善人ばっかり、哀愁の現金輸送車襲撃 狼 (1955) 近代映画社
新藤兼人 脚本・監督
ジャスミンが (←私よ)が 一番たくさんの
作品を観ている監督さんは 誰かなと
(忙しい合間をぬって💦) じっくり考えてみました。
一番はやっぱり 小津さん
二番目が 成瀬の巳喜男さんかな
で、三番目が 黒澤さんか 今井正さんか
市川崑さんか 新藤兼人さんだと思う。
三番目がいっぱいいるのよ。
新藤監督作品を そんなにたくさん観ているとは
意識してなかったけれど
名作『裸の島』のほかにも
この『狼』のような作品、佳作というのかな・・
『人間』『母』『わが道』などは
何度も何度も観返しているほど 好きなんです。
もっともっとみんなにも 観て貰いたいな。
〇
冒頭、かんかん照りの太陽の下
ひとりの女が 一本道の真ん中に立っている。
彼女はもうじきここを通る
郵便局の現金輸送車の 見張りをしているのだ。
やがて向こうから 一台の車が
土埃をあげて近づいて来ると
彼女の合図に 二人の男が 道路脇から飛び出して来て
道をふさぎ 輸送車を止めた。
「言うことを 聞いてください」
見せかけの日本刀と 弾の入ってない猟銃で
運転手と局員を脅し
輸送車に積まれた紙幣の入った袋から
札束を掴み取り逃走した。
翌日の新聞はトップ記事で報道し
世間は騒然となった。
この強盗犯罪に 加担した人物は5人。
ここから お話は
半年前の 雪のちらつく季節へと遡る。
場所は東洋生命の 勧誘員の面接会場。
20数名もの応募者が順番を待っている。
やがて、それぞれの面接が終わると 営業課長が出て来て
「おめでとうございます、みなさん全員合格です」と伝え
昼食が振舞われるが
しかしその後、厳しい規約を説明される。
最初の半年は外部試用として 月1500円が支給されるが
その半年間での ノルマの勧誘金額は500万。
この目標額を達成した者だけが 正社員として残れる。
しかし
2か月、3か月と経ち 契約が取れずに
諦めた者が つぎつぎ辞めていき 最後は5人となった。
支店長 (小沢栄太郎)
「親類、知人、友人、すがりついてでも契約を取りなさい。
それが出来なければ 自分で入ることだ」
しかし富裕層は既に 高額な保険に入っていることが多く
貧困層を粘り強く説得するよう 勧められるが
靴をすり減らして歩き回っても
答えは決まってる。
「今日、明日の食い扶持にも困ってるというのに
将来だの、老後だの、考えられるかい!」
遂に半年が過ぎ、2人が小口の契約をやっと取って来たが
結局、5人全員が解雇となる。
5人は
それぞれが 言うに言われぬ貧困に喘いでいた。
戦争未亡人の秋子 (乙羽信子)には
小学生の息子がいるが
この子は生まれつき 唇に裂傷があり
言葉が不明瞭なので 学校で虐められている。
友達もなく 学校から帰ると
毎日、薄暗い部屋で 内職をし
ご飯の支度をして 母親を待っている。
この子 (松山省二)が不憫で
観ていて胸が詰まる。
「おかあさん、手術したら僕、治るよね」
「大丈夫、おかあさん、きっと手術代を稼ぐからね」
保険会社を解雇になった後も
共に励まし合って来た5人は 誰もが心細さに
単独で行動することが 出来なくなっていた。
優雅なピアノが聴こえてくる
お屋敷の裏手の空き地に
今日もまた 5人は顔をそろえた。
「最初からおかしいと思ったんだ、昼飯まで出しやがって」
「アイツらは 俺たちが死に物狂いで取って来た
小口の契約だけで充分なんだ」
そして、こうなったら 自殺か強盗しかないと
冗談まじりで誰かの言った言葉に
本気で望みを賭けることになる。
まず、元・自動車修理工の 三川 (殿山泰司)が
乗用車を盗んできた。
そして、冒頭のシーン。
強奪は成功し
5人は略奪金を 7万円づつ分けあった。
家賃も滞納し 電気も止められている富江 (高杉早苗)は
子供たちとラーメン屋に。
「今日はおかわりしたって いいんだよ」
大勢の扶養家族を抱えている
吉川 (菅井一郎)は 何年ぶりかのすき焼き。
みんなモノも言わずに 一心に食べる。
秋子は公園で 息子の食べたがったスイカを食べ
病院に息子の手術の予約を取り
看護婦に無理やり 費用を預かってもらう。
三川(殿山泰司)は 昔の仲間と一杯やり
寿司の折詰を妻子に持ち帰る。
原島 (浜村純)は そのほとんどが
離婚する妻への 手切れ金と消えた。
けれど善人ばかりの
行き当たりばったりの犯罪の結末は
子供を道連れに無理心中した 富江をはじめ
全員が当初より
もっともっと 悲惨な状況を迎えて終わる。
しかしその絶望の中で
たつたひとつ灯った 希望の明かり。
それは 秋子の息子の手術が 成功したことだった。
〇
暗いお話ですが
目が離せず一気に観てしまいます。
この映画の主役は、というと
乙羽信子さんと浜村純さんと言えます。
強盗犯罪のあと
ふたりの 束の間のロマンスがあるのです。
浜村純さんの そういうシーンは初めて観ましたが
でも純さんは
背が高くて、前髪がパラリと額にかかると
意外に二枚目っぽかったです。
他に 大勢のベテラン俳優さんが
贅沢にチョイ役で出演。
宇野重吉・東野英治郎・三島雅夫・信欣三・神田隆
左卜全・菅井きん・佐々木すみ江・奈良岡朋子・下元勉
芦田伸介・下条正巳・坪内美子・・・
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