人の魂を呑んだ者は・・怪談 (1964)から 「黒髪」「茶碗の中」
小林正樹監督
脚本・水木洋子
撮影・宮島義勇
音楽・武満徹
この映画『怪談』は
ラフカディオ・ハーン(小泉八雲)の 小説から
「黒髪」「雪女」「耳なし芳一」「茶碗の中」の四話を
オムニバス形式で描いた作品です。
小林監督、初のカラー作品ですが
その色彩の独特な美しさ。
また武満徹さんの 邦楽器を駆使した音調が
国際的にも高い評価を得ました。
今回はその中から 「黒髪」と「茶碗の中」を。
他の二作から比べると
馴染みの薄い作品 なのかも知れませんが
ジャスミン(←私よ)は 「茶碗の中」が一番好みなの。
〇
【黒髪】
京の都。
仕えていた主家が没落したため
極貧生活に甘んじていた ひとりの武士 (三國連太郎)が
士官の道を捨てきれずに
妻 (新珠三千代)を見捨てて 遠い任地へと旅立った。
男はその地で
ある裕福な家の娘と結婚するが
新しい妻 (渡辺美佐子)は 我が儘で冷酷な女だった。
男は今更ながら 献身的で優しかった前の妻を想い
自分の身勝手さを 反省した。
「嗚呼、自分はなんという無情な
愚かなことをしてしまったのだろう」
やがて長い任期を終え 自由の身となった男は
二度目の妻を親元に帰すと
急いで京へと戻り
昔、妻と暮らした 懐かしい家に向かった。
すると 屋敷は荒れ果てていたが
奥の部屋では 昔と同じように
とんとんとんと、機を織る妻の姿があった。
妻は若く美しく
そして 優しく夫を迎えた。
男は心からそれまでの自分を詫びた。
「許せ、許してくれ。この阿呆者を許してくれ」
「いいえ、それは貧しさがさせたこと。
なんの恨みがございましょう」
男は久しぶりに 暖かく穏やかな気持ちで
妻と一夜を共にしたが
夜がしらじらと明け 男が目を覚ますと
傍らに妻の黒髪が うねうねと横たわっている。
男が愛おしさにそっと触れると
長い髪の中から 白骨化した妻が現れた。
驚愕した男は 狂ったように 逃げまどい
やがて男の顔も 恐ろしく変貌し
遂には 呪い殺されてしまった。
【茶碗の中】
天和三年の一月。
中川佐渡守が 年始回りの途中
家臣たちを連れて 江戸の本郷白山の茶店に立ち寄った。
一行が休んでいるうち
家臣のひとりである 関内(せきない)は
ひどく喉が渇き 茶飲み処で水を飲もうと
茶碗に水を汲み 顔を近づけると
茶碗の中に 見知らぬ男の顔が映っている。
ぎょっとして 辺りを見回しても誰もいない。
水を入れ替え 茶碗を変えても 同じ男の顔が映り
男はにやりと 不敵な笑いを浮かべた。
関内は思わず、かっとなり その水を呑みほした。
その夜、城内で夜勤をしている関内のもとに
式部平内と名乗る若侍が 突然、目の前に現れた。
それは昼間、茶碗の中に現れた男である。
関内は 「狼藉者!」と斬りつけたが
男は壁の向こうに消えた。
翌日の深夜、関内の家に
昨夜の侍・式部平内の家臣という
三人の男が訪ねて来て こう伝える。
「主人は昨夜、貴殿に斬られ 只今静養中であるが
来月の十六日には 必ず恨みを果たしに来る」
「なにっ」
関内は槍を手に取ると 三人に向かって
闇雲に突きまくるが
侍たちは 突いても突いても 斬っても斬っても
消えては 現れ また消える。
際限のない戦いに 次第に正気を失っていく関内。
だんだん、だんだん
恐ろしい表情で 着物ははだけ 髪はざんばらになり
おしまいには 不気味な笑い声をあげて・・
まあ、完全におかしくなってますわ!
ここで不意に 場面は変わります。
このお話を書いた 作家・滝沢修の家に
版元の中村鴈治郎が訪ねてくる。
おかみさんである 杉村春子が応対するが
作家の姿が どこにも見当たらない。
「まあ、どこに行ったんだろう・・」
すると台所に行った おかみさんが
恐ろしい悲鳴をあげる。
その悲鳴に誘い出された版元は 台所に行き
水瓶の中に 世にも恐ろしいものを見た。
このときの
杉村春子さんと鴈治郎さんの驚愕の演技は
もう、感動してしまうほど。
水瓶の中には・・・
そして机の上には 作家の書きかけの原稿が
「人の魂を呑んだ者の行く末は・・・」
おしまい
第18回カンヌ国際映画祭 審査員特別賞
ローマ国際映画祭 監督賞
キネマ旬報ベストテン 第二位 など