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急成長のスタートアップ企業による食料廃棄解決アプリ「Too Good To Go」

執筆:小林 萌、安岡美佳
2019年2月1日
デンマーク発: ハピネステクノロジ vol.2

はじめに

デンマークには近年、人をハッピーにするアプリがたくさん生まれてきている。その中の一つがToo Good To Goだ。Too Good To Goとは、食料廃棄を防ぐために作られたお店とカスタマーを繋ぐプラットフォームアプリである。2015年11月にデンマーク、コペンハーゲンからスタートしたスタートアップ企業、”Too Good To Go ApS”によるもので、パン屋やスーパー、レストランなどで余った食料を安価で購入し、指定された時間枠にお店で受け取ることができるシステムを提供している。ユーザーフレンドリーなインターフェースで、安く・簡単に地元で買い物できるので、今では、デンマークばかりでなく、イギリス、ドイツ、オランダなどヨーロッパ圏内で広く受け入れられている。

機能

Too Good To Goはどのようなアプリなのだろうか、改めて具体的にアプリとその機能を紹介したい。

1 . ダウンロード
まずアプリをダウンロードする。ダウンロードするととログイン画面が表示されるので、そこで名前、メールアドレス、電話番号を登録する。

2. 店の選択
食品を提供するお店は、自分の現在地に合わせて表示される。利用者は、表示画面を地図かリストのどちらか選択することができる。地図上では、食品が入手可能なお店、既に売り切れてしまったお店がそれぞれ緑色と赤色の点で示される。リスト画面を選ぶと、今の自分の現在地から距離の近い順に表示される。また、どちらの表示形式も時間、ジャンル(レストラン、ベーカリー、野菜果物、特別提供品)で検索条件を絞ることができる。

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地図表示だと、売り切れているお店、まだ購入できる店が一目で分かる。店をタップするとお店の詳細が表示される。

3. 購入
お店を決めたら購入ページに移る。前払い制なので、クレジットカード情報を入力して購入する。クレジットカード情報も登録できるので、一度登録すれば、お店を決めてから購入まで比較的スムーズで、ワンクリックで購入することができる。
食品を提供するお店側は食料廃棄を減らすための「パートナー」として登録され、お店に貼るToo Good To Goのシールと受け渡しの紙袋などが配布される。現在パートナーとして登録されているのはスーパーマーケット、ビュッフェ式レストラン、パン屋などが大半である。顧客側もお店側もこのBtoCビジネスに組み込まれるようにできるだけシンプルな事業の構造となっている。

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お店の購入画面。本来の値段が書いてあって、この場合だと、普段の1/3の値段で購入できることになっている。

食パンサイズの大きなパン2つ、惣菜パン3つ、甘いデニッシュパン3つが入っていた。
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評価

実際に使ってみたが、受け渡しの形態もお店によって異なる。以下、筆者がデンマークでアプリを実際に利用した体験談をいくつか紹介する。

家の近所のパン屋で利用してみた。指定時間にお店を訪れると”Too good to go”と書かれた紙袋がいくつか並べて置いてあった。携帯の購入完了ページを見せて、お店の人がその画面をスワイプすることで、紙袋を受け取ることができた。内容物としては日によっても異なると書いてあったが、少なくとも普段、同じ値段で買うことは考えられないような沢山の量のパンが入っていた。デンマークの物価もあり、何倍もお得に感じた。
ビュッフェ形式のレストランでも購入してみた。指定時間内にお店を訪れると、発泡スチロールでできたワンプレート容器にビュッフェの食材が入っていた。ビュッフェ形式のレストランでは、自分で好きにお皿に盛ることができるものとそうでないものがある。自分で好きにお皿に盛ることのできるタイプのレストランだと早めに行って列に並ばないと「いい食材」が手に入らないようだ。
冒頭でも述べたように、アプリは全てデンマーク語であるので、筆者は普段、アプリの文面を全て翻訳してから購入している。しかし、ある日、翻訳をせずに購入し、指定された時間にその場所に訪れたらその場所が存在しなかった。よくよく翻訳してみると、「フードバンクや社会的弱者をサポート」と書いてあった。どうやらお店の選択肢の中には純粋な「募金」というものも存在しているようである。
チケットを購入したからといって、食材が手に入ることが確証されるわけではない。ベーカリーで購入した日、購入時間前に登録したメールアドレスに「ベーカリーのパンが売り切れたので今回のToo good to goのサービスはない。」という通知を受けた。支払ったお金はアカウントに戻された。

分析

サービス中、一貫して、「あなたはフードロスに貢献している」というフィードバックを常に受けている印象がある。購入後に届くメールにも、「このサービスを使ってくれたおかげで、埋立地に行くはずだった食料が救われ、推測2kgの二酸化炭素排出量を減らすことができました。」というメッセージが届く。
ホームページも「世界の1/3の食料は廃棄されている」というメッセージがまずはじめに書かれている。安く食材が手に入るという理由でアプリをダウンロードして、食材を手に入れても、フードロスに貢献したという充足感を自然と得ることができ、食料廃棄について関心を持たせる誘導が巧妙である。

お店側も本来捨てるはずの食材を別の形で売ることで、本来なかった利益をあげることができ、なおかつ、お店の宣伝にもつながる。お店と顧客の両方を満足させるwin-winの関係のアプリになっているのだ。また、パンはビニール袋に包まれることなく、紙袋に直接パンが入っているので、最低限の資源しか使っていないあたりも、食料廃棄防止の取り組みの一つの側面といえる。

このアプリは食料廃棄に比較的関心のある国、そして個人経営の店、小規模、中規模のチェーン店が導入しやすい。日本はたくさんのコンビニやチェーン店があるが、食材は廃棄分に関しては廃棄補填費が出ていたり、中央集権で管理されている店舗が多く、このようなサービスが導入されたとしても、誰が参入する権限を持っているのかで議論が生じ、スムーズにシステムが導入されるのかは疑問が残る。

まとめ

Too Good To Goは現在、アプリが使われている国(ベルギー、フランス、デンマーク、イギリス、ドイツ、ノルウェー、スペイン、スイス、オランダ)に焦点をおいて事業を展開している。フードロスを減らすにはお店や顧客の意識だけではなく、法律や企業規則などの大きなレベルでの改革も必要である。コペンハーゲンの本社ではイベントを行ったりしていて、スタートアップではあるものの非常に勢いのある活動をしている。設立者のJamie Crummieはアプリ立ち上げ時にアプリのコンセプトを説明するときに、「残り物を食べる/提供する」というマイナスイメージを持たれることが多かったと述べていた。食料廃棄を減らすという違う視点を人々に理解してもらうにはどうしても時間がかかるようだ。
しかしアプリはフードロスを減らす第一歩となる解決策であるのには間違いなく、今後ますますの展開が予想される。日本の食料廃棄は大きな課題を抱えたまま大きくは改善されていない。このようなアプリがヨーロッパで急成長していることに対して、日本が取れる食料廃棄問題へのアプローチが向上するのを願うばかりである。

参考文献

Too Good To Go
設立者interview記事


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