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【おすすめの美術図書】苦手な現代美術にこれで歩み寄れた?1冊

 私が参加しているメンバーシップ「オトナの美術研究会」の月イチお題企画、6月のテーマは「おすすめの美術図書」。
 紹介させていただく本は美術評論家・暮沢剛巳氏の『現代美術のキーワード100』。20世紀以降の美術に関するキーワードを100個選び、それぞれについて見開きで説明している本である。

暮沢剛巳『現代美術のキーワード100』筑摩書房(ちくま新書)、2009年

 正直なところ、私は現代芸術(現代アート)に今も苦手意識のようなものがある。美術史でいえば作品の傾向が「~・アート」で括られる当たり以降について、特に学生時代はイマイチ関心を持てないでいた。もともとは「歴史科目好き」から美術史に興味を持った身としては、どうしても多様化した表現を前に「これも美術?」と困惑しきりだったのである。

 そんなわけで現代美術系の美術館や企画展はスルーしてばかりだったのだが、あるとき「これからも新しいアートは展開していくのに無関心のままでもいいものか」という気持ちが湧いてきた(きっかけはよく覚えていない笑)。
 こんな場合、人には2種類の行動パターンがあると思う。
 「とりあえず目についた現代美術の展示に飛び込んでみよう!」か、「まずは予備知識を入れて準備しよう」のどちらかである。私は後者であり、そこで図書館で手に取ったのがこの本だった。

 前置きが長くなったが、本題の『現代美術のキーワード100』について。構成としては、冒頭に20世紀の美術の流れについての簡単な概説があり、その後「001 アール・ヌーヴォー」から「100 レディメイド」に至るまでを、「動向・世界編」「動向・日本編」「コンセプト編」の大きな3つのグループに分けて解説していく。
 「ポップ・アート」や「コンセプチュアル・アート」といった美術の潮流から、「学芸員/キュレーター」といった職業的なことばや「修正主義」のような社会学的な用語まで、取り上げる範囲は幅広い。

 とにかくことばに触れてみれば、右から左だった分野の展示もアンテナに引っかかるだろうと思って読み進めた結果、明らかに心構えは変わったといえる。人間、わからないから「怖い」「避けよう」と感じるものは多い。私自身この本で「わかった」とは言えないまでも「そういうのもあるのね」と感じられたことが大きかったと思う。近寄りがたかった「現代アートくん・モダンアートくん」たちに少し歩み寄って話しかけるようなきっかけをもらったといえる。この本は私と同じように、現代美術に興味はあるけどいいとっかかりがない……と逡巡している人におすすめしたい。
 まったくの余談だが、これを読んでしばらくあとに「モダンアート再訪」という展示を横須賀まで観に行ってそれなりに楽しめたのもいい思い出である。

 さて、この本にデメリットと感じられうる点があるとすれば、図版が少なく文字が多い。辞書的になっているため、現代アートの展示によくある(?)文字数の多いキャプションが好きではない人にはとっつきづらさもあるかもしれない。
 もちろん先頭から一気に100本ノックを受けていくのもいいのだが、それが難しければ本棚に忍ばせておいて、気になる単語にであったときに帰宅してぱっと開いてみる……そんな使い方もできる。新書判で見た目に重たさがないのもありがたい。多くの美術ファンにとって、あったらちょっと豊かになれる本ではないかなと思う。


 ここからは最後に雑談。今回はどんな本について書こうか結構悩んでしまった。思った以上に自分が読んできた本の細部を忘れていることと、読まずに溜めている読書負債ともいうべきものが多くあることをひしひしと感じ、思い出してしまった。
 結局、好きな作品が載った図録などでもよかったのだが、あえて「好きというわけではないけど近づいてみた」という1冊を選んでみた。大げさな言い方だが、無精者の自分にはこれもちょっとしたできごとだったのだと思う。

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