賞レースの審査員

今年のM-1グランプリが終わりました。

参加総数5081組から選ばれし10組のファイナリスト達が火花散らすバトルを展開し、見事マヂカルラブリーさんがその頂を制覇しました。
おめでとうございます。

大会終了後から、漫才の定義とは何ぞや?と広く議論が交わされているようですが、そちらに興味は湧かないので、今回は陰の功労者でもある『審査員』に焦点を当ててみたいと思います。


賞レースの決勝の舞台では、知名度の高い有名人の皆様が審査員として顔を揃えてらっしゃる訳ですが、何もその方々は予選から芸人さん達を見ているわけではありません。
各予選ごとに審査を担当される審査員の方々がそれぞれいらっしゃいます。

予選の審査員は、たいてい放送作家の方か、テレビ関係者の方々が見ています。
1回戦は作家の方が2人など少数で、若手の作家さんが審査をする事も結構あります。
しかし2回戦、3回戦、準々決勝、準決勝と上がっていくごとに作家も第一線で活躍されてるベテランの方ばかりになり、テレビ局の人間もプロデューサーに近い立場の方となり、大人数での協議により、次のステージに進む芸人が決まっていきます。

そして予選は、芸人と審査員のタイマン勝負なシステムというわけではなく、普通のライブのように観客を入れての実戦形式での審査となります。(今年はコロナの影響で無観客、人数制限などありましたが)
つまり、お客さんの反応が合否に大きく関わってくる、という訳です。
大きくウケればこいつは使えるとスタッフ側の信頼も勝ち取れるので有利に働きますし、逆にすべってしまえば演った芸人本人も負けを認めざるを得ない、納得するしかない状況になります。

では笑いの量以外に、合否の判断基準とは一体何なのか?
これについて詳しくは分かりませんが、恐らく


・衣装
・声量、細かな動きなどの技術面
・台本の完成度(伏線、右肩上がりの構成など)
・キャラクターの強さ
・アイデアの斬新さ
・テレビに出られる題材か、言葉選びか
・次のステージへの期待値

このような部分を見ているのではないかと想像します。
そしてこの基準は、時に、笑いの量以上に重要視されてしまう傾向にある気がします。

例えば、あまりウケていなかったのに受かっている組がたまにいます。
これは恐らく、技術も笑いのテクも基準値以上に達していると評価され、この場ではたまたまハマらなかったが他の舞台では受けるはずだ、と判断されているからだと思います。
いわゆる、加味されるというやつです。
たまに知名度のある人がエントリーして全然ウケてないのに上に上がる場合もありますが、期待値のひとつなのでしょう。単純に客寄せ要因としての起用なのかもしれませんが。

また、『初見の人が見たらどう思うか』というフィルターも通しつつ見ている可能性もあります。

先ほどとは逆のパターンで、誰しもが合格だと疑わないほどに大爆笑をかっさらうも落選してしまう組もいます。
その場合、納得のいかないファンの方は多いことでしょう。
当然です。トップレベルに会場を沸かせていたのにおかしいだろ、贔屓だ、と思うでしょう。

では何故駄目だったか?

基本的に賞レースを見に来る方は、普段お笑いライブに通うような熱狂的なファンの方が大半を占めています。
何度も見ている事でその芸人の芸風や人となりを理解しているので初見の人より笑いやすくなっている反面、本来初見ではウケないような部分にも笑ってしまう体質になっているのです。要するに、『麻痺している』のです。
またそれにより、芸人側も「あ、これはウケるんだ」と麻痺する現象が起こります。

笑いの量は度外視して『初見の人が見たらどう思うか』を意識して見ている審査員からすると、その部分は見抜かれているような気がしてならないのです。


・大衆の知名度が低そうなワードを使う

・認知されているから笑える内輪ポイントがある

・賞レースが定める漫才の枠を逸脱しすぎている


加えて、上に書いた、テレビで使える言葉選びが出来ているかなど、様々なマイナス要因が重なり、そのような理不尽とも捉えられる事態が起きているのではないかと。
これに至っては、誰が悪いとかではありません。まず爆笑を起こしている時点でその芸人さんに力量がある事は揺るぎのない事実ですし、それで笑うお客さんも極めて正しい反応です。


個人的に、ウケて落ちる芸人に対しては、まだ予選の段階だし、予選の盛り上がりにも貢献しているし、何より笑いを取ってるのだからもう少し上げてあげてもいいだろ、とも思いますが。
審査員の皆様も、ボランティアで審査を請け負っている訳ではなく、れっきとした仕事ですので。
色んな目も気にしなければならないと思います。
仮に変な組ばかりを上にあげてしまいその組がやらかした場合、何かしらの責任は取らされるでしょう。慎重になるのも仕方ない事ですね。


それにしても今回の大会、個人的意見として、東京ホテイソンさんが報われなかったのは可哀想でした。

発明レベルの斬新なパターンを生み出しただけではなく、それを数年掛けてライブシーンでアレンジにアレンジを重ね、自他共に完全体のネタに仕上げてようやく決勝の舞台に行けたと思ったら、初見の方々の印象は『分かりづらかった』と。

初めて準決勝進出した年のネタだったらそうは言われてなかったでしょう。
これもまた、賞レースの予選に照準を合わせすぎたが故に起きた乖離なのか。
その年に決勝に上がっていれば、また違った評価も得られたのかなぁと思うと人生は数奇ですね。
でも彼らはまだ若いし、これからもきっと進化し続けると思います。


まとめ

M-1の決勝を勝ち抜くには。
自分自身の弱い心に打ち勝ち。
考えうる限りの不安要素を削ぎ落とす。
予選での戦い方と決勝での戦い方を使い分けなければいけない。
予選をアレンジしまくったネタで突破したとしても、決勝では原点に帰ってシンプルなネタをやるのもありだと感じる。

ネタ以外の部分でも頭をフル稼働させ、冷静に自身を見つめられたら、栄光という二文字をこの手に掴めるのかもしれない・・・・





以上、一回戦落ち芸人がお送りしました!いや一回戦落ちかーい!

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