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大人の見る繪本・生まれてはみたけれど (1932) 松竹

小津安二郎監督

昭和7年製作
モノクロ・サイレントの戦前映画。 
サイレント映画の金字塔 とも言われている作品ですね。

小津監督は この時まだ29歳。

せっかくこの世に 生まれて来たのに・・・という
人生の重~いテーマを
子供目線で 軽やかに描いてしまうなんて
小津さんはやっぱり、天才なんだな。

          〇

兄・良一 (菅原秀雄)と 弟・啓二 (突貫小僧)は
両親 (斎藤達雄・吉川満子)と共に
東京郊外の新興住宅地に 引っ越して来た。

池上線沿線の 鎌田付近らしい。

そこは父の勤務先の 重役 (坂本武)の家の近くで 
父は引っ越しの荷を解く間もなく
重役の屋敷に挨拶に行く。

遊びに出かけた兄弟も 早速、近所の悪ガキ仲間に
いじめられ、泣かされて帰って来た。

この仲間には
ひときわ体の大きい 喧嘩の強い子がいて威張ってるが
この子も一目置いているのが 重役の坊ちゃんである。
子供の世界でも お金持ちは権力者だ。

しかし兄弟は 次第に仲間に溶け込み
そのうちガキ大将になって
みんなの先頭に 立つようになった。

この子たちの遊びのルール?
みたいなものが 非常に面白い。

① 突然、誰かに向かって 兄弟が2本の指を立てる。
② するとその子は その場にひっくり返って死ぬ。
③ 兄弟は倒れている子に向かい 胸で十字を切り
④ パッと手のひらを見せると その子はピョンと生き返る。

これを唐突に 何度も何度もやる。
これが実にユニークで面白い。

取っ組み合いをしたり、雀の卵を集めたり・・
遊び道具と言ったら ゴムのパチンコや 知恵の輪くらい。
ほかに何にも持ってないけれど
子供たちは実にいきいきしている。

さて、あるとき 重役のお屋敷で
ホーム・ムービーの上映会があり
父や会社の社員たち、子供たちも呼ばれた。

兄弟も喜んで行ったが
しかしその活動写真の中で 兄弟の父は
重役に向かって ペコペコへつらい
動物のモノマネなんかして 笑い者になっていた。

兄弟は恥ずかしく、悲しく・・そして次には
父親に向かって 激しい怒りが湧いてきた。
お父ちゃんの弱虫! 意気地なし!

家に帰ってから二人は
ランドセルをぶん投げ、教科書をまき散らし大暴れ!
お兄ちゃんは お父さんにお尻を叩かれた。

だってお父さんだって 頑張ってるんだ。
この家だって 白いフェンスに囲まれた庭には
デッキチェアーもあるし 犬も犬小屋もある。

これはみんな そうやって働いて
頂いた月給のおかげなんだ!

でも泣き寝入りした 兄弟を見守る
お父さん、お母さんの 愛情あふれる顔。

お父さんは 家族のためとは言いながら
子供たちを失望させたことを後悔する。
そして 優しく言う。

「おまえたちは、一生わびしく爪を噛んで
 俺のようなヤクザな 会社員にはならないでくれよ」

翌朝、昨日の怒りを引きずって
ハンガー・ストライキをやってやろうと
相談していた兄弟は やっぱり空腹には勝てず
お父さんと並んで お母さんの作ってくれた おにぎりを食べた。

いつまで怒ってたって なんの解決にもならない。
そんなことは 子供にだって分かってるんだ。

そして、いつものように
お父さんと手をつないで家を出た。

          〇
1932年・キネマ旬報ベストテン一位。

私が子供のころは よく先生などに
尊敬する人は誰ですか、と聞かれ
はい、野口英世です・・なんて答える子が多かったけれど

大人になると 判って来る。
あの頃、一番偉かったのは
学校卒業後、就職した会社で 偉くもなれずに
ひたすら家族のために こつこつと定年まで勤め上げた お父さんたちだ。







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