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英語だから言えること2

クシャミをしたら 「Bless you!」

英語圏にしかない言葉の習慣で、私が素敵だなと思うものの一つに、「Bless you!」というのがある。これは誰かがクシャミをした後にかける言葉で、本来は「God bless you!」つまり、「神の御加護を」と言う意味あいなのだけれど、もともとはクシャミをすると魂が身体から抜けてしまうと言う宗教的な言い伝えがあって、それを防ぐ為の声掛けとしてはじまった事らしい。

「お大事に!」と相手を思いやる気持ち

現在ではそこに「お大事に」と言う相手を思いやるニュアンスも入っている。そんなわけで、言われた人は必ず「Thank you!」と返すのだ。この習慣は、ここでは知らない人相手でも普通に行われる。だから、電車の中でも、お店の中でも、道を歩いていても、誰かがクシャミをするたびに、「Bless you!」と複数の人が声をかけたりする。
この習慣は、どちらかと言うと、キリスト教的な意味合いの濃い言い回しなのもあって、多人種多宗教の街では全ての人が必ずしも言うわけではないし、キリスト教でも別に特に気にしない人もいるけれども、やはり言ってくれる人を見ると嬉しいし、なんとなく気持ちが上向きになる。(だから、自分でも言えそうな時があれば、出来るだけ言うようにしています。でも、NYにはあまりいないと思うけど、キリスト教以外の人が言うのには偏見ある人もたまにいるのでそのあたりはケースバイケースで。)

90年代のシアトルが舞台の映画「Singles」の中でも

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90年代にシアトルでグランジオルタナロックが流行った時に作られたキャメロンクロウ監督の「Singles」という映画の中でも、この「Bless you!」に関する逸話が出てきたりする。この映画は、独身者専用アパートに住む若者たちをめぐるシリアスラブコメデイで、90年代初頭のシアトルのグランジブームと絡んで描かれているので、当時の人気バンドであるパール・ジャム、アリス・イン・チェインズ、サウンドガーデン、マッドハニーなどのグランジのオムニバスアルバムになっているサントラもなかなか素敵だ。

https://youtu.be/b4tQFsPTGXI

ブリジットフォンダ演ずるジャネットの理想の彼氏は?

この映画の中のメインストーリーの一つで、マットデイロン扮するグランジのロッカーの彼、クリフにゾッコンの、同じく独身者専用アパートに住むジャネット(ブリジットフォンダ)の理想は、クシャミをした時にちゃんと「Bless you!」と言ってくれるような彼氏だ。
最初はバンド活動命のクリフからは、半ばガールフレンドの一人として軽く扱われていたにも関わらず、クリフを追いかけ続け、彼にもっと好かれるために豊胸手術まで考えていたジャネットだったが、ある時、バンドの公演のことで頭がいっぱいになっているクリフの前でクシャミをしてしまったところ、「Bless you!」どころか「風邪うつすなよ!」と冷たく言い放たれてしまう。

「Bless you!」を言ってくれない男なんていらない

このことをきっかけに、ずっとつれなくされても追いかけていたクリフのことはきっぱりと忘れようと決心したジャネット。それから彼女は、人が変わったように自分の人生を生きるようになりはじめ、以前のようにはクリフに関心を持たず、冷静で大人の対応をする女性になって行く。そんなジャネットを見て、今度はだんだんと焦り出すクリフ。
そうして最終的にはクリフの方が彼女にアプローチしようとするようにまでなるのだけれども、「Bless you!」を言ってくれない男、クリフに対するジャネットの冷め切った気持ちはずっと固まったままだった。

意外な結末でハッピーエンド


そうしてアプローチがうまく行かないでガッカリしているクリフと、彼に対して冷静な様子を崩さないジャネットは、たまたまそのまま同じエレベーターに乗るのだけれども、その中で、ジャネットは、不覚にもクリフの前でクシャミをしてしまう。その瞬間に、クリフからは永遠に聞くことがないと思っていた言葉、「Bless you!」 が発せられ、ジャネットは一瞬耳を疑うが、同時に、この魔法の一言で、頑なになっていた心が一瞬で溶けてしまう。そんなチャーミングな逸話として映画の中でも語られているこの「Bless you!」の習慣は、日々忙しなく、ワーカーホリックに駆け回っているニューヨーカーたちの気持ちを瞬間優しくしてくれる見知らぬ人からの「贈り物」として、この街にも今日も生き続けている。


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