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COVID-19の誤情報の拡散を防ぐには

<感染拡大防止のコミュニケーション> Curated by 田中幹人

 パンデミックについての誤った情報が蔓延しています。 信頼すべきニュースと欠陥のあるニュースをどうしたら見分けられるのでしょうか。米国スミソニアン協会のスミソニアン・マガジンの記事を翻訳して紹介します。


How to Avoid Misinformation About COVID-19

9th. April, 2020, Lila Thulin, SMISONIANMAG.COM

仮訳(引用の前に原文にあたってください)

 2月中旬、世界保健機関のテドロス事務局長は国際安全保障会議でこう語った。 「私たちはエピデミックと戦っているだけではない。インフォデミックと戦っているのだ」

 COVID-19の感染者が世界中で急増しているため、「誤情報(ミスインフォメーション)」も増えている。 イタリアのブルーノケスラー財団の調査によると、2020年3月のTwitterへの日平均46,000件の新しい投稿は、危機に関する不正確または誤解を招く情報にリンクしていた。

  急速に変化する状況は、人々がパンデミックに関する情報を自然に把握していることを意味する。 では、信頼できるものと偽ものを区別する最良の方法は何だろうか。スミソニアン誌では科学コミュニケーションや誤報を研究する専門家に、ニュースを読んだり、記事を読んだり、Facebookを閲覧したりする際に注意すべき点を尋ねた。

COVID-19の誤情報が広がる理由

 科学・政治コミュニケーションを研究するウィスコンシン大学マディソン校のDietram Scheufele教授は、自分が見たり共有したりした話が本当かどうかわからない場合は、そう感じているのはあなた一人ではないことを知って欲しいという。

 政治的な緊張状態や(あなたが保守的か、リベラルかといった)党派性は、新しい情報に接したときに、あなたがそれをどう受け取るかということに影響を与える。現状のパンデミックについての不確実性と社会不安は、そのことと相まって、誤った情報を熟成させる環境を作り出している。

 政治的な誤情報についての研究によれば、不安や怒りのような感情も、人々がフェイク・ニュースをどう処理するかに影響を与えることを示唆している。

 これらに加えて、2017年にPew Research Centerが調査した結果、アメリカ人のほぼ半数は「ニュースに出てくる結論(findings)を理解できるほどには、科学の知識がない」ことを裏付けている。

 もう1つ覚えておかなければならないことがある。私たちは全員、自分が思っているよりもだまされやすいということだ。 2016年のPewの調査によると、アメリカ人の23%が、どこかで偽のニュースを共有したと報告した。

 ニューヨーク大学とスタンフォード大学の研究者がワシントンポストで発表した研究によると、COVID-19に関する虚偽または誤解を招く記事が表示されたとき、そのニュースを虚偽であると認識した人はわずか30%だった。

「何かを見たとき、私たちはまずそれを信じようとするのです」と、NOVA WGBHのリタアレン財団で市民科学フェローとして誤情報を研究しているReyhaneh Maktoufi氏は言う。

 ただし、誤情報と戦うことは簡単である。少し時間をとって、あなたが広めようとしている情報の正確さを評価して欲しい。 MIT Sloan School of Managementとカナダのレジーナ大学の研究者によるプレプリント論文によると、人々は、無関係な見出しの記事の正確さを検討するために「ナッジ(nudge, 行動を喚起・誘導すること)」された後には、COVID-19の誤った情報を共有する可能性が低くなるという。

 Maktoufi氏は3段階のプロセスを推奨している。情報源を確認し、作成者を確認し、内容を確認する。 それでは、ニュースを吟味するために専門家が推奨する方法と、知っている誰かが誤った情報を共有した場合の対処方法を以下に示そう。

●ニュース提供元が信頼できるかどうかはどうやってわかりますか?

 ミネソタ大学でマスコミュニケーションの准教授を務め、ソーシャルメディアでの健康に関する誤報について研究しているEmily K. Vraga氏は、あなたが情報の出典について詳しくない場合は、「ググって(インターネットで検索して)」正当な報道機関かどうかを確認すべきだと言う。

 「Media Bias / Fact Check」というサイトは、「事実の報道」とイデオロギーの歪曲について、さまざまな報道機関を評価している。疾病管理予防センター(CDC)や世界保健機関(WHO)などの主要な保健機関は、COVID-19パンデミックに関する最も信頼できる情報源の1つだ。

 ニュース提供元が信頼できることを確認したら、Scheufele氏とMaktoufi氏は著者をチェックすることを勧めている。著者がコロナウイルスまたはパンデミックの専門家であるか、関連分野の科学者であるかを検討する。著者がジャーナリストの場合は、彼らの通常の仕事を確認する。書き手は、科学的なトピックをカバーした経験のある記者だろうか?

 もう1つの経験則として、「1つの情報源だけに依存しないでください」とScheufele氏は言う。代わりに、コミュニケーション学者が「ラテラル(横読み)・リーディング」と呼ぶものを練習し、さまざまなニュースソースから情報を収集する。特定の結論が、異なる信頼できる情報源で繰り返し現れる場合、それに対するあなたの信頼を高めるはずだ。

レポートの情報が正しいことを確認するにはどうすればよいですか? 注意すべき赤信号は何ですか?

 レポートがいつ公開されたかを確認しよう。 「特にCOVID-19 のニュースの場合、日付は非常に重要です」とVraga氏は言う。なぜなら、感染者数のように、「現場の多くの事実が根底から変わる可能性があるからです」

 提示された情報がどこから来ているのかを確認しよう。 それは、政府の疫学者、CDC、または別の信頼できる組織によるものだろうか? もし情報源へのリンクがある場合は、そのリンクをクリックして自分でデータを再確認する。 「リンクをクリックする」というルールは、ソーシャルメディアで流れてくるニュースの見出しにも適用される。記事を共有する前にそれを読むこと。

「深く息をして、懐疑的になりましょう」とVraga氏は言う。次のような赤信号が灯ったときには、特にそれが必要だ。冷静で良識的な見出しではなく、感情的に読者を惹きつけようとする、あまりにも出来すぎていると感じられる見出しやニュースに出くわした時だ。 

科学研究の仕組みについて知っておくべきことは何ですか? 「強い」研究と「弱い」研究をどうすれば区別できますか?

 2016年の全米科学委員会の調査では、77%のアメリカ人が「科学的研究」の概念を理解していない、または定義できないと答えた。 「科学は常に反復的で進行中の自己修正プロセスです」とVraga氏は言う。 ひとつの研究は、それを裏付けし、より詳細にそれを記述するためのさらなる研究が必要な、参考情報として扱われなければならない。 

 科学コミュニティは、この再現性を2015年全米科学財団の報告書で「同じ材料と手順を使用して以前の研究の結果を複製する研究者の能力」と定義している。 このプロセスにより、元のチームの作業に重大なエラーが明らかになったときは、それがまれにしか発生しないとしても、研究は「撤回」され、データに欠陥があるか信頼できないことを科学コミュニティに知らせる。 学術雑誌は、撤回された研究を出版物から撤回する場合がある。しかし、撤回のニュースは、報道に必ずしも反映されるとは限らない。

 研究は通常、「ピアレビュー」と呼ばれる厳格な審査プロセスを経て行われ、その間に、関与していない科学者が研究結果をダブルチェックしてから、信頼できる科学ジャーナルで発表される。査読プロセスには数週間から数か月かかる場合があるが、今のような前例のない時期には、世界中の研究者は通常の仕事から離れてCOVID-19に対して、全力疾走で科学のペースを速めている。 2月のロイターの報告によると、当時COVID-19について発表された153件の研究のうち、92件はピアレビューされておらず、3件は撤回された。

 同様に、臨床試験は人間にとって治療が安全かつ効果的であることを確認するために、時間のかかる一連の検査を含むため、薬物およびワクチン試験に関するニュースには注意が必要だ。

 科学は非常に専門的であるため、自分で科学研究を精査することを期待するのは非現実的です、とScheufele氏は言う。代わりに、彼はこれらの質問をすることを提案する:「研究は査読されていますか? それは評判の良いジャーナルに掲載されていますか? 著者は一流の大学で働いていますか? また、研究がニュースメディアで報道されている場合、利害関係のない他の専門家は結果をどう考えていますか?」

 研究が現在の科学的コンセンサスに反する場合、それは余分な懐疑論を正当化する、と彼は付け加える。 Vraga氏は、調査のサンプルサイズ(何人、またはいくつのデータが関係していたか)をチェックして、調査が小さすぎれば、より大きな母集団には一般化できないかもしれないことを確認するよう推奨している。

 最後に、Scheufele氏は次のように述べている。「その研究が、不確実性や警告の確認もなく絶対的な主張をしている場合、それはおそらく(論文の著者にとって)都合が良い「真実」にすぎない、ということです。

最近、「X病院の医療提供者である私の友人は言う」、とソーシャルメディアに投稿されているものがたくさんあります。 これらは信頼できますか?

「少数の逸話はデータではありません」とScheufele氏は言う。 つまり、1人または1人の医療従事者の経験を、広く一般化できるものとして扱うことは注意が必要だ。

●ソーシャルメディアで流通しているグラフ、画像、またはインフォグラフィックを見るとき、何を知っておくべきですか?

 画像や動画、たとえば広く流通している動画ですが、実際には南イタリアのサルデーニャ島からのビデオであるにもかかわらず、イルカがヴェネツィアの運河で目撃されたと主張しているような動画の場合。Google画像のような画像検索ツールで、写真または動画を検証できる 。

 Broad InstituteのデータビジュアライゼーショングループのPatternを率いるBang Wong氏と、Science誌の主任グラフィックエディターであるAlberto Cuadra氏は二人とも、読者にチャートやインフォグラフィックの説明文を探すことを勧めている。 信頼できるソースからのグラフィックの説明を探し、軸ラベルを注意深く読み、描かれたデータの出所を確認し、測定単位に注意すること。

  たとえば、一定人口あたりの感染者数、全体の感染者数、および増加率は、深刻なアウトブレイクが発生している領域を理解するための3つの異なる指標だが、検査限界(病気の可能性のある人を検査し、数えられる人数)が、これらの数値を歪める可能性があることを認識しなければならない。

情報源が事実を捻じ曲げ、政治の物語に合わせているかどうかをどのように判断しますか?

「コンテンツを見て判断してください:誰にメリットがありますか?」 とMaktoufi氏は言う。 「それは特定の集団や党派や会社に利益をもたらしていませんか?」 また、不確かな言説を専門のジャーナリズム情報源(健康ニュースに焦点を当てたStat Newsなど)の報道や、CDCおよびFDAといった公的機関からの情報と比較することもできる。

私のソーシャルサークルの誰かが、すでに私が偽りだと知っている情報を共有した場合、どうすればよいですか?

 軽蔑したり残酷な態度をとってはいけない。 あなたと同じように、あなたの友人、知人、または家族の一員も、この病気についてよく考えており、心配しているだろう。 それらを穏やかに修正し、確実に信頼できる情報源を教えてあげるべきだとMaktoufi氏は言う。

 この最後のステップはとくに重要だ。数年前、Vraga氏は、彼女の研究に参加している何百人もの大学生が、ジカウイルスに関する誤情報を含むFacebookおよびTwitterのフィードをシミュレートしたことを示した。作成されたコメンターが訂正の出典(SnopesまたはCDC)にリンクした場合、後で尋ねられたときに生徒が嘘情報に同意する可能性が低くなったが、出典不明の修正はその効力がなかった。

 次のように丁寧に訂正をしてはどうか、とVraga 氏は言う。:「怖いはよく分かります。私たちはみな解決策を探しているのです。しかし、最良の証拠は...」そして、そのコメントを読んだ人がリンクをクリックしない場合に備えて、最良の証拠が何を示しているかを端的に述べる。誤情報に再び言及することは避ける。あなたも、悪い情報がこれ以上広まることを望んではいないはずだ。

 すでに誰かが誤情報を修正するコメントを出している場合は、その人物をバックアップしよう。理想的には自分でもコメントし、さらに別の証拠ソースにリンクする。研究によれば、あなたが親しい人に対しては、あなたの訂正は成功する可能性が高くなる。

誤って不正確な情報を共有してしまった場合はどうすればよいですか?

 自分が誤った情報を共有していることに気づいた場合、Vraga氏は、理想的には元の不正確な発信を削除し、(SNS)投稿やメールなど、あなたが誤った情報を共有してしまったのと同じプラットフォームで、自ら修正した文章を作成すべきだと言う。 あるいは、元の投稿をはっきりと修正箇所を明示して訂正するーただし、この場合は更新に気づいてもらえないこともあるが。そして、誤りを知らせてくれた友人に感謝しよう。

専門家が推奨する信頼できる情報源

World Health Organization
Centers for Disease Control and Prevention (CDC)
・Helen Branswell, Stat News’ senior infectious diseases reporter
・Anthony Fauci, director of the National Institute of Allergy and Infectious Diseases, member of the White House’s coronavirus task force
・Here’s a list of reliable science journalists from Yale epidemiologist Gregg Gonsalves

誤報や神話を正すページ:

・WHO による “Myth Busters” page 
・カナダのRyerson Social Media Labの研究者は、COVID-19の誤った情報を追跡し、事実と照合している。 4月8日の時点で、彼らのトラッカーには、嘘、誤解を招く、証明されていない、または操作されているとして分類された1,714のエントリがある。
NewsGuardは、COVID-19の誤った情報を含むウェブサイトを一覧表示。
Media Bias / Fact Check
Wikipedia にはフェイクニュースサイトのかなり完全なリストがある。
International Fact-Checking Networkの一部であるニュース組織のリストで、信頼できるファクトチェッカーを見つけられる。

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