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「リスト」とタイトルの意味に震える…『果てしなき輝きの果てに』

今月から、その月に読んだなかで、これは傑作!という本を選んで紹介していこうと思う。エッ、毎月続けられるんですか……と始める前から不安はあるものの、読書メーターや、Twitterに書きおくだけではちょっと物足りないなぁと思うことも多々あるので、ありあまる思いを表出する場を設けておくのもいいのかな、と。

ということで、2021年1月に読んだなかでのイチオシ本はリズ・ムーアの『果てしなき輝きの果てに』である。

舞台は、麻薬が蔓延するフィラデルフィア。そこで警官として働くミッキーは、パトロールをしていても、数ヶ月前から行方知れずになっているヤク中の妹、ケイシーのことが気がかりでたまらない。いつかそのうち遺体となった妹を発見するのではないか、という恐怖から。……そんななか、若い女性を狙った連続殺人事件が起こる。

本書では、「現在」と「過去」のパートが交互に描かれている。過去パートでは、母親をドラッグで亡くし、父親は去り、厳しい祖母に育てられながらも、互いを大事に思いながら生きてきた姉妹の姿が描かれる。ミッキーが真面目な優等生であるのに対して、ケイシーはやんちゃな愛されキャラ。早々に悪い道に引き摺り込まれてしまう。どこに行っても馴染むことができる陽気な妹とそうではない姉。

妹や、日銭を稼いでのらくら生きている親類たちのようではなく(大学に行って人生を変えたいとまで願うミッキーは一族の変わり種だ)、まっとうに生きているのだという自負がある一方で、妹に対する劣等感のようなものも抱いている。このあたりの描写が非常に繊細。一族には馴染めないし、疎外もされていると感じるが、かといって、きちんとした家庭、上の階級にいる人たちにも心を開けない。同業の夫とは何かが原因で別れており、信頼していた元相棒ともいろいろとこじれ……。ミッキーは痛ましいまでに孤独だ。

姉妹二人の道はある出来事をきっかけに完全に分かたれてしまうのだが、単純に「ドラッグのせい」でも「気質の違い」のせいでもない(そこは読んでのお楽しみ)。

ラスト100ページあまり、意外な真相が暴かれ、散らばったピースがあるべきところに収まっていく終盤は、これぞミステリの醍醐味といっていい。

あとは、シングルマザーのお仕事小説という側面も良い。危機迫る、しかし、幼い息子をどこに預けたら、という焦燥にも地味にハラハラさせられる。

そして、冒頭と終盤に出てくる「リスト」とタイトルの意味よ……。

『果てしなき輝きの果てに』は、重く厳しく、つらい小説だ。ドラッグが、依存症がもたらす、あらゆる、ありふれた不幸がそこにある。ただ、読後には静かで深い充足感が待っていることを約束する。

#読書記録 #海外ミステリ


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