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香害から親子で化学物質過敏症で苦しんだ草井さん。心無い言葉や対応にも、ずっと、詩作をつづけて。

2014年に『おそい・はやい・ひくい・たかい』№79「香り・化学物質過敏症で苦しむお友だち』を刊行後、香害で苦しむ方たちから、編集室にもご連絡をいただくようになりました。

刊行時は、まだ香害被害に遭う子どもの話は聞くことがなく、過去シックハウス症候群での発症から苦労をして大人になっていった方の記録を読むに留まっていました。大人への被害があるのだから、子どもにはもっと被害があるのは当たり前なのに、想像力がとても足りていませんでした。

ということで、いま「香害って、感じないけれど?」という人を、そう強く批判できません。わが事でないことへの想像力は常々弱いのです。

ある日、北海道に暮らす草井さん(くさい! にかけた仮名ですね)からお電話をいただきました。この話はもう何度もしています。この草井さんのお電話がきっかけで、香害をテーマにした解説本や絵本を立て続けて編むことになったというお話です。

その草井さんは、親子で香料などに苦しんでおられました。子どもの苦しみを見る親の慟哭に編集者として、当時発症していた当事者として、できることはないかと焦りました。きっと、この親子のように今後、香害は多くの人の暮らしを奪っていくと思ったからです。

あれから、2年数ヶ月。親子も若い働き世代からも、高齢者と言われる人達からも「香害被害」の声を聞き続けることになりました。同時に、全国各地で、得体の知れない症状に苦しみながら、香害に声をあげる人が増えました。隣人に、職場の同僚や上司に、学校や園に、街のなかの店や病院や行政に、困窮した暮らしを伝え理解を求めました。

驚くことに、「健康被害がある」「頭痛がする」と伝えても「それは大変、香りは控えるね」という人は少なく、「わがまま」「他人の暮らしを荒らす」と言った受け止め方をされてしまう例が多いのでした。

同じ教室に「つらい」と訴える子どもや親がいても、「では、みんな、柔軟剤をやめようよ」と呼びかけて、被害者の盾になる人はほとんどおられません。被害者は「変な人」「神経質な人」「付き合いたくない人」になっています。

人の嗅覚の特性を思えば、感じない人、感じる人がいて仕方がないのです。この特性を利用した商品を無尽蔵にばらまいているメーカーの責任は大きい。罪深いのは、人の嗅覚の特性を利用したばかりに、人々の人間関係を理屈でなく感覚で分けることになったことです。

話をしても、どんなに丁寧に冷静にくり返しても伝わらない。被害者の疲労感は強くなるばかりです。もう疲れ切って、家から出ないようにしている、楽しみごとは諦めている、家族や親族との関わりでさえ疎遠になる、といった多くの人の人生を奪うようなことになっています。

でも、それでも、空気問題は必死にならざるを得ません。諦めたら死ぬことにつながります。
そして、人間の強みを見ることがあります。
被害者は、周囲に理解を得られないと、議員を巻き込んで状況を変えようと努めたり、発症者と連絡を取りあって暮らし方を工夫したり、誤解の多い医師に気長に訴え続けたり、小さな声をひとつにしようと組織を作ったり、SNSで発信をしたりされています。

そんななかで、アート作品で香害のない世界を描く小出佳織さんが日美展に入選したり、「表現」を通じて「無香料」を伝えていく試みをされる方もおられます。

理解の進まない状況でも、自分らしさを保ちつつ「表現」をする人のしなやかさに感動します。

絵はがきを作成しました。ジャパンマシニスト社の活動を支援する
【Chi・O倶楽部】賛助A会員へのお礼品です。

電磁波障害もある草井さんとのやりとりは、ほぼお手紙です。お電話でお声を聞いたのは数回だけ。私には香害で咽頭炎が出やすく油断して、ひと月筆談などということもあり、声を出すことを控えるときがあります。お互いに文章、しかも郵便が交流の手段です。しかも、ほんのときどき。

今回もその草井さんから、年末の大きな贈り物をいただきました。詩作をつづける草井さんから、札幌市の市民芸術祭佳作に入選したというご報告のお手紙と文芸誌が届きました。

お手紙には「実話に基づいた内容」「学校の柔軟剤使用の先生から毎日わが子は暴言をぶつけられていた」と短く添えられていました。
草井さんの詩をご紹介します。

香害 漂流記         草井 唱

遊覧船に 乗ってきたの?
ううん ぼくはイカダを漕いできた

教室と いう舟に
先生と仲間が乗っていて
国語 算数 理科 社会
プカプカ ユラユラ
景色は飽きた

乗せて 乗せてよ ぼくだって
2年3組
みんな 待ってよ

「つばさ 何しに来たの?」
「なんで 来んの?」
「教科書 取りに来られるんなら
入れんじゃん。」

ぼくのイカダは
山を登った

たどり着いたよ
日本海

交じらない
鴨と かもめと カラスと 波よ

ぼくは 小学
2年生

『さっぽろ市民文芸 No.39 2022』札幌市民芸術祭実行委員会編
 定価1320円(税込)


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