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世界の医療団シンポジウム「日本におけるハームリダクションを考える」拝聴記

(おことわり: この記事は主催者の正式な許可を得て掲載するものではありません。記憶を頼りに執筆しましたが、実際の内容や主催者の主旨とは異なる可能性があることをご了承ください)

今回のシンポジウムの主催者である特定非営利活動法人メドゥサン・デュ・モンド ジャポン(世界の医療団)さまは、今後の日本でハームリダクションを導入していくための活動に向けたクラウドファウンディングを募っていらっしゃいます。賛同して頂ける方は是非こちらへのご支援をお願いいたします。

2019年9月8日「日本におけるハームリダクション」というコンテクストで大麻はどう語られるのか?ということが知りたくて、広尾の聖心女子大学で開かれた世界の医療団主催のシンポジウム「日本におけるハームリダクションを考える」に足を運びました。会場に着くと思っていたより多くの参加者で行列が出来ており、このトピックへの関心の高さを感じました。

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第1部では「ハームリダクションとは何か?」と題して、世界の医療団フランスのハームリダクション・アドバイザーで看護師のエルンスト・ウィッセ氏より同時通訳で、主にHIVの予防として薬物使用者やセックスワーカーへの注射針の交換プログラムやコンドーム配布など、ハームリダクションの歴史や実践についてのお話がありました。ハームリダクションの実践では違法と知りつつ行われるケースもあったそうです。

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続いてこの日一番楽しみにしていた国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所 薬物依存研究部 部長 薬物依存症センター センター長の松本俊彦先生による「日本におけるハームリダクションの実施可能性と課題」と題する講演。メモなどを見ずに早口ではあるものの聴き取りやすい話し方でユーモアを交えつつ、科学的データと綿密な分析に基づいて語られるお話は想像の遥か上を行く面白さでした。

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大麻については否定も肯定もしないスタンスでしたが、国連やWHOによって推奨され、ヨーロッパでは主流となっているものの、保守的な薬物政策の日本ではまだまだ異端とされそうなハームリダクションのアプローチが積極的に取り入れられ、従来型の胡散臭い薬物教育と感じられる所が一つもなく、むしろ、よくぞここまで調査され、スティグマを超えてお話が出来るものだな、依存性患者を救いたいという愛がなければ出来ないものだと感動する内容でした。

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その後20分の休憩をはさみ、第2部は「ハームリダクションとハウジングファースト」。

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東京大学院医学系研究科精神保健学分野 熊倉陽介先生の「ハームリダクションとハウジングファースト-どうして住まいの支援からはじめる必要があるのか-」主にホームレスの支援に関する講演がありました。”ビックイシューを売る男”として紹介された事例では、路上で雑誌を売る仕事にやりがいを感じていたホームレスの方が支援を受けてケアワーカーと面談をした時に、「そんな仕事はやめて、ちゃんとした仕事に就きましょう」と言われ、逃げ出したお話が印象に残りました。わけを訊くと過去に「社会のクズと言われて空き缶を投げつけられた相手と同じ目をしていた」と答えたそうで、過去のトラウマと説明されていました。学者さんらしい語り口調で落ち着いて語られる報告の中に、社会の最下層で苦しむ弱者を放っておけず、際限なく繰り返されそうな問題に対し、効果的な支援の構築と実践に取り組まれる博愛の精神を感じました。

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その後、世界の医療団ゆうりんクリニック西岡誠先生の「身体診療とハームリダクション」では、現場での取り組みとハームリダクションの考え方の説明がありました。その中で

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”ハームリダクションとは: 薬物使用、薬物政策、法規制による健康被害や社会的・法的な負の影響の最小化を目指す。ハームリダクションとはそのための政策、計画、そして実践のことである。ハームリダクションは正義と人権とに根ざす、好ましい変化、当事者とともに活動することに焦点を合わせ、ジャッジせず、強制せず、差別しない。また薬物を止めることを支援の前提として求めない。”

とするHarm Reduction International HPによる定義がスライドとともに紹介されました。大麻にはそれほど害がなく、医療や健康増進に役立つ作用もあるので、ハームリダクションの取り組みとしては他の薬物とは少し性質が異なると考えていましたが、この定義に照らしてみると、ゼロトレランス方式の禁止政策によって使用者を逮捕することから生じる人権侵害、薬物使用者というレッテルを貼られることによる社会からの疎外、違法薬物として取締ることで犯罪組織の資金源となる機会の創出、治療薬として利用できない、大麻使用を過剰に危険視して環境にやさしい資源として利用できないなど、薬物政策・法規制による負の影響がハームリダクションを導入することで削減可能なものとしてカウントできることに気づきました。

その後、住まいの支援を得た方やソーシャルワーカーの方を交えてテーブルを囲んだ対話方式のやや実験的なゆるめの事例紹介がありました。

最後の第3部は「日本におけるハームリダクションを考える」と題して、ライターの望月優大さん、熊倉陽介さん、松本俊彦さん、エルンスト・ウィッセさんによる大団円ともいうべき、パネルディスカッションが16:20からスタート。

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ディスカッションでは薬物の非犯罪化についても語られました。この中で薬物の非犯罪化は使用の増加をもたらすのではないかという疑念に対して、ウィッセ氏よりオランダのコーヒーショップでのマリファナ提供が他の国と比べて少ない使用をもたらした成功例として紹介されました。個人的には大麻使用が増加したとしてもその中でストレスが緩和されたり、ウェルビーイングが向上したり、アルコールなどのより有害な薬物の使用が減少されたりする可能性もあるし、健康への害の低さを考えるとそもそも個人の自由として認められるべきものなので問題はないのではないかと思いました。続いて松本氏より2010年にランセットに掲載されたデビッド・ナット教授による薬物の害を個人に対する害や他者に対する害などについてスコアリングして比較した論文では、他の薬物を抑えてアルコールの有害性がダントツでトップであった事、特にアルコールは他者に対する害のスコアが高かったことなどが紹介され、日本の大麻規制のあり方について再考が促されるような討議が行われました。

最後に質疑応答の時間が設けられたので、ここで大麻について語るのもなんだなぁと思い、私は3カ月禁酒している自身の経験を交えて、日本ではアルコール依存が深刻な問題となっている中で、テレビや電車などでも広告が流され、スーパーやコンビニでもお酒やたばこが簡単に手に入る販売形態は今のままで良いのでしょうか?と質問してみました。松本先生は、

「まあ確かに日本はアルコールについてとても寛容で頑張ってやめ続けたいと思っている人にはしんどいところも多々ありますけど、今日の話の文脈からいえば、お酒を飲み続けたい人もやめたいと思っている人も双方にとって心地よい社会にどのような落としどころがあるのかというところをみんなで考えていければなあと思っています。とても重要な視点だと思っています。ただまあ世の中には酒を飲み続けると決意した人もいますので、アハハ(笑)だから変な話たばこもそうですよね。実は僕は告白するとニコチン依存性という病気にかかっておりまして...しかも当面やめるつもりはないですね。でも肺がんにはなりたくないと思っています。ハームリダクション的にはこれは十分に底つきなんですが。従来のアディクションのアプローチにはふざけんなっていうね。だからまあたぶん色んな人たちが仲良くしてそれぞれ人として尊重されると。たばこや酒を憎むのは構わないけどそれを愛してる人はちゃんと尊重する、こういう社会に出来たらいいなという風に思っています。」

と当意即妙の答えで会場を沸かせつつ、綺麗にまとめてシンポジウムを締められました。今回このようなアカデミックかつオフィシャルなシンポジウムに参加して、薬物や大麻について率直に語り、問題解決に向けて真摯に取り組まれている方々がいらっしゃることを知り、未来に希望が持てました。日本では言語的な障壁、政府や厚生労働省の出鱈目な情報による旧態依然としたゼロトレランス方式の禁止政策の影響もあり、大麻植物への理解者は他の国と比べてまだ少ないように感じますが、現在爆発的に情報が拡散している段階でもあり、他の薬物問題に取り組む方々のイベントに参加したり、交流を深めてみることで獲得できる視点もあると感じました。

会場の真ん中にカメラが設置されていたので、詳しい内容の映像が今後公開されることを希望します。



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