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レディ・ファースト

初めて付き合った人はとてもレディファーストな人だった。

外を歩くときは必ず私を歩道側に立たせ、常に周りに危険がないか目を配ってくれたり、ハイヒールを履いているときはさりげなく歩調を合わせてくれたり、ドアを開けてくれたり、カフェでは必ずソファーの席に座らせてくれたり。そんな扱いに慣れていなかった私はなんとなく気が引けて申し訳なくて、素直にありがとうと言えない自分にいらいらしながらも、彼がはじめて自分をひとりの女性として扱ってくれたことへの喜びでいっぱいだった。

そしてその人とつきあい始めてからは、人と一緒にいるとき小さなことにたくさん気づくようになった。祖父母と歩いているとき車が来ないか、足元に段差がないか気を付けたり、レストランで友達の荷物を置く場所を作ってあげたり。ありがとうと言われる回数が増え、笑顔が増えた。

そんな変化にふと気づき、思った。人にされて嬉しかったことは、自然に自分も周りの人にできるようになるのだと。

人は太陽というより、月なのかもしれない。みんなほかの誰かにされたことを周りに反射しながら生きている。その人が持つ光は、その人が人生を通じて周りの人から受けてきた光の集まり。光の強さや色が少しずつ違って、それが個性としてあらわれる。

だから反対に、あなたが今、人に優しくできないと悩んでいるのなら、それはあなたは今までじゅうぶんに優しくされてこなかったか、受けてきた優しさがあなたが本当に求めているものでなかったのかもしれない。

愛は注がれてこそあふれ出す。

そのことを教えてくれた彼に、もう一度ありがとうと言いたい。

(2022年10月)

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