見出し画像

AU#26:筋膜トリガーポイントに対する体外衝撃波治療とドライニードリングの有効性の比較に関する無作為化試験1

タイトル日本語訳
筋膜トリガーポイントに対する体外衝撃波治療とドライニードリングの有効性の比較に関する無作為化試験1

序文
様々な科学技術が発展する中で、多くの物理療法や治療的介入がスポーツ医学界に参入してきました。中でもドライニードリングはここ数年で広く使われるようになり、この10年間で900以上の論文がPubMedに掲載されています。ドライニードルとは、神経筋骨格系障害の治療を目的として、筋膜トリガーポイント、筋組織、結合組織を刺激するために、皮膚を貫通する細い糸状の針を使用した侵襲的手技として定義されています。2 先行研究によって筋膜トリガーポイントに対する介入の有効性が報告されています。3,4 一方、物理療法の一つとして体外衝撃波治療も筋膜トリガーポイントへの介入の一つとして考えられますが、この10年間での論文の掲載は200件にも満たず、未だ発展途上の介入法です。今回紹介する論文は、僧帽筋上部の筋膜トリガーポイントに対するドライニードリングと体外衝撃波治療の効果を比較した論文です。

論文概要
背景
筋膜性疼痛症候群(Myofascial Pain Syndrome: MPS)は、慢性筋骨格系障害の最も一般的な原因の一つであり、現代社会において大きな医療的・経済的負担を与えている。首や背中上部の痛みはMPSの典型的な症状であり、触診可能な索状硬結の中で、関連痛や自律神経機能障害を特徴とする過敏点は、筋膜トリガーポイント(Myofascial Trigger Points: MTrPs) と呼ばれる。MPSは特に僧帽筋上部でよく見られる症状のため、研究者や治療家の間で大きな関心を呼んでいる。MPS患者の疼痛緩和には、理学療法、徒手療法、鍼治療、注射など、複数の方法が用いられている。MTrPsの治療において、ドライニードリング(Dry Needling: DN)は固形のフィラメント針を軟部組織に直接刺入する侵襲的処置と定義される。DNの有効性は、これまでの研究で実証されており、DNによって誘発される局所的な痙攣反応は、疼痛緩和と筋硬直の軽減を促進すると考えられている。一方で、体外衝撃波治療(Extracorporeal Shock Wave Therapy: ESWT)は、非侵襲的で効果的かつ安全なツールとして、筋骨格系疾患に応用されてきた。ESWTの第一の治療効果は、ターゲットポイントに直接有益なパルスを照射することであり、第二の効果として、組織の修復と再生を誘導する生物学的効果が挙げられる。これまで、上顆炎、足底筋膜炎、石灰沈着性腱炎治療におけるESWTの有効性について十分な科学的根拠があるが、僧帽筋上部MTrPsに対するESWTの適用については、まだ十分に検討されていない。

目的・仮説
本研究の目的は、僧帽筋上部のMTrPsの治療における放射状ESWTとDNの有効性を比較することである。筆者は、ESWTは疼痛緩和、機能回復、筋硬直改善の目的に対して、少なくともDNと同程度の効果があるという仮説を立てた。

方法
MTrPs患者65名を無作為にESWT群(n=32)とDN群(n=33)に分けた。患者は1週間間隔で3週間の治療を受けた(両群とも)。治療前、1回目の治療直後、1ヵ月後、3回目の治療終了3ヵ月後に、痛みの強度を測定する視覚的アナログスケール(Visual analog scale: VAS) 、圧痛閾値、頚部障害指数 (Neck Disability Index (NDI)、剪断弾性率を評価した。

結果
VAS、圧痛閾値、NDIのスコアは、いずれの治療群においても治療後のすべての時点で有意な改善が認められた(P < 0.01)。MTrPsの剪断弾性率は、DN群(P < 0.05)およびESWT群(P < 0.01)ともに、初回治療直後に減少した。剪断弾性率の有意な低下は、両群とも治療後3ヵ月まで維持された(P < 0.01)。ESWTとDN群の間に有意差はなかった。

結論
ESWTは、3回の治療後、MTrPs患者の疼痛緩和、機能改善、剪断弾性率の低下に対して、DNと同等の効果を示した。

まとめ
1980年代から衝撃波治療が臨床的に腎臓結石、骨折、腱炎等の治療に利用されるようになり、少しずつその有効性がエビデンスとして明らかになってきました。MTrPsの介入として、適切な資格と教育のもとドライニードリングの使用が広がる一方で、患者によっては抵抗感や禁忌がある場合があります。このような状況で、体外衝撃波が非侵襲的で安全かつ効果的な治療の選択肢として臨床現場で使われる場面が増えるかもしれません。他にも超音波やレイザー治療、カッピング、器具支援軟部組織モビリゼーション(Instrument Assisted Soft Tissue Mobilization: IASTM)など、様々な治療的介入法があります。症状や場面に応じた適切な選択能力を養うために、今回の論文によって、特に体外衝撃波とドライニードリングに関する理解が深まれば幸いです。

Reference

1.     Luan S, Zhu ZM, Ruan JL, et al. Randomized Trial on Comparison of the Efficacy of Extracorporeal Shock Wave Therapy and Dry Needling in Myofascial Trigger Points. Am J Phys Med Rehabil. 2019;98(8):677-684. doi:10.1097/PHM.0000000000001173
2.     American Physical Therapy Association (APTA). Description of Dry Needling in Clinical Practice: An Educational Resource Paper. Virginia: APTA Public Policy P, and Professional Affairs Unit; 2013.
3.     Liu L, Huang QM, Liu QG, et al. Effectiveness of dry needling for myofascial trigger points associated with neck and shoulder pain: a systematic review and meta-analysis. Arch Phys Med Rehabil. 2015;96(5):944-955. doi:10.1016/j.apmr.2014.12.015
4.     Liu L, Huang QM, Liu QG, et al. Evidence for Dry Needling in the Management of Myofascial Trigger Points Associated With Low Back Pain: A Systematic Review and Meta-Analysis. Arch Phys Med Rehabil. 2018;99(1):144-152.e2. doi:10.1016/j.apmr.2017.06.008

文責者:井出智広

編集者:姜洋美、岸本康平、柴田大輔, 杉本健剛、水本健太(五十音順)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?