかいう短剣を振り回していたが、

呪術廻戦 第1巻 第4話『鉄骨娘』より

『虫くん』こと特級呪霊にアッサリぶっ壊され

呪術廻戦 第1巻 第6話『受胎戴天』より

 それっきりだ。
 そのため、虎杖悠仁はもっぱら素手で戦う。

 彼は生まれつき優れた身体能力と天才的な格闘センスを持っており、特に習わずともトップファイター顔負けの高等技術を使える。

 皆さんごぞんじ真人戦の卍蹴りも、

呪術廻戦 第14巻 第121話『渋谷事変㊴』より

 特に意識して使ったわけではなく、単にその場に適した最適動作を選んだだけらしい(公式ファンブックp5参照)。才能豊かでうらやましい限りだ。

 ではまず、卍蹴りについて考えていこう。
 これは、総合格闘技みたいな格闘技術だろうか。

 違う。

 卍蹴りは強いしカッコいい技だが、総合格闘技のリングで活躍したことは、残念ながらほとんど無い。
 少なくとも筆者は知らない。躰道出身の総合格闘家についても、ONEという団体のトイヴォネンぐらいしか知らない。トイヴォネンも、リングで卍蹴りを使ったことは無かったと思う(あったらマジごめん)。

 よって、卍蹴りは総合格闘技みたいな格闘技術とは言えないだろう。

 次に、東堂戦の縦拳

呪術廻戦 第5巻 第37話『京都姉妹校交流会─団体戦④─』より


 そして蝗GUY戦の特徴的な連打(これも縦拳ぽい)

呪術廻戦 第10巻 第7話「渋谷事変➄」より

 について。
 縦拳を使う格闘技は複数あるが、後者の特徴的な連打を使う技術体系は恐らく一つしかない。

 この連打は連環拳、もしくはチェーンパンチと呼ばれる。中国拳法の技であり、チェーンソーのように腕を回しながら打つ連打である。ぶっちゃけめっちゃ弱そうに見えるが(失礼でゴメン)、意外と強いらしい。ハン・フェイロンという中国人キックボクサーが実際に使っていた。

https://youtu.be/u2MuGLVSpsE?si=Mpl5NrRusYs5dIn7(0:35から)

3.縦拳とチェーンパンチの元ネタ

 ここでオタク臭いメタ的な読み方をするが、この縦拳とチェーンパンチは恐らく『喧嘩稼業』のオマージュであろう。

 縦拳はまんまこの流れ。

喧嘩稼業 第2巻 第8話「王手、王手、王手」より
喧嘩稼業 第2巻 第8話「王手、王手、王手」より

 そして、チェーンパンチはこれだ。

喧嘩稼業 第9巻 第62話「最速連打」より
喧嘩稼業 第9巻 第62話「最速連打」より

 呪術廻戦の原作者である芥見下々はオマージュ好きで有名だが、喧嘩稼業を読んでいることと、作中に喧嘩稼業のオマージュが複数差し込まれていることについては、意外と知られていない。ぶっちゃけ喧嘩稼業の知名度が低いからだと思うが。

 芥見下々が直々に認めている(ファンブック179ページ参照)喧嘩稼業オマージュとしては、このシーンがある。

呪術廻戦 第0巻 第3話「弱者に罰を」より

 これはこのシーンのオマージュだという。

喧嘩稼業 第5巻 第34話「アレ」より

 他にも、言及はないが、

呪術廻戦 第17巻 第151話「葦を啣む─肆─」より

 このシーンも、

喧嘩稼業 第11巻 第74話「互いの情景」より

 これのオマージュだろう。
 ちなみに不知火型は別に技とかじゃなくて単に土俵入りという儀式におけるひとつの形式なのだが、演出の都合上なんかカッコいい意味のある技みたいに扱っているのも共通点である。

4.縦拳とチェーンパンチは総合の技か?

 閑話休題(このフレーズ使ってみたかった)、縦拳もチェーンパンチも別に総合格闘技みたいな格闘技術ではないと思う。

 縦拳を使う総合格闘家は、確かにいる。
 しかしそのほとんどは中国拳法出身者ではなく、日本拳法(空手と柔道を混ぜたような武道。日本発の拳法の総称ではない)出身である。
 そもそも中国拳法出身の総合格闘家が全然いない。
 筆者は、アオルコロただ1人しか知らない。

 チェーンパンチを使う総合格闘家に至っては、1人もいない。先述のハン・フェイロンも散打という中国式キックボクシングの選手であって、総合格闘家というわけではない。

 したがって、縦拳もチェーンパンチも総合格闘技みたいな格闘技術でなない、と言えるだろう。

 よって、少なくとも虎杖悠仁の格闘技術は、総合格闘技にはあまり似ていない。

 彼は多彩な技を使っているが、どちらかというとカンフーみたいな映画的アクションに見える。カッコいいし、映画好きでミーハー気味な虎杖のキャラに合った描写だ。

5.武道史的豆知識

 そう思ったので、「虎杖の技は修めたんじゃなくて即興でやってるだけだし、それらの技の中に総合っぽい技は特に無いよ」という旨の回答を伝え、代理で投稿してもらった。

 すると、


 という答えが返ってきた。
 ぶっちゃけ、これは誤解である。
 寝技・関節技は、むしろ歴史的な技術体系である。呪術の作中で見られる寝技・関節技は今日の柔道・合気道で見られるものに酷似しているが、それらは古流柔術諸派から受け継いできた技が非常に多い。柔道・プロレス・ブラジリアン柔術で生まれた技でなければ、それは古流柔術で生まれた技だ、とさえ言えるだろう。
 ここで、ちょっと詳しい方は「古流に立ち関節があるのは知ってるけど、寝技なんて無くね?」と思ったかもしれない。
 確かに、格闘漫画などでも「古流柔術の時代は寝たら即座に短刀で刺されて死ぬ。だから古流柔術には寝技が無い。武器アリならともかく素手でやり合えば、寝技に偏ったブラジリアン柔術に勝てない!」みたいなのがよくある。

 実はこれ、大きな誤解である。
 初期の柔道家は古流柔術家、特に不遷流の寝技に大きく苦しめられてきた。
 それを抜きにしても、柔道が生まれる以前の古流柔術の乱取りは寝技に偏っていた、という話も残っている。
 古来より自由度の高い実戦的攻防は、打ち合い→取っ組み合い→倒れてもつれ合い→立ち上がって仕切り直しor決着の流れになりがちだ。総合格闘技もそうだし、古流もそうだ。総合の場合は関節技・絞め技で極めるか殴る蹴るでノックアウトかだが、古流の場合は刺し殺す。このときに暴れられると困るので、しっかり関節を極めるなり抑え込むなりして刺すのだ。

 そのような理由があるから、寝技も関節技も歴史ある技術と言えよう。

6.次回へつづく

 そう考えたところに、新たなマシュマロが届いた。

 これについては、「確かに!」と思った。

 確かに、伏黒の使った技の中には、総合格闘技で多く見られる技がひとつあるのだ。

 詳しく述べたいが、ちょうどキリが良いので、続きは次の記事でご覧いただきたい。



 





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