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AU#34:Roundtable on Preseason Heat Safety in Secondary School Athletics: Prehospital Care of Patients With Exertional Heat Stroke 『高校におけるシーズン前の暑熱対策に関する有識者会議: 労作性熱射病患者の病院前救護(プレホスピタルケア)』

序文(背景・目的)
労作性熱射病は深部体温が40.5℃以上に上昇し、中枢神経系機能障害(例:発作、意識混濁)がある状態を示します。深部体温40.5℃以上の状態が長ければ長いほど死亡のリスクは高まると考えられており、30分以内に深部体温を38.9℃以下まで下げることが労作性熱中症の対策の鍵になってきます。労作性熱射病の予防に関しては、湿球黒球温度(Wet Bulb Globe Temperature: WBGT)に基づいた運動:休憩比率の調整や暑熱馴化などがあげられますが、今回は直近でアップデートのあった労作性熱射病の病院前救護に照準を当てた内容です。労作性熱射病の病院前救護のゴールドスタンダードは、搬送前の全身冷却による深部体温の低下であり、生命の維持において最も大切な鍵となります。先行研究によれば、2005年~2016年を対象にした日本での中学高校スポーツ現場における突然死の第3位が労作性熱中症に関連した事故と報告されています。²労作性熱射病の死亡事故は早期発見と早期対応によってほぼ100%の確率で防げると言われています。³ 今回紹介する論文の目的は、(1)病院前救護に焦点を当てた労作性熱射病に関する誤解を紹介すること、(2)労作性熱射病の診断と治療に関する最新のエビデンスを議論すること、および(3)アメリカの高校で働く臨床家が労作性熱射病に対して実用的かつ最善の対応を取るための戦略を紹介することです。

方法
33名の専門家(高校現場のアスレティックトレーナー(AT)7名、スポーツ医師5名、救命救急医1名、労作性熱中症の対応を専門とした研究者12名、生気象学者2名、環境運動生理学者5名、疫学者1名)が労作性熱射病に対しての患者の正しい対応と治療に関して専門知識を要することを条件に意図的に有識者会議の参加者として選定された。2段階で構成されたデルファイ法が用いられた。1段階目では、13名(高校現場のAT、スポーツ医師、救急命医、労作性熱射病専門の研究者)により(1)労作性熱射病の発見と診断(2)労作性熱射病の適切な治療に通ずる病院前救護に関する文献調査が実施された。その中から18項目の誤解のある記載を特定し、それをもとに行動指針の推奨案の推敲を行った。2段階目では、有識者会議参加者33名に匿名アンケートが実施された。アンケートでは、各自が、推奨案の内容を妥当性、実現可能性、明瞭さに関して1~9点で評価し、評点理由を記載した。その3項目における平均評点7点以上が最終原案において採択され、3点未満が棄却された。一回目の匿名アンケートで4~7点未満の評点項目は再度アンケートが実施され、7点以上となれば最終原案に採択された。




結論
・労作性熱射病は生命の危機を脅かす一方で正しい計測と対応により生命を守ることのできる傷害である。特に直腸温の計測により労作性熱射病は診断されるべきであり、発生後30分以内の全身冷却が鍵である。全ての中高の競技活動団体が労作性熱射病や他の暑熱による傷害に特化した包括的かつ詳細な方針および対応手順を記載および活用するべきである。
・労作性熱中症に関する方針と手順、および緊急時対応計画 (Emergency Action Plan: EAP)はすべてのスタッフが即座に利用できるようにする必要がある。そして、スポーツ医科学チームが、教育および労作性熱中症に関する傷害に関連した緊急時対応計画の確認、訓練を繰り返すことが重要である。医療チームと管理者の適切な計画およびコミュニケーションが図られることで、労作性熱射病後の最悪な結果を軽減することができる。

まとめ

今回は労作性熱射病の病院前救護に関する論文を紹介させていただきました。労作性熱射病による死亡事故は正しい対応により確実に防げます。”Cool first transport second”(冷却第一、搬送第二)という言葉がありますが、労作性熱射病の診断後の即座の冷却が非常に重要です。今回紹介させていただいた誤解を確認し、労作性熱射病のケアに関わる可能性のある人(アスレティックトレーナー、医師、監督、管理者、選手、保護者)が再度正しい知識を身に着けられるよう、コミュニケーションと教育を図ることが必要です。 夏に備えて労作性熱中症全般および労作性熱射病に特化した独自のガイドラインを作成し、再度ガイドラインの確認をするべき時期ですね。一方で、直腸温の計測に関しては日本であれば、アスレティックトレーナーの使用が認められない中で、医師や救命救急士と連携しどのように病院前救護を行うか、独自の環境に応じたガイドラインを作成し、緊急時対応計画に沿った訓練を実施していきましょう。

Reference

  1. 国土交通省気象庁. “日本の年平均気温”. 2024-01-14更新. 2024-04-27閲覧. https://www.data.jma.go.jp/cpdinfo/temp/an_jpn.html.

  2. Hosokawa Y, Murata Y, Stearns RL, Suzuki-Yamanaka M, Kucera KL, Casa DJ. Epidemiology of sudden death in organized school sports in Japan. Injury Epidemiology. 2021;8(1). doi:10.1186/s40621-021-00326-w.

  3. Stearns RL, Hosokawa Y, Belval LN, et al. Exertional heat stroke survival at the Falmouth Road Race: 180 new cases with expanded analysis. J Athl Train. 024;59(3):304-309. doi:10.4085/1062-6050-0065.23.

  4. Miller KC, Casa DJ, Adams WM, et al. Roundtable on preseason heat safety in secondary school athletics: Prehospital care of patients with exertional heat stroke. J Athl Train. 2020;56(4):372-382. doi:10.4085/1062-6050-0173.20

文責:千葉大聖
編集者:井出智広、大水皓太、姜洋美、岸本康平、後藤志帆、柴田大輔、杉本健剛、橋田久美子、水本健太、山本あかり(五十音順)


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